自社に必要十分な要件定義を考える企業システム戦略の基礎知識(3)(1/2 ページ)

情報システムを構築する際、何を作るか──つまり要件定義のフェイズが極めて重要だ。自社の業務に必要なシステムの要件はどのように定めていけばいいのか?

» 2005年01月28日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]

 最小の投資で最大の効果を生む「もうかるシステム」を構築できるか否かは、要件定義の段階で半分ほどが決定されてしまう。仕様書作成以降は、システムに対する要件を実際のシステムとして実現していくための詳細化(HowTo)にすぎない。システムに対する要件とは、ビジョンを実現するための必要最小限の要求事項(What)である。多過ぎても、少な過ぎてもいけない。「過不足なく」というところが、ミソである。

情報処理の基本は5W2H

 5W2Hとは、Who、When、Where、What、Why、How、How Muchのことである。システムに対する要件は、これですべて記述することができる。なぜなら、連載第1回の「ITの本質」の項でも述べたように、情報処理は「読み・書き・そろばん」だからである。ビジョンを達成するための業務プロセスを5W2Hで整理して、それを図式化したものが、データフロー図業務モデルと呼ばれている。

 まず、現状の業務プロセスを図式化してみる。この図式化することが重要で、ビジョンとの整合性確認や以降の作業において、常にメンバーが参照し議論することができる。次にビジョンを達成するために、どのように業務プロセスを変えていくのか、どの業務プロセスをITで支援していくのかを検討する。

 検討の視点は、やはり5W2Hである。Whoを変えてみるとどうなるか。例えば、材料の購買を、現状の購買担当者から設計者に代えることで戦略的な購買業務を実施し、製品コストを削減するというような具合だ。そうすると、設計者が購買を行うには、どんな情報が必要になるかを考える。その情報の質・量・タイミングを検討した結果、ITを利用した方が有効であると考えられる場合、それがシステムに対する要件となる。

 業務プロセスを変えないとしても、Howを変えてみるという場合もある。その業務で扱う情報の量が多い場合、そこにITを利用してスピードアップする。それが、「ビジョン」を達成する方法であるなら、それでも構わない。Howを変えることにより、Whenを変えるのである。情報の量が膨大で、「読み・そろばん」に時間がかかり、「書く」が、翌日とか半日後とかになってしまうという現状が、即時にスピードアップすれば、それが顧客満足、競争力強化につながることもある。

5回の「なぜ」で、シナリオを検証

 さて、前述の例で、情報処理をITでスピードアップすると、Whenが変わり、それが顧客満足や競争力強化につながると書いたが、本当にそうだろうか。

 それで本当にもうかるのか、ここで5回の「なぜ」を繰り返して、シナリオの因果関係を検証する必要がある。情報処理にITを利用すると“なぜ”スピードアップするのか。スピードアップすると、“なぜ”Whenが変わるのか。Whenが変わると“なぜ”顧客満足が得られるのか。顧客満足が得られると“なぜ”もうかるのか。

 このように、原因(システム要件)から結果(もうけ)に至るまでのシナリオを十分に掘り下げ、そこに矛盾や飛躍がないかを検証する。こうすることで、ビジョン実現に対して、システム化自体が目的化してしまったり、ムダな要件が入り込むことを防止する。バランスト・スコアカードの学習と成長→社内プロセスの高度化→顧客満足→業績向上はシナリオのテンプレートとして使用できる(『戦略とは因果関係の仮説である』──ロバート・キャプランの言葉)。

 あくまで「ITを導入すればもうかる」のでなく、「もうかるように」ITを導入することだ。そこを忘れてもうけにつながらない要件を盛り込み過ぎてシステム構築費用が膨れ上がったり、人間系がやるべきプロセスまでシステム化要件としている例が少なくない。

システム=人間系+機械系

 システムというのは、一般には「系」のことであり、これには人間系と機械系がある。システムに対する「要件」とは、機械系に対する要件だけでなく、人間系に対する「要件」も一緒に、整理しておくべきである。なぜなら情報を活用して「もうけ」につなぐのは、最終的には人間だからである。人間不在の情報処理はあり得ない。どんなに立派な顧客情報管理システムに対する要件を決めても、その顧客情報管理システムを使い「読み・書き・そろばん」を行うのは人間なのだ。

 「もうかるシステム」の要件は、人間が「もうける」ために、機械系を利用し、得た情報から、どういった行動を取るのかを想定した、相互作用を規定したものである。相互作用とは、前述のシナリオといい換えてもよい。従って、人間系に対する要件も決めておかないと、機械系側も有効に働かない。決めた要件は、業務標準やマニュアルとして文書化し教育訓練で定着化する。

 運用段階で想定した効果が生まれない場合、シナリオに飛躍や矛盾があるために、この人間系と機械系の間で、要件の衝突や不整合、不徹底が発生している場合が多い。

 単に人間系の仕事を機械系に置き換えるだけでなく、人間系と機械系が相乗効果を生むような要件定義が、会社を強くする。なぜなら、会社自体が1つの情報処理システムだからである。

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