三菱東京UFJ銀行に見る「情報マネジメント」の実践例“情報洪水”時代の情報流通戦略論(2)(1/2 ページ)

情報が多過ぎる──この今日的な問題を解決する情報戦略コンセプト「情報マネジメント」の実例として三菱東京UFJ銀行の取り組みを紹介する。

» 2006年03月18日 12時00分 公開
[吉田 健一(リアルコム株式会社),@IT]

本稿は、リアルコムが発行するPR誌「VISION」に掲載された記事「情報マネジメントがもたらす個と組織の能力向上」に加筆・修正を加えたものを、許可を得て転載したものです。


 前回は次世代の情報戦略として、「情報マネジメント」の概要を解説した。それでは、情報マネジメントとは具体的にどのようなものなのだろうか。ここではまず具体事例として三菱東京UFJ銀行※の事例を紹介していく中で、情報マネジメントの全体像を説明していきたい。

※プロジェクト開始当時は、「東京三菱銀行」。

三菱東京UFJ銀行の決意

 1990年代後半以降、日本の大手金融機関はバブル経済の「負の遺産」である不良債権の処理に追われ、守りの統廃合を続けてきた。その中にあって、三菱東京UFJ銀行はいち早く不良債権処理にめどをつけ、グループ再編による経営の効率化を進めるなど、唯一攻めの姿勢を貫くメガバンクといえる。

 そうした同行がいま、強力に推し進めているのが、「旧来からの中央集権的な意思決定/業務プロセスを自律分散型に転換する」という業務改革だ。この改革の根幹を担って2003年よりスタートしたのが、「OPEN」と呼ばれるプロジェクトだ。

 上意下達の官僚的な組織とされてきた三菱東京UFJ銀行があえて掲げる「OPEN」というキーワード──ここに三菱東京UFJ銀行の将来のあるべき姿を見据えた改革への強い意思が表れている。全行員が失敗を恐れずオープンにものがいえ、トップのビジョンがオープンに伝わり、そのフィードバックもオープンに行える。本部と営業店との壁を取り払い、必要な情報をオープンに共有する──このような「オープンな組織」を支えるITプラットフォームを構築し、行員の生産性と創造性の向上を図るのがプロジェクト「OPEN」である。

情報共有プロセス見直しへの道

 三菱東京UFJ銀行における情報共有の取り組みは、以前より行われていた。同行は1996年にIBMのグループウェア「Lotus Notes」を用いて、業務遂行に必要な情報を集めた文書データベースを構築し、情報を発信する体制を作った。しかしながら、Notes上で扱われていた情報の多くは、各支店ないし部門・部署ごとに管理されるため、結果として各所のNotes DBに分散して配置されていった。次々と情報は増え続け、最終的にはデータベース数は1200、文書数は約9万にも膨れ上がった。

 金融業界では商品・サービスの多様化・複雑化が進展しており、営業店のスタッフは1つの商品やサービスでも、複数の部署が発信した情報を参照しなければならないことが多い。しかし、こうした状況では必要な情報の在りかや特定の情報保持者を組織横断的に探し当てるのは極めて困難であり、営業店スタッフの業務効率が悪化していた。また、逆の視点で見れば、本部スタッフが多大な労力を掛けて作成した情報資産が効果的に活用されていないという無駄が生じている、ともいうことができた。

 さらにこうした情報共有プロセスには本部から支店へのトップダウンのフローが組み込まれており、現場が情報を発信せず受け身の姿勢になってしまっているという官僚的組織の行風にもつながる問題であった。

 こうした状況を危惧した総合企画室は「出し手本意から受け手本意の情報共有プロセスへ」を掛け声に、情報共有の仕組み全体を根本から見直すことにした。そして、この見直しを契機に、情報共有のIT環境を旧来のNotesから、「知力のマーケット」と呼ばれるWeb上の情報共有の場へと切り替えることに決めた。

プロジェクトは、情報の整理から

 同行での情報共有プロジェクトは、まず「捨てる」ことから始まった。まず、各支店・部門の担当者に協力を仰ぎ、Notes上に蓄積されていた約9万件の情報の「棚卸し」を行った。9万件の情報のうち、残す価値のあるものを絞り込むと2万に絞られた。さらに、利用頻度が高く頻繁に活用するものをあぶり出すと6000件になった。この6000件のみ、新環境である「知力のマーケット」に移行した。こうした、情報の品質を見極める作業は自動化することができないため、事務局そして各支店・部門の担当者に多大な人手を強いることになった。しかし、この「捨てる」作業によって、得られた果実も大きかった。蓄積されるだけで鮮度・品質が分からなかった膨大な文書が整理され、行員が求めている文書にアクセスしやすくなり行員の生産性が向上したのである。

 次に、「知力のマーケット」上では、この6000の情報を業務で活用しやすい形で分類した。その際には、情報の「受け手本意」の発想を徹底し、「受け手」の業務に合わせた形で分類した。例えば、「個人顧客向け」の業務関連の情報は、業務または商品による分類と業務プロセスによる分類の2つを組み合わせた(図8)。業務プロセスが「提案」「事務」「事後処理」といった具合に、顧客に対する業務活動を念頭に置いて設定し、この分類の中に情報を当てはめていった。こうすることで、情報の利用者は、業務に則した形で適切な情報にアクセスすることができるようになった。

図8 業務プロセスと商品軸による情報の整理

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