犯人をマークし追跡せよ―トレーサビリティの重要性―捜査技術の第9条「犯人をマークし追跡せよ」ビジネス刑事の捜査技術(14)(1/2 ページ)

特定顧客の行動や新商品の販売動向を追うことは重要だ。1つのものを集中して追うことによって、新たに見えてくるものがあるからだ。今回は、捜査の技術第9条「犯人をマークし追跡せよ」について、トレーサビリティの重要性を考える。

» 2007年03月12日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

ビジネスでもマークできる社員は有能だ

 捜査員は容疑者と思われる人物を尾行したり聞き込みなどして、怪しげな行動がないかマークする。ビジネスにおいても、特定顧客の行動や新商品の販売動向についてマークしなければならないことがある。

 顧客管理システムや商品管理システムは、まさに顧客や商品をマークするための機能を提供しているといえるだろう。長年付き合っている取引先から、いつも同じ小言をいわれてしまう営業担当者は、自分の営業スタイルに“マーク”という考え方があるかについて一度振り返ってみるべきだ。

 マークとは全体を漠然と見ているのではなく、特定の対象物に対して注意を一心に集めることを意味する。マークについて意識していない人であっても、何事にもテーマを持って仕事をしようとする人は、自然とマークができている人だ。漠然と人の話を聞いていても、ただなんとなく新聞や雑誌を読んでいても、大したことは得られない。だが、はっきりとした関心事がある人は、自分の関心事に関する話や記事が出てくると、しっかりとそれをキャッチできるものだ。

マークがあればすべてお見通し

 免許証を再交付すると、その回数に応じ免許証番号が変わっていくことをご存じだろうか。12けたの数字のうち、通常末尾は「0」になっているが、再交付をした数に応じて末尾が「1」「2」「3」と変わっていく。「1」や「2」までならいいが、「3」以上の数字になっている人は、よほどの不注意者か複数枚の免許証を持とうとするような意図的な企みがあるのではと疑われても仕方がないだろう。

 免許証の再交付回数が多いことはあまり歓迎されないが、これが顧客の来店回数だとすれば意味が違ってくる。店員はなじみの客を顔でマークしているものだ。常連客が来れば、その客の好みに合わせて接客してくれる。しかし、顔なじみの店員がいないと大変不便なことになる。「いつものを頼む」といっても通じないことがあるからだ。いつもの店員はと聞くと辞めましたという。

せっかくのマークを外していないか

 医師は患者の病状や治療経過についてカルテに記録している。だから大勢の患者が来診してきても、カルテで1人1人の患者をマークしているから、いつでも前回の診察時点の状況を確認することができるのだ。

 先の店員の例ではせっかく自分が覚えていた顧客情報を新しい店員に引き継ぎをしていなかったのだろう。顧客データベースを守っている企業ですら、こうした状況にあまり変わりはない。大切なことは、いつでも収集し直せる情報と、継続的に更新していかなくてはならない情報とを区別することにある。

 いつでも収集し直せる情報ばかり登録されているデータベースなど、大した役に立たない。人物の評価でも同じことがいえる。いま現在のプロフィールも大事ではあるが、その人がどのような人生を歩んできたのかという情報の方が、恐らくその人を評価するうえでは重要なはずだ。

 だからこそ、自分を一番評価してくれるのは、家族であり親友なのだ。

 残念ながら、ビジネスの世界では企業は、せっかく長い時間をかけてマークしてきた情報を簡単に放棄してしまうことが少なくない。突然の人事異動やシステム変更など、せっかくのマークを外すような行動をよく見かける。

 担当者や業務方針が変わってもサービスレベルは変わらないように、業務マニュアルもあれば、顧客マスターデータや取引履歴データが管理されているという反論もあるかもしれない。しかし、徹底的にサービスメニューが規格化されたフランチャイズチェーンは別として(むしろ、そのような企業の方が情報継承の重要性を理解していたりするが)、本当の業務引き継ぎは、前任者と新任者とが酒を飲みながら交わされる会話の中で行われていたりするものなのである。

管理すべき情報を間違っていないか?

 販売管理システムや生産管理システムあるいは会計システムでも、マスターデータと実績データが管理されている。

 実績データはそのもの自体が業務履歴というべきものであるが、マスターデータの履歴管理がされていることはあまり多くない。現在の売価はすぐに出てくるけれども、その価格がいつ変更されてどのくらいたっているのか、取引先の与信ランクは誰かが定期的に見直しされたうえで変更されていないのか、その顧客に対する営業担当者を経験した従業員をすべて洗い出すことはできるのか、過去に作成された資材所要量計算や生産スケジュールにおける実績差異の原因は何だったのか……。

 こうした履歴管理機能というものは、いまの情報システムでは残念ながらあまり見かけない。マスターデータとデータ処理用のアルゴリズムが用意されていて、入力されたデータを変換加工するという、電卓の延長的な情報処理をすることが一般的な情報システムの姿だろう。

 しかし、実際の仕事において、人間が行う情報処理では過去の記憶が大変重要な役割を担っている。過去の経験に基づいて判断を修正し、意思決定を行っている。人間は学習することにこそ抜きんでた能力を持っているのである。にもかかわらず、情報システムに依存する企業が、学習することを忘れて、画一的な業務手続きしかできなくなっているとしたらいかがなものだろうか。

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