ところが、上記のスキル以前に、情報システム部門のメンバーが社内の情報システムのプロデューサー役を果たすために欠けている能力が実はあった。それは、A社社員としてというよりも、ビジネスマンとしての基本的な能力であった。
こういった能力すらも、これまで体系的に人材育成を行っていたわけではないので、基本的なレベルでばらつきがあるのは、当然といえば当然のことであった。そこで、人材コンサルタントとともに、ベーシカルスキルとして、以下のようなスキルをベースに育成することも視野に入れた人材育成を行うこととした。
(ベーシカルスキル)
これまでの検討を基に、A社情報システム部門では、同部門が求める具体的な人材をイメージした。具体的には、以下に示すような4つの人材を定義し、それらを目指すようなカリキュラムを組み、研修を実施する必要があるという結論に至った。
A社情報システム部門に必要な人材像やそこに求められるスキル、そしてそれを養成するためのカリキュラムがで出来上がり、後は実行に移すのみとなった。
多忙を極める現場に対して、強制的に研修のために時間を割り込み、研修を実施していった。どこかから持ってきたものでもなく、A社独自で考えたものであり、経営陣の考えにもフィットした内容で、研修の計画自体は大変立派なものであった。
A社情報システム部門内には、人材育成を専門で担当するチームを立ち上げ、研修を実施していった。ベーシカルスキルの研修と、情報システム部門のメンバーとして最低でも持っておかなければならない知識については、情報システム部門のメンバー全員に受講させるべく、何度も研修を行い、まずは受講率を高めることを目標に動き始めた。
受講者の意見などもフィードバックさせるために、研修後はかならずアンケートを採り、受講者の満足度の調査から、今後の研修に向けての改善点を集めることも行った。
やがて、情報システム部門ほぼ全体に研修が一回りしたころ、アンケートでの意見がほぼ次のような点で収束していった。
最初は、経営陣の要求やコンサルタントが求める理想が高過ぎて、現場とのギャップが発生しているだけだと考えられていた。これはある程度仕方がないことで、繰り返し行うことで徐々に組織としての文化というか考え方が変わっていけば、この研修の方向性におのずとフィットしていくものだと思われていた。
しかし、受講後のアンケート結果は最初のころから変化はなく、また現場も研修を受講したからといって、それが反映されつつある雰囲気はまったくなかった。要するに、研修の中身とコース設定に大きな問題があるとしか思えない結果が出つつあったのである。
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