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» 2005年09月10日 12時00分 UPDATE

特別企画:ITSSの現状を探る(1):人的組織の成熟度に合ったITSS導入とは(前編) (1/2)

筆者がITSS導入のコンサルティングを進める中で、企業の人的組織の成熟度に合った導入が不可欠であることに気付いた。ここでは、ITSS導入の日本企業における意義、成熟度に合ったITSS導入の必要性を述べたうえで、「People CMM」を取り上げ「成熟度に合ったITSS導入とは何か?」を明らかにする。

[井上 実,@IT]

 ITベンダやユーザー企業のシステム部門、システム子会社のITプロフェショナル人財(ここでは人的資本を「人財」という言葉で表す)育成を目的としたITSS(ITスキル標準:IT Skill Standard)導入のコンサルティングを進める中で、企業の人的組織の成熟度に合った導入が不可欠であることに気付いた。

 ここでは、ITSS導入の日本企業における意義、成熟度に合ったITSS導入の必要性を述べたうえで、人的組織の成熟度モデルとして「People CMM」を取り上げ、「成熟度に合ったITSS導入とは何か?」を明らかにする。

ITSS導入は日本企業に何をもたらすのか?

 ITSSはIT人財の効果的な育成、IT技術者のキャリアパスの確立を容易にするために、IT業界におけるスキルの共通言語・ものさし・辞書として、2002年12月に経済産業省から発表された。発表から2年半が経過し、大手ITベンダだけではなく、ユーザー企業やシステム子会社への導入も進んでいる。ITSSでは、11種類の職種、38種類の専門分野が設定されている(表1参照)。

(表1)スキル・フレームワーク(クリックで拡大)
r3image01.gif 出典:「ITスキル標準V1.1」12ページ/経済産業省/2003年7月

(1)職種・レベルの定義は職務定義か?

 ITSSを導入するためには、ITSSで定義されている職種・専門分野から自社で必要な職種・専門分野を取捨選択する必要がある。また、ITSSで定義されていない職種・専門分野がある場合には、「ETSS(組み込みスキル標準:Embedded Technology Skill Standards)」や「経理・財務サービススキルスタンダード」のような、ほかのスキル標準から該当するものを選択したり、あるいは自社で独自に定義する必要もある。

 このようにITSSの導入には、ITプロフェショナルという限られたエリアではあるが、職種・専門分野の内容および、それに必要なスキルを自社用に定義することが必要となる。これは、日本企業が苦手としている仕事の内容を定義する職務定義を行い、なじまないといわれていた「職務制度」を導入することと同じではないだろうか?

 米国企業で一般的である「職務制度」と、日本企業で一般的である「職能制度」との差を明確にしたうえで、ITSS導入の日本企業における意義を考えてみる。

(2)職務制度と職能制度

 米国では、詳細な職務分析により定義された職務定義に基づく人事制度である職務制度が一般的である。詳細に仕事を分析し、職務内容をできる限り明確に定義した職務記述書と、その職務を遂行するために、必要な能力要件や経験を記述した職務明細書が作成される。これらに記述された職務定義によりレベル分けが行われ処遇が決定する。採用も職務定義に基づき募集が行われ、現場主体で採用が決定する。

 一方、日本では1973年のオイルショック以来、年功序列制度に代わる人事制度として職能制度が多くの企業で採用された。職能制度は従業員の職務遂行能力(職能)に注目してレベル分けが行われ処遇が決まる。職務定義と同様に、職能を定義した職能要件定義書が作成されるが、その内容は職務定義と比較すると非常にあいまいであり、抽象的な表現のものがほとんどである。また、中途採用以外は職務を限定せずに募集が行われ、人事部門主体で採用を決定し、入社後に職務が決められる。

 この日米の人事制度の差は、キャリア開発においてもスペシャリスト(プロフェッショナル)志向の米国に対して、ゼネラリスト志向の日本という差にも明確に表れている。職務定義に基づき募集・採用が行われる米国においては、個人は採用前に職務にふさわしいスキル・知識を持っていることが期待されるため、目標とする職務に合った能力開発を個人で行う必要があり、スペシャリストを目指すことになる。

 日本では職務を限定しない募集・採用であり、入社後多くの部署をローテーションすることにより、幅広いスキル・知識を身に付けることが求められることから、ゼネラリスト志向となる(表2参照)。

(表2)職務制度と職能制度
米国企業 日本企業
人事制度 職務制度 職能制度
採用 職務ごとの採用 職務を決めずに採用
配置 職務ごとの配置 企業内ローテーション
キャリア スペシャリスト指向 ゼネラリスト指向

(3)日本企業にITSSを導入する意義

 ITSSの定義書の副題「〜IT サービス・プロフェッショナル育成の基盤構築に向けて〜」にあるように、ITSSはITプロフェショナル人財育成のためのものである。従って、ITSSを日本企業に導入するということは、IT関連部門という限られたエリアではあるが、従来のゼネラリスト志向のキャリア開発・人財育成から、スペシャリスト志向に転換するという大きな意義がある。

 そのため、スペシャリストに適した職務制度を構築するのと同様な取り組みが、ITSSを導入する際に、企業内で行われなければならない。職務制度の基盤である職務定義に当たるのが、前述したITSSを活用した職種・レベルの定義である。そして、定義した職種・レベルをベースに給与などの処遇を決めるのであれば、まさに職務制度を採用することになる。

 しかし、実際には定義された職種・レベルを給与・処遇に連動させず、人財育成のためのみに活用する企業が現状では多い。個人の職種・レベルを認定したうえで、目標面談の中でキャリアアップのための育成目標を設定し、研修・教育、実務経験の場の提供を行い、年度末に育成結果を評価して翌年の育成計画を立案する(図3参照)。あくまで、目標による管理の一項目として、また、人財育成のベースとして、職種・レベルを活用するに留めている。緩やかな職能制度から職務制度への移行を図っているとみることもできるであろう。

(図3)目標面談による人財育成
r3image02.gif

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