「ふりかえり」でプロジェクトを改善する初めてのプロジェクトリーダー(6)

» 2005年07月29日 12時00分 公開
[岡島幸男,永和システムマネジメント]

 ここまでの連載でも何回か触れていたのですが、プロジェクトの運営には、「より良く・より使える」方式への改善が重要です。今回は、さまざまな場面で改善を行うのに有効な、「ふりかえり」の実践です。最近メジャーになってきた感のあるKPT法の使い方、バリエーションについて主に説明していきます。

KPT法とは

 KPTは、それぞれKeep、Problem、Tryの頭文字で、それまでの活動を、それぞれ、良かったので次もやりたいこと(Keep)、問題だったので次はやめたいこと(Problem)、次にやってみたいこと(Try)の3つの軸で整理する方法です。

 この方式の主な特徴は、

  • シンプルで分かりやすく、理解しやすいこと
  • アナログ的で親しみやすく、参加しやすいこと
  • 「見える化」されているので、外部の人でも状況が分かりやすいこと

なところが挙げられます。そのせいか、参加者の「食いつき」が良いようで、次々と利用者が増えていくことも特徴です。

メンバーとKPTする

 まずは、基本形。プロジェクトの「ふりかえり」として、メンバー全員で行う場合は、まずは、ホワイトボードや大きい模造紙を、以下の図のように3つの区画に区切ります。

ALT KPTの基本形

 次に、大きめの付せん紙に、参加者それぞれが「良かったこと」「問題だったこと」「次にやってみたいこと」を短い文章で書き込んで、それぞれ対応する区画に張り付けていきます。たくさん出てきたら、似ている内容はまとめていき、「いまどのような問題が発生しているのか」「メンバーはどのようにしたら良いと考えているのか」を整理します。

 リーダーであるあなたも、メンバーに交じって参加してください。できれば、進行役(ファシリテーター)として、上司に仕切っていただくと良いでしょう。プロジェクトの状況を知ってもらう良い機会にもなります。書き込むテーマは、基本的にはフリーですが、教育効果を狙って「技術セッション」で、アーキテクチャの改善について議論したり、リラックスを狙って「生活セッション」で、コミュニケーションを深めるような使い方もあります。

プロジェクトリーダーにとって貴重な時間

 プロジェクトリーダーにとって、メンバーとのKPTは貴重な時間です。普段は問題をあまり口に出さないメンバーでも、このKPTを使うと貴重な発言をしてくれることが多いからです。また、メンバーの性格をつかむ良いチャンスでもあります。実際にやっていただければ分かると思いますが、メンバーそれぞれ考え方や、性格の違いはいろいろあっても、ほぼ皆同じ問題を感じていることがよく分かるはずです。

 繰り返し型の開発プロセスを採用している場合は、イテレーションの終了時に時間を取って行いましょう。改善の良いチャンスです。

 おそらく、最初のイテレーションでは、Problemが多く、Keepが少ないでしょう。が、それは正しい姿です。最初からProblemが発見されないということは、参加しているメンバーに問題意識が足りない兆候だと考えてみてください。そして、Problemに対する対応策が、Tryに出てくるかチェックしてください。目的・課題・アクション原則に従い、次のアクションとして、Tryの項目が必要になります。

 「ふりかえり」を行ったタイミングでアクションを起こさないと、また次でProblemとして挙がってきます。実際の開発現場では、「問題だと分かっていても、時間がなくてできなかった」ことが山ほど発生しますが、筆者の経験では、「ふりかえり」に慣れたメンバーほど、積極的に改善に動こうとします。

メンバーを導く手段として

 もう1つ、本来的な使い方ではないとは思うのですが、プロジェクトが迷走し始めている場合や、メンバーがバラバラの方向を向いてしまっている場合などに、メンバーを導く手段として、KPTのスタイルを使う手もあります。

 Keep、Problem、Tryの各項目に、あなたの考えをはっきりと示し、今後、プロジェクトが歩むべきストーリーを表現してしまうのです。今、どのような問題が発生しているのか、そして、今後、どう改善していく必要があるのか。これらを正直に書きます。多少強引な軌道修正になる可能性もありますが、このような場合でも、KPTの軸に沿っているので、理解しやすく、納得を得られやすい方法だと考えます。

お客さまとKPTする

 次に、このKPTにお客さまを交えるとどのような効果があるでしょうか? 筆者の所属する部署では、お客さまとのKPTを積極的に推進しています。開催頻度はメンバーと行うそれに比べて、それほど多い必要はありません。プロジェクトの終盤に行えばよいでしょう(お客さまが希望されるのであれば、積極的に開催してもよいでしょう)。

 このKPTには、お客さま、プロジェクトマネージャ、リーダーであるあなた、プロジェクトメンバー全員が、なるべく参加できるようにセッティングします。

 プロジェクトリーダーのあなたにとっては、手腕が評価される貴重な場です。お客さまからの評価は、顧客満足度志向を価値とするプロジェクトリーダーにとっては、最も重視すべきことです。あなたの打った手が、どれほどKeepされるか、どのようなアクションがProblemに結び付いてしまったか、真摯に受け止めましょう。

 もちろん、メンバーにとっても貴重な時間になります。特に、それまであまりお客さまと接する機会がなかったメンバーが、お客さまの考えを直に聞き、また、メンバーのプロジェクトに対する考え方、貢献度をお客さまにアピールする場になります。

 お客さまからたくさんのProblemが出されるかもしれません。しかし、これは、そのまま次のTryのチャンスとしてとらえてください。

1人でKPTする

 KPTは1人でも行うことができます。ただし、1人で行う場合は、「ふりかえり」法というよりは、整理法に近い感覚として使います。思考の道筋が3つに固定されているので、短時間で次のアクションを導くことができます。仕事だけでなく、普段の生活にでも手軽に応用できる、手軽な思考フレームワークです。

Myしかみ像

 最後に、ちょっと毛色の変わった「ふりかえり」を。しかみ像というのは、徳川家康が、武田信玄に破れ、命からがら逃げ出した直後、絵師に書かせたといわれる絵です。家康は、この疲れ切った情けない顔を常に手元に置き、天下人となった後も、自分のおごりを戒めたといいます。

 これは1つの精神論ですが、「しかみ像」のエピソードを、自分のための「ふりかえり」として応用します。もちろん、実際に絵を書いてもらう必要はありませんが、あなたがいままでで一番、「お客さまを満足させられなかった」仕事や、プロジェクトを常に心に1つとどめておいてください。そして、つい、手を抜いてしまいそうなときや、逆に、厳しい状況に追い込まれそうなときに振り返ってみてください。


 今回までで、一通り、プロジェクトリーダーに必要な、価値・原則・実践の説明は終わりました。次回は、これまでの連載を振り返り、連載内容のまとめを行う予定です。

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