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» 2006年10月18日 12時00分 UPDATE

プロジェクトの成功に本当に必要なもの(2):全員が「明るい、楽しい」と感じるチームにしたい

[今村智,HOP2E]

前回「優秀なプロマネはメンタルな働きかけもうまい」から少し間が空いてしまいましたが、第2回目の今回は、リーダーに求める心の在り方をお伝えしたいと思います。といっても、1回目をご覧いただいた方であればお分かりだと思いますが、道徳的な話をするつもりはありません。結果として道徳的な話と同じ内容となるかもしれませんが、心理的な裏付けによって、チームのパワーを最大化するために必要な心の在り方にフォーカスしています。

2つのコミュニケーション

 コミュニケーションは、コミュニケーションを取る相手の違いから2つに分類されます。1つは、他者とのコミュニケーション。もう1つは自分自身とのコミュニケーションです。

 前者については、ビジネス書などでも「説得術」「販売テクニック」「リーダーシップ」といったキーワードを基に書かれることが多いので、普段からなじみがある方もいると思います。一方で後者は、どちらかというと、セラピー、カウンセリングに関する書籍で扱われるものとなり、なかなかITプロジェクトの現場の方の目には触れにくいものかもしれません。実際に、私のセミナーに参加された方に聞いてみると、非常に新鮮な驚きを感じられる方が多く、以前から知っていたという方はいままでに数名しかお会いしていません。

 しかし、いうまでもありませんが、自分自身とのコミュニケーションに問題を抱えていては、他者とのコミュニケーションを良好にすることはできません。チームメンバーに良い影響を与えるためには、まずは自分自身に良い影響を与えられなければならないのです。

 そのため、今回はリーダーに求める心の在り方として、考え方や、自分自身とのコミュニケーションについてオムニバス形式でお伝えしたいと思います。

在り方 その1:信頼関係は受容から

 あなたは、子供のころに、自分が生まれ育った土地の言葉とは異なる方言または標準語を話せるようになったという経験をお持ちでしょうか? あるいは、自分自身ではないけれど、友人、知人がそのような経験をする過程を一緒に経験したことはあるでしょうか?

 多くの方が、どちらかのご経験をお持ちだと思います。あるいは、自分の言葉が変わることをかたくなに拒否し続ける人もいたかもしれませんが、そうした方をご存じでしょうか?

 簡単に言葉を変える人と、絶対に変えようとしない人との間には何か違いがあるのでしょうか? どこに転校しても上手に仲良くやれる人と、どこに行ってもなかなかなじめない人ということでは、転校する本人の性格によるところも確かにありますが、ここでは、通常では力関係の強い方、つまり受け入れ側についての違いにフォーカスしたいと思います。

 前者のケースの場合、受け入れ側の姿勢はどのようなものでしょうか? おそらく、転校してきた相手を歓迎したのではないでしょうか? そして、後者のケースでは、転校してきた相手を否定するということがあったと思うのですがいかがでしょうか? 例えば相手のなまりをからかったり、ちょっとした嫌がらせをしたりするといったことも同じです。

 このことがリーダー、マネージャの在り方にどのような関係があるのかというと、 影響力の本質を理解するのに必要なことを示唆しているのです。通常、リーダーやマネージャは、部下やメンバーからより良い成果を引き出そうと、いろんなアドバイスをします。

 しかし、多くの方が悩んでいるように、そうしたアドバイスもなかなか効果を発揮しません。一方で、アドバイスはほとんどしないけれど、その態度、姿勢、心構えでもってチームに大きな影響力を持っている人もいます。この両者の間での決定的な違いが、相手を受容しているか否かにあるのです。人は、受け入れられることで相手を信頼します。そして信頼した相手からは、自分でも気付かないうちに影響を受けるようになるのです。

 使う言葉が簡単に移るのは、受け入れられたことによって相手を信頼した結果なのです。信頼関係もない相手に対して、どんなアドバイスをしても期待する効果は得られません。まずはあるがままの相手を受け入れるところから始める方が近道なのです。

在り方 その2:常に自分から変える

 いきなりですが、自転車の補助輪を外したときのことを思い出してみてください。補助輪の付いていない自転車に初めて乗ったときには、左右どちらかに傾き過ぎれば倒れますし、バランスに気を取られてペダルをこぐ力が弱ければこれまた倒れてしまいます。

 ですから、私たちは、「倒れずにすいすいと進む」という望むべき結果を手に入れるために、左右どちらかに傾き過ぎていると感じれば、傾きを補正するためにバランスを変えてみたり、バランスを取りやすいようにペダルをこいでスピードを上げてみたりします。とにかく自分の欲しい結果が得られるまで、自分の行動を変え続けます。

 もしも、ここで自転車に向かって「何で倒れずに走ることができないんだ?」と怒鳴りながら、自分は何も変えようとしない人がいたらどう思うでしょうか? 自分はバランスを取ろうとせず、自転車が勝手にバランスを取って、自分の行きたい方に進んでくれることを期待しているとしたら、そのような期待をすることがおかしなことであると考えるはずです。確かにそのように無意味に物に当たることもあるかもしれませんが、そのことが欲しい結果を得ることにはつながらないということは、誰もが承知のことと思います。

 ところが、相手が自転車から人になると途端に態度が変わる人がたくさんいます。

「何度同じことをいわせるんだ!!」

というせりふは、親子間でも、上司部下の間でも、とにかくあちこちで聞くせりふではないでしょうか? 果たして、先の自転車に文句をいう人と、「何度同じことをいわせるんだ」という人との間には何か違いがあるのでしょうか? 少なくとも、自分を変えずに相手を変えようとしているという点においては同じではないでしょうか?

 Aといったら、相手はBという反応を返しただけです。でもあなたはCという結果が欲しかった。ここで、Aといい続けることで、いつかはCが得られるだろうと期待するのではなく、「Aに対してBという反応をするということは、Cという反応を得るためにはXといういい方をしてみるとどうだろうか?」と考え、Cが得られるまでX、Y、Zと試していく方が、円満かつ効率的に欲しい結果にたどり着く可能性が高いのです。

 実は、問題のとらえ方は2つしかありません。2つの問題のとらえ方とは、自分に問題があるととらえるか、他人や外部環境などに問題があるととらえるかの2つです。あなたはどちらの傾向が強いでしょうか? どちらが良い悪いとはいいませんが、楽しいのは前者なのです。「自分に問題がある=自分で改善する余地が残されている」ということで、自分にはまだチャンスがあることになるからです。

 他人や外部環境に問題があるととらえた場合には、悪いのは他人、外部環境=自分は変える必要がない、となってしまいます。実は変える必要がないということは非常に心地よい楽なことなので、その状態にとどまり続けることになり、自分自身の変化、成長のチャンスをなくすことになります。また、さらに重大なことは、この状態ではあなたの悩みは解決しないということです。

 なぜなら、悪いのは他人、外部環境=自分には変えることができない、ということを心の奥で認めたことにもなるからです。例えば、「このチームでは××できない」とか、「この会社では××できない」と会うたびにいっている人がたくさんいます。その人に「本当にそうだとして、それでは別の環境に移るために具体的な行動をしていますか?」と聞くと、ほとんどの人が何も行っていないことに気付きます。自分の外に問題を置いたことによって、本当は自分で解決できることまで、解決できない状態になってしまうことが多々あります。

 リーダー、マネージャの方からも、上記と同じように「メンバーが期待どおりの仕事をしてくれない」「会議で建設的な意見が出てこない」「このチームでは無理だ」という言葉をたくさん聞きます。私自身、偉そうに書いていますが、ついつい人のせいにしたくなることがあります。でも、そのまま人のせい、環境のせいにしてしまって問題が解決したことはありません。「人のせいにしてはいけない」というのは、モラルではなく問題解決のチャンスを手放さないための原則です。

 例えば、「メンバーが悪い」といってしまうと、その先はメンバーを変える/替えるという選択肢しかなくなってしまいます。ところが、「チームの目標は××である。チームの資源としては、××、××、××がある。この目標を達成するために、このメンバーで何ができるか?」という質問を自分自身に行うことで、全く違う答えが出てくることになります。よく、「脳は、質問すればその答えが見つかるまで探し続ける」といわれます。

 であれば、本当に欲しい答えは何なのか? その答えが得られる質問は何なのか? ということを真剣に考えて、良質の質問をすることがリーダー、マネージャ、チームメンバーすべての人にとって大切なことではないでしょうか?

チームの雰囲気を改善する簡単な方法

 いままでに大小さまざまなプロジェクトチームを見てきましたが、それらの経験から、とても興味深いことに気付きました。といっても、何も私だけが知っている特別なことではなく、あなたもよく知っていることだと思います。

 それは、プロジェクトの状況にかかわらず、明るく楽しいチームと暗くてつらそうなチームがあるということです。そして、明るいチームと暗いチームには、明確な違いがあります。「明るいと暗いじゃ、明確な違いがあって当然じゃないか」というツッコミをされそうですが、ちょっと待ってください。それでは、暗いチームを明るくすることはできますか?

 できないのであれば、それは本当の違いにまだ気付いていないのかもしれません。では、その違いは何でしょうか? 違いは1つとは限りませんが、明らかに共通して見られる違いがあります。その1つが体の状態です。ここでの体の状態とは、動くスピードだったり、呼吸のスピード・深さだったり、姿勢、表情、視線を指します。暗い雰囲気を発しているチームのメンバーを見ると、肩が落ち、猫背気味になり、視線は下を向いています。会議でも下を向いているメンバーが多いものです。一方、明るいチームのメンバーは、体の動きが軽かったり、笑顔だったり、前を向いていたりします。このことは、あなたの周りの人々をよく観察していただくと分かっていただけると思います。

 普通は、暗くなっている人に、「明るくしろよ」いったところで、できればとっくにやっていると怒られておしまいです。しかし、姿勢を変えてみるように伝えることは可能です。もう少しボスゴリラのように胸を張ってゆったりと動いてみるとか、会議でうつむいているのを、資料を目線よりも上の位置に映し出して上を向くようにしてみたりします。そうすると、不思議なことに、気分も変わるのです。実はこれは不思議でも何でもなく、体の使い方と感情は密接に関連しているからなのです。

 「そんなことをいっても、いい続けなければ、すぐにやらなくなるんじゃないか?」という方のために、簡単で長続きしやすい方法をお伝えします。

 まず、プロジェクトルーム(スペース)の入り口の床に、ビニールテープなどで、足型または仕切り線を付けます。そして、プロジェクトルームの領域に入るときはそこでいったん深呼吸をして、姿勢を変えるというルールにするのです。

 ただ、メッセージを伝えるだけでなく、実際に日常生活の中で、意識しやすいものと結び付けるということです。入り口に目に付く目印があれば、それを目にするたびに姿勢のことを思い出すことにもなるのです。

 話は少し変わりますが、明るい、暗いということについて補足しておきたいと思います。よく、コミュニケーションが大切=コミュニケーションを頻繁に行うという解釈がなされるようですが、私は、誰もがほかのメンバーとコミュニケーションを取りたがっているとは考えていません。事実、1人になることで元気になる人もいれば、人と話をすることで元気になる人もいます。ですから、全員に「もっとコミュニケーションを取ろうよ」といって、相手の意向、タイプを考慮しないことには反対です。

 ただ、本人が「暗い」と感じる状態では良い仕事はできないと考えています。ですから、明るいチームにこだわるのです。おしゃべりなチームである必要はない。ただ、全員が「明るい、楽しい」と感じるチームにしたい。そのための簡単なテクニックの1つとして、体の使い方、状態を変えるということを試してみてください。ほんのしばらく続けるだけで変化が表れるはずです。

 会議においても、姿勢を意識することは効果的です。また、表情にも注意をしてみましょう。険しい顔と、リラックスした表情では、出てくるアイデアも変わってきます。これは、あなた自身のアイデアだけでなく、何よりも、リーダーがリラックスしていることで、メンバーも自由な発言をしやすくなるものです。1人の考えよりも、メンバー同士のアイデアを引き出し、結び付ける方がより良いアイデアにつながるはずです。

 さて、オムニバス形式で心の在り方、考え方についてお伝えしてみたのですが、いかがでしたでしょうか? オムニバス形式といいながらも、実は根底にある考え方は共通していることにお気付きいただけましたでしょうか?

筆者プロフィール

今村 智(いまむら さとし)

HOP2E主宰。ユーザー企業の情報システム部員、システムインテグレータのマネージャ、米国開発ソリューションベンダーにおけるプロセスコンサルタント、というそれぞれの立場から様々なプロジェクトに従事。それらの経験と、NLP、コーチングなどのスキルを組み合わせて、プロジェクトの現場をハッピーにするための活動を展開中。



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