あなたが失敗した原因を探るべきだ―捜査技術の第8条「物事の因子と因果関係に敏感になれ」ビジネス刑事の捜査技術(13)(1/2 ページ)

失敗や成功した背景には、必ずその原因があるはずだ。その根本的な原因を探すことが、今後起きるかもしれない失敗を防ぎ、成功に導くもとになる。今回は、捜査の技術第8条「物事の因子(根本)と因果関係(縁)に敏感になれ」について、原因と結果の関係を探ることの重要性を考える。

» 2007年02月19日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

目の前にある事実には必ず原因がある

 いままさに、あなたに幸運や不幸が降り掛かってきているとしたら、その原因について振り返ってみるべきだ。

 そこに至るまでには、いろいろなことが重なり合って生じている。自分が種をまいて水をやっている場合もあれば、種は自分だが水は別の人、種は別の人で水が自分というケースもある。しかし、まったく自分がかかわっていない幸運や不幸が降りかかってくることは考えにくい。

 まったく自分がかかわっていないと思うのは、自分が原因としてどのようにかかわりがあるのかについて知らなかったり、あるいは知ろうとしていないだけである。あなたが喫茶店でコーヒーを飲んでいるという事実は、そこに喫茶店を開くことをオーナーが考え、店員がそこで働こうと考え、そのコーヒー豆を農園主が栽培しようと考え、そしてあなたがちょうど、そこへその時間に行くことを決めなかったら、実現しなかったことである。目の前に起きている事実は、無限ともいえるほど数多くの事実が関連し合った結果として、必然的に起きているといえるだろう。

見つけた答えには訳がある

 刑事は事件現場で何らかの遺留品がないか捜す。それが事件を探るための糸口になる可能性が高いからだ。手荒な犯罪ならば被害者に傷が残り、急な誘拐や家出であれば被害者宅には食器や衣類が生活臭を残したままになっている。特に、「原因として複数の人がいないと実現しない事実を想定させる遺留品」は、事件解決のための重要な証拠になることが多い。

 ビジネスで見つけた答えにも訳がある。開発会社にシステム開発の受注が入ってきたのは、営業担当者の外回りの努力のたまものかもしれないし、顧客側で既存システムに何らかの問題が生じたからかもしれない。その原因を知ろうが知るまいが、受注した事実に変わりはない。しかし、警察が犯人を逮捕し再犯を阻止するのと同じように、ビジネスにおいても原因を知ることで、関連するリスクを回避できるかもしれないし、よりチャンスを広げられるかもしれないのだ。

根本原因を探せ

 物事には、良いことであろうが悪いことであろうが原因がある。システム開発の費用が見込みを大きく超えたとか、納期が遅れたトラブルもよく耳にする。こうしたトラブルの原因は何だろうか。当初の見積もりよりも開発規模が大きくなったためだろうか。検収に手間取ったからだろうか。根本原因はもっと違うところにあるはずである。システム開発プロジェクトの根本問題は、変更管理が不適切であることや、プロマネの不在といったことが考えられるだろう。

 根本問題に気付かず、派生して発生したにすぎない問題に目が行ってしまうと、同じ失敗を繰り返してしまうことになる。プロジェクトマネジメントの標準手法であるPMBOKには、失敗を繰り返さないための方法として「教訓を残し、教訓を生かす」という考え方がある。この教訓もまた、根本原因を知ることによって、初めて気付けるものであり、根本原因に気付かずに出てきた教訓は人をミスリードするだけなのだ。

 人は時として根本原因を認めたがらないことがある。このような風潮がまん延している組織は衰退していくしかない。自らの非を認めることができない人には「失敗は成功のもと」を実現することは難しい。

物事の因子(根本)を探る

 根本原因を探る統計学上の方法として、因子分析なるものがある。まさに物事の因子(根本)を探るといったところだ。よく使われるのがアンケートやヒアリング調査などの設問を設計したり、回答結果を解析する場合である。

 因子分析とは、アンケートなどの質問に対する回答結果の背後にある、直接的には観測できない因子(潜在的な変数)を特定するもので、性格テストなどで本人すら気付かない性格傾向を見いだすために利用されている。

 顧客満足あるいは顧客不満足アンケートを実施してみると、大抵の場合、因子として営業担当者(人)の対応の良しあしや、商品(もの)の良しあし、周りの評価の良しあしといった傾向が出てくる。応対が遅いとか情報提供が少ないといったクレームに対応しようとしたとしても、根本原因として顧客と担当営業者との相性が悪ければ、何をやっても事態は解決しない可能性が高いのである。

物事の因果関係(縁)を推理する

 現実の世界はもっと複雑である。直面する問題を起こした根本原因としての因子を知ったとしてもまだ十分ではない。ある原因は別の原因が基となって生まれていたり、いくつかの原因が合わさって、結果を生み出していることも珍しくない。原因と結果を反対から見てみると、結果が原因になっているケースもある。

 従業員の離職率が高いのは、人が少なくて忙し過ぎるからという状況がまさにそれで、せっかく採用してもすぐに離職するから常に人手不足となり、従業員は休む暇すらない中で嫌になって辞めてしまうという悪循環は珍しくない。物事の因果関係(縁)を調べるには共分散構造分析と呼ばれるための統計手法が利用できる。

 ザ・ゴールで有名なTOC思考プロセスで使用される現状問題構造ツリーもまた、因果関係(縁)を調べるための手法だ。現状問題構造ツリーは、「何を変えるのか」を明らかにするツリーであり、組織が抱える問題構造を明確にして変えるべき中核問題を見つけ出していく。組織の問題を好ましくない結果(UDE:Undersirable Effect)と呼んで、それぞれのUDEの因果関係をたどっていって、それらに共通する中核問題を探り出し「変えなければならないもの」として改善に取り組んでいくのである。

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