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» 2004年03月16日 12時00分 公開

ビジネスモデリング事始(5):クラス図でビジネスの構造を表現しよう

前回に引き続き、ビジネスを図式化する方法を紹介する。今回はUMLのクラス図を使い、ビジネスの構造を表す手法について説明しよう。

[左川聡,オージス総研]

ビジネスの構造を理解する

本記事は、「ITアーキテクト」と@ITの各フォーラムが展開する、分析/設計工程に焦点を絞った『ITアーキテクト連動企画』記事です。



 前回は、UMLのユースケース図やアクティビティ図を使って「ビジネスの機能」を表現する方法を紹介しました。今回は「ビジネスの構造」についてです。

 プロセスを実現する要素について考えてみましょう。ビジネスの目的が「ステークホルダーに対して経済価値を提供し続けることである」と考えれば、ビジネスを構成する要素は「経済価値を産出する責務を担うものである」と考えられます。生産目的を付与された経済価値の具体的な形態が資産であるので、ビジネスを構成する要素を、「資産」としてとらえることができます。

 資産といえば財務的な資産を思い浮かべるでしょう。しかしこの概念を広義的にとらえれば、財務的なものだけではなく、人的なものや情報なども含めて考えることができます。これら企業を構成する資産を「企業資産」(エンタープライズアセット)と呼びます(本稿ではこれを「資産」と記述します)。

 資産は、それ自体が経済価値であるため、確立するのに経済的犠牲を伴います。従って企業は、資産を確立する(インベストメントプロセス)ために調達した資本を投下するのです(図2参照)。このように考えると、ビジネス構造のモデルは「価値を産出する資産には何があるか」「それぞれの関係はどうなっているか」をクラス図で示したものであるといえます(クラス図についての解説は、本文最後の「関連記事」でご確認ください)。

ALT 図1 クラス図の例
ALT 図2 企業資産(ビジネスを構成する総体が企業資産である)

 それでは、代表的な資産には何があるでしょうか。

 まず、バランスシート上の概念として表される財務的な資産、つまり「財務資産」が考えられます。その中でも、製品仕様や生産方式など知的財産権の対象になるものを「知的財産」ととらえます。また最近は企業を構成する際、ITは欠かせない重要な要素になっているので、情報システムおよび資産によって管理されるべき情報を「情報資産」とします。ここで管理されるべき情報とは、資産自体の役割・機能を実現するために知っておかなければならない知識です。従って、機能が遂行された後も一定期間保管・存在するという特徴を持ちます。

 次に、企業で働く作業者を「人的資産」と考えます。さらに自社の外部にあり、自社と関連する顧客やビジネスパートナー、株主や銀行などのファイナンシャルパートナーも価値を産出するために関連しますので、「外部資産」としてとらえます。この資産および資産が役割を担うために必要な機能を、それぞれUMLのクラス/クラスの操作で表します。

 上述した財務資産や人的資産などの資産を、典型的な資産として図3のように表します。このうち、外部資産はアクターを用いて表します。また、人的資産はワーカー(*1)を用いて表します。また、資産に管理されるべき情報は、エンティティ(*2)を用いて表します。


*1 ワーカーとは、ビジネスモデル化のためのUMLプロファイルを構成するステレオタイプとして定義されているもので、システム内部を構成する人間を抽象化したものを表すクラスです。

*2 エンティティとは、ワーカー同様ビジネスモデル化のためのUMLプロファイルを構成するステレオタイプの1つで、ワーカーが操作する受動的なオブジェクトを表すものです。


ALT 図3 典型的な資産(クリックで拡大)

 次に、資産を配分する先として「組織」を考えてみましょう。ビジネスモデル化のためのUMLプロファイルを構成するステレオタイプの1つに「組織単位」というものがあります。これは現実のビジネスの組織単位に対応するサブシステムです。

 組織単位は、各企業の実際の組織に対応させて記述しますが、その際、ビジネスの目的を構成する各組織単位の目的も明確にします。続いて、その組織単位の下に資産を配分するわけですが、その際パッケージを用いて前述の典型的な資産単位に分類します。このように企業組織を記述してみると、異なる組織に同じ役割を持つ資産(作業者や情報システム)が配分されているなど、構造的な問題が可視化されます。

 それでは、資産の間の関係も含めた構造モデルは、どのような切り口で作成すればよいのでしょうか。

ALT 図4 組織体系(クリックで拡大)

・組織構造(図4)

まず、組織構造を明らかにします。ここでは、どのようなコンセプトで組織化されているのかを明確にします。各組織単位の目的、組織に配分される資産を明らかにします。

・資産構造

続いて、資産構造をクラス図に記述します。ここでは、各資産に焦点を当てて、その役割と責務を明らかにします。また、資産間の概念的な構造も明確にします。

・プロセス構造(図5)

次に、ユースケースとしてとらえられている企業のプロセスを実現するための構造をクラス図に記述します。ここでは、コミュニケーションする作業者や生産設備、情報システムなどの資産の間を関連で結ぶことによって、プロセスに対応する構造モデルを作成します。そして各資産が責務を遂行するために関連する協調相手(コラボレーター)を明確にします。

・ネットワーク構造

これまで企業のプロセスを実現するための役割とその関係を「企業の構造」として考えてきました。これは企業の「論理的構造」を表します。しかし企業の全構造を考える場合、論理的側面だけでは不十分です。各組織単位で行われるビジネス上の手続きが「どこで行われるのか」という物理的側面を明らかにすることも重要になります。

サブシステムで表される各組織単位は論理的な単位ですが、そこで行われるビジネス上の手続きを、ノードに配分可能な物理的な単位として、UMLのコンポーネントで表します。また、それが配置される物理的な資源をノードで表します。

ここではノードを、ビジネス上の手続きがその機能を実行するために必要となる電源などの基盤設備が整備されている資源(オフィスや工場などのロケーションを表すオブジェクト)として使います。このコンポーネントのノードへの配置を配置図で表すことによって、企業のネットワーク構造を表現します。例えば、グローバル展開をしている製造業であれば、部品の製造は本国で行い、アセンブリおよび販売は現地で行うなど、機能の物理的配分は戦略上極めて重要な問題です。そういった意味で、ビジネスモデルとして、論理的構造だけでなく物理的構造をとらえることは意義があります。

 このようなビジネスの論理的構造や物理的構造を表したモデルを「ビジネスストラクチャモデル」と呼びます。

ALT 図5 プロセスの構造(クリックで拡大)

 次回は、ビジネスの振舞いをモデリングする方法およびビジネスモデルの活用について解説します。

このページのポイント

▼ビジネス構造のモデルは、企業資産の関連をクラス図で表したもの

▼代表的な企業資産は、「財務資産」「知的資産」「情報資産」「人的資産」「外部資産」などがある

▼組織構造、資産構造、プロセス構造、ネットワーク構造などの切り口で資産間の関連の構造を記述する

▼機能を論理的・物理的配分した「ビジネスストラクチャモデル」の作成は、経営戦略上きわめて重要


profile

左川 聡(さがわ さとし)

オージス総研 UML技術チーム所属。UMLビジネスモデリング、EAのソリューション整備や教育およびコンサルティング業務に従事している。


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