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<vol.31の内容>
サイバーエリアリサーチ株式会社 代表取締役社長 山本敬介氏(1)
Webサイトにアクセスしてきたユーザーの地域判定を武器にビジネスを展開するサイバーエリアリサーチ株式会社の山本敬介氏に、起業のきっかけと技術的背景を聞く
地上の物理的距離を消失させ、人と情報を地理的な制約から解放することがインターネットの利点のひとつである。しかし、例えば新聞に地方欄があり、近所のスーパーの特売情報が朝刊の折り込みチラシとして入るように、インターネットにもまた、生活に密着した地域情報のニーズが存在している。従来メリットと考えられてきた特質を、逆転させた発想にこそ新しいビジネスチャンスがある。
ネットビジネスの新たなフロンティアとして、ジオターゲティング(地域絞り込み)に基づく、地域情報の配信が注目を受けはじめた。BtoB、BtoCなどに対応する新しいビジネスフォーマットとして、BtoL(Business to Local)が高い関心を集めている。
ジオターゲティングにあたっての最大の難関は、ユーザーの地域判定である。例えば自治体が、県民向け情報サイトに10万件のページビューを獲得したとしても、果たして本当にユーザーとして想定している県民自身がWebサイトを利用しているのだろうか?
静岡発のネットベンチャー企業であるサイバーエリアリサーチ株式会社はこの問題を、日本のサイバースペースに存在する230万件に及ぶIPアドレスの大部分を地道に調べ上げることで解決しようとしている。同社の技術を利用すれば、ダイヤルアップ経由でWebサイトにアクセスしたユーザーを、同社独自のIPアドレスデータベースをもとに居住地域を瞬時に判定、特定のユーザーに特定地域向けの情報や広告を高い精度で個別に配信することができる。
ネットインサイダー編集部は、サイバーエリアリサーチ株式会社 代表取締役社長 山本敬介氏に、地域判定技術の概要、今後の事業戦略についてインタビューした。
インタビューは2001年4月27日、東京・渋谷のネットインサイダー編集部会議室で行われた。
――まず、会社設立までの経緯を教えてください
山本: とにかく小さいころからコンピュータに興味がありました。しかし、当時はいまよりもずっと高額な商品でしたから、わたしの家では買ってもらえませんでした(笑)。そこで、コンピュータに触りたいという気持ちもあって、高校卒業後に自衛隊に入って、御殿場の陸上自衛隊基地通信隊に1992年から1996年の春まで4年間、通信隊員として勤務しました。
――自衛官を辞めたのは、Windows 95の発売と、その後のインターネットの普及が理由ですか?
山本: まさにそのとおりです。1995年の年末にWindows 95が出て、初めてインターネットに触れました。自衛隊の通信システムは当然ですが非常にシンプルでしたから、かなり衝撃がありました。電子メールにはすぐに夢中になりました。そして除隊して、地元静岡の静岡インターネットに入社しました。
━━ISPに入社されて、どんな業務を担当されましたか?
山本: 営業です。まず午前中はショップの店頭に立って月2000円のISPのダイヤルアップ会員の勧誘をして、午後は法人のホームページ立ち上げの相談にのったり、あるいは企業のイントラネットのファイアウォール構築のプラニングをするというような毎日でした。
━━技術営業の性格が強かったわけですね
山本: そうです。ですから静岡インターネットでの業務経験は、技術的なバックボーンづくりになりました。
━━法人のホームページ立ち上げやファイアウォール構築では、どの程度までタッチされていたのですか?
山本: Webサイト制作では、わたしがクライアントと打ち合わせして概要やグランドデザイン、主なメニューを決めて、あとは専門のサイトデザイナーに任せるという感じでした。ファイアウォールは、クライアントの意向をヒアリングしてセキュリティポリシーを完成させるところまでやりました。
━━現在の事業の着想は、いつごろから持たれていたのですか?
山本: 営業現場で非常に具体的な要望が日々あったのです。例えば、静岡県庁のWebサイトの仕事をさせていただいていたのですが、当然クライアントである静岡県庁さんの立場からは、ホームページを作ってこれだけアクセスが来ているのは分かるけれど、では一体静岡県民は何人見ているの? ということを知りたいわけです。地方自治体の情報発信ということで考えたら、当然ですよね。しかし、当時はそれを知る方法はありませんでした。
また、ある旅館の社長さんから、立ち上げたホームページの広告をやりたいので、広告のメニューを持ってきてくれといわれたことがあります。わたしは、早速Yahoo! JAPANのトップページの広告料金表などを持っていったら、「うちの旅館に来るお客さんは近隣の3県が大部分だから、全国向けにPRする必要はない。新聞広告を打つときもそうしている。だから、この金額を47分の3にした値段で近隣の3県にPRする方法はないのか」、そういわれました。
こういった営業現場で実際にクライアントさんからいただくニーズに触れているうちに、地域情報の配信、地域情報まで含めたアクセス解析を構想するようになり、2000年2月に会社を設立したのです。
━━では、地域判定技術「Surf Point」がどうやって地域情報を割り出しているのか具体的に教えてください
山本: ダイヤルアップでインターネットに接続すると、プロバイダはその都度ユーザーにIPアドレスを割り当てます。
IPアドレスというのは、インターネットに接続されたコンピュータを識別するための、32bitのアドレス情報のこと(IPv4の場合)です。具体的には「202.234.30.1」などのように8bitごとに区切った4つの数字の羅列で表されます。通常は、DNSサーバによって、「www.arearesearch.co.jp」などのドメイン名が当てられます。
現在、国内のISPがダイヤルアップ用にプールしているIPアドレスの数は、総数で約230万件あります。簡単にいえば、日本のインターネットでは230万台のパソコンが同時にダイヤルアップ接続することが可能だということになります。
このIPアドレスは、実はプロバイダごと地域ごとに固定している。だからそれをもとに、IPアドレスと、プロバイダ・地域の対照関係をデータベースとして蓄積していけば、アクセスしてきたユーザーの方が、いったい日本のどこの地域からダイヤルアップでつないでいるのかを知ることができるわけです。これが「Surf Point」の技術的概要です。
━━ユーザーの地域属性以外にどんなことがわかりますか?
山本: 各県ごとの指標を分析することで、そのWebサイトが、どの県に人気があるか、などが分かります。
例えば、230万のIPアドレスのうち、3%が静岡県に割り振られています。従って、あるサイトに仮に500人のアクセスがあった場合、そのうちの3%、すなわち「500×3%=15」で、実際に15人が静岡県民だったら、そのサイトは平均的なアクセスを集めているということになります。
それに対して30人が静岡県民だったら、そのサイトは「静岡県民に人気のあるサイト」だという仮説が成り立ちます。反対に2〜3人しか静岡県民がいなかったら、静岡県民に人気のないサイトなのかもしれません。
こうして得られた情報をもとにビジネスコンサルティングや、広告配信ソリューションなどを提供するのが弊社の「Surf Point」です。
━━地道で手間のかかる作業だったと思いますが、データベース構築にはどのくらい時間がかかりましたか?
山本: 着手してから半年程度かかりました。
━━ISP各社さんは、当然自社のIPアドレスの割り当てのことは知ってるわけですが、まさか聞いても教えてくれないですしね
山本: 実際にISPの会員になって、ダイヤルアップで1個1個つないで試してみるなど、必要なところは手作業で1つ1つ調べました。
━━現在の「Surf Point」が掌握している範囲はどのくらいですか?
山本: 2001年4月時点で、855社のISPをカバーしています。実質的に日本のISPを100%カバーしているといえると思います。
━━日本のISPの事業者数は約1000社ですが、855社で「実質100%」といえる根拠はなんですか?
山本: 4月の調査時点では、日本のISPの事業者総数は1229社でした。しかし実はその中には、営業が休止状態、あるいは半休止状態のプロバイダも多いのです。855社というのは、Webサイトで営業案内を行っているもの、電話や書類などで会員登録申し込みが可能な会社のすべてです。ウェブサイト自体がすでに存在しないISPなどを省いた数字が855社ということで、これが「実質100%」とうたう理由です。
━━ISPによっては、アクセスポイントの数はおろか、会員数すらなかなか公表しない会社もある現状です。これは、ISPのインフラ体力を裸にするような、ISP側からすると嫌がられる調査のように思えます。ISPの反応は実際のところどういったものでしたか?
山本: それが、むしろよくやってくれたという声をいただくことが多かったです。
━━市場だけでなくISPも、ジオターゲティングのニーズがあるということですか?
山本: そうですね。また、地域で活躍されているISPは、これで提案能力が増すということがあると思います。
━━具体的な商品ラインナップを教えてください
山本: 大きく分けて(1)IPアドレス調査事業、(2)業界向け技術提供、(3)地域向けコンテンツ配信技術提供の3つです。また、廉価なアクセスログ解析サービスとして、リアルタイムで県別のアクセス状況が分かるサービスも開始しました。
━━具体的にはどのような商品ですか?
(つづく)
山本 敬介(やまもと けいすけ)氏 略歴 | |
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1974年 2月 | 静岡県沼津市に生まれる |
1992年 3月 | 沼津市立高校 普通課卒業 |
1992年 4月 | 陸上自衛隊 入隊(基地通信隊配属) |
1996年 3月 | 陸上自衛隊 任期満了 退職 |
1996年 3月 | 静岡インターネット株式会社 入社 営業部所属 |
2000年 1月 | 静岡インターネット株式会社 退社 |
2000年 2月 | サイバーエリアリサーチ株式会社設立 代表取締役 |
(現在に至る) | |
(取材:Netinsider編集部)
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