あなたが失敗した原因を探るべきだ―捜査技術の第8条「物事の因子と因果関係に敏感になれ」ビジネス刑事の捜査技術(13)(2/2 ページ)

» 2007年02月19日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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根本原因に背を向けるな

 因子分析であっても共分散構造分析であってもTOC(theory of constraints)思考プロセスであっても、共通することは、皆、根本原因を重視していることである。

 根本原因を探さないといけない場合もあれば、実は探さなくても誰もが気が付いているという場合も少なくない。分かっていて背を向けているのだ。このような状況においても捜査の技術が必要になるのか疑問だが、根本原因から背を向ける人たちはこれを隠そうとし、さらには捜査を混乱させることさえある。

 どうにも生産性が上がらない工場や、顧客からのクレームが絶えない営業所など、根本原因を隠そうとする場面を何度も目にしてきた。彼ら自身が根本原因である、あるいは根本原因を居心地の良いものとして守るといった状況では、事態の改善が期待できない。根本原因は取り除くか、それ自体に働き掛けて変化させるしか改善の道はないのである。

営業日報や目標管理制度が機能しないわけ

 営業日報や目標管理制度が機能しないのも同じ理由である。営業結果が芳しくない根本原因も、業績が上がらない根本原因も分かっているにもかかわらず、それと直面して格闘するのが嫌だから、差し障りのない結果報告や目標設定しかしようとしない。

 これではやらない方がましである。目標を立てさせるのであれば、組織全体の目標、例えば商品売上や事業利益、プロセスの生産性の向上につながるようなものでなければならない。結果報告は、事前に作成させた行動計画に対応するものでなければならない。計画や報告そのものが因果関係に基づいて実行されるべきものであるにもかかわらず、実行する方も評価する方も楽だからという理由で因果関係が外されたり、ぼやかされたりしているのだ。

 計画でも報告でも因果関係がある上位の計画(目標)や報告があるはずである。マネジメントシステムの中に因果関係を常にチェックできるような仕組みを組み込むことは、根本原因を見失うことなく、真の答えを見つけ出すための優れた方法だ。

ISO 9000が提唱するプロセスアプローチ

 ISO 9000が提唱するプロセスアプローチはまさに、マネジメントシステムの中に因果関係を常にチェックできるような仕組みである。

 仕事の流れをプロセスの連鎖としてとらえて、プロセスごとに計画と結果について測定することによって、最終的な品質(出来栄え)やコスト、生産性といった結果に対して、それぞれのプロセスがどのような因果関係を持っていたかについて知ることができるのである。

 残念ながらISO 9000の認証取得企業の多くが、このISO 9000の肝ともいうべきプロセスアプローチを実装できておらず、その結果、因果関係を調べるためのデータ分析という取り組みが単なる結果集計に終わってしまっている。本来、ISO 9000で期待しているデータ分析は、今回ご紹介した因子分析や共分散構造分析、あるいはTOC思考プロセスのようなものなのだ。

次回予告

 今回は、捜査の技術第8条「物事の因子(根本)と因果関係(縁)に敏感になれ」について説明した。原因を探ってチャンスを獲得し、原因を探ってリスクを回避することは、企業競争力の源泉といっても過言ではないだろう。

 次回は、捜査の技術第9条「犯人をマークし追跡せよ」について説明する。

 犯人の後を追いかけて犯罪の形跡を探る方法は、企業活動でいえばまさにトレーサビリティがこれに当たるだろう。トレーサビリティは何も食品安全のためだけにあるのではない。品質保証だけでなくコスト削減や生産性向上にもつながることについて見ていくことにしよう。

筆者プロフィール

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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