感情移入ができない人に捜査はできない―捜査技術の第2条「捜し出したい人や物の気持ちを知る」―ビジネス刑事の捜査技術(7)(1/2 ページ)

探したいと思っているものが人の場合は、それが物の場合よりも探しやすい。例えば、犯人は見つかっても、犯人が隠した凶器は見つかりにくいものだ。それはなぜだろうか? 今回は、“モノを捜す”際のテクニックの第2弾を紹介する。

» 2006年04月28日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

物より人の方が探しやすい

 探したいと思っているものが人の場合は、それが物の場合よりも探しやすい。犯人は見つかっても、犯人が隠した凶器は見つかりにくい。なぜだろうか。

 それは犯人には心があり、その行動は何らかの思いに基づいているからだ。追い詰められた犯人がどこに逃げるのか、遠くへ逃げようとする犯人は何をしようとするのか、捜査員は犯人の気持ちになってその行動を推理する。腹が減れば飯を食う。遠くに逃げたければ駅に行く。車に乗っていればガソリンが要る。犯人の思いを先回りすれば、そこに犯人がやって来るのである。

売れない店に客はなぜ来ないのか

 探したい人が悪い人間であっても、いい人であっても同じことだ。顧客を増やしたいのであれば、顧客の気持ちを知ることから始めなければならない。売れない旅館、売れない飲食店に客はなぜ来ないのだろうか。

 古今東西、店の主人は客が来ないことでいつも頭を悩ませている。縁日でも繁盛する店とそうでない店とがはっきり分かれている。売れない店に客が来ない理由を店主の立場から見てもなかなか分からないが、顧客の立場に立つとその理由が見えてくる。

 自社の商品やサービスが思うように売れないと嘆く前に、自分が普段どのように買い物をしているのか思い起こしてほしい。客の立場のときの自分が、売る立場の自分に対する教師である。売ろうという立場になった途端に、買う立場の自分が考えていることをすっかり忘れている。

 買いたいから買う、買おうと思わないから買わない。売りたい商品があるなら、一度1000円でも1万円でもいいから自腹を切って自社の商品を買ってみればいい。旅館なら泊まってみればいい。そのとき感じた思いが顧客を増やすためのヒントとなるはずである。損をしたと思った理由は何か? 良かったと思った理由は何か? 顧客の思いを先回りすれば、そこに顧客がやって来るのだ。

1人の顧客を満足させる

 どんな顧客に来てもらおうとしているのかすらはっきりしない店に、人が集まるはずもない。大勢の顧客に来てもらいたいのであれば、まず知り合いの特定の人を顧客に想定して、その人にどうやったら喜んできてもらえるのか考えることから始めるべきである。

 大勢の顧客を満足させたいならば、まずは1人の顧客を満足させよう。売る側から顧客を考えるから不特定多数としての顧客集団を考えてしまう。しかし、顧客側は自分たちが集団として動いているわけはなく、1人1人の顧客として行動しているだけである。ただし、1人が感じている満足や不満足を多くの人が共有しているからこそ、大勢の顧客が集まるか、集まらないかという結果になってくるのだ。

 それを共有していないのは店の主人だけというのでは、あまりにも悲しいことである。謙虚な姿勢で顧客の気持ちを聞こうとすれば、何も探し出さなくても顧客がその答えを教えてくれるかもしれない。いや、すでに注文や苦情という形ですでに教えてくれているのではないだろうか。

相手の立場で考えるということ

 上司と部下、親子、夫婦、身近な関係の中でも、お互いを理解できずに不仲となっている場合が多い。相手とうまくやる必要があるならば、相手の気持ちを知ることなしに解決の糸口はつかめないのだ。相手の立場で考えるということは簡単そうで難しい。自分がいったことで、まさにいま、相手はどう感じているのか。

 部下をしかるとき、自分が部下だったときに理不尽に上司からしかられたことを思い出そう。子供をしかるとき、自分が子供のときに理不尽に親からしかられたことを思い出そう。酒を飲む時にはときには自分ばかり話すのではなく、相手の話に耳を傾けよう。相手の立場で考える力を付けることこそ、ビジネス刑事になる第一歩である。

相手を理解しようとするから答えが見えてくる

 相手の立場で考えるのは口でいうのは簡単だが、実践にするとたやすいことではない。しょせん、自分は自分、人は人であり、なかなか他人の思っていること、感じていることを理解することはできない。

 親兄弟ですらお互いを理解できずに絶えずいい争っている。それが他人ともなればなおさらである。人は皆同じだと考える方がおかしい。もともと考えも価値観も違っていると考えた方が気が楽になる。相手を自分とは違うと考えたうえで、何とか理解しようとコミュニケーションを図ることが大切なのである。

 顧客の要望や苦情を聞いて改善してはまた聞くという繰り返しを粘り強く続けていくことで、必ず顧客の満足にたどり着くことができる。企画書、提案書を出してはしかられる営業担当者もあきらめてはいけない。失敗は成功のもと、答えはしかられる前より確実に近くにある。

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