SFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)といった横文字がIT戦略として流行している。昔から顧客管理というソリューションはあったが、SFAやCRMと何が違うのだろうか。
SFAやCRMの解説を探すことに困ることがないだろうが、ここでは次のように考えてみることはできないだろうか。SFAもCRMも顧客情報を蓄積し活用するということでは昔の顧客管理と同じだが、顧客管理が自社を中心にした視点から顧客の行動をとらえようとするのに対して、SFAやCRMでは顧客を中心にした視点で顧客の行動をとらえようとしている。
自社を中心にした視点から見た顧客の姿は、企業名や担当者名、所在地、取扱商品、売上実績といった外見的な側面によって把握される。これに対して、顧客を中心にした視点から見た顧客の姿は、自社の担当者の相性・好感度、自社への満足・不満足の度合いといったような内面的な側面によって把握される。
そのためには、顧客サイドにより踏み込んだ聞き込み捜査が必要となってくる。営業担当者との長い付き合いがあって、初めて顧客は本音を語ってくれるのだ。個々の顧客を徹底的にマークしようという気持ちがなければ、SFAもCRMも昔からある顧客管理と違いはない。
SFAやCRMを導入したにもかかわらず効果が出なくて困っている企業があれば、ぜひ「顧客を徹底的にマークするのだ」という捜査の考え方を取り入れてみてほしい。顔の見えない顧客データがいくら大量に登録されたとしても、そこから出てくる情報は高が知れている。
しかし、顔が見える顧客データが少量でも登録され出すと、そこから出てくる情報はまだ会ったこともない顧客の行動パターンさえ教えてくれるようになる。顧客には類型があり、そこには類似する行動特性があるからだ。
特定の犯罪者をマークすることで、犯罪者タイプの行動パターンを知ることができる。これと同じように、特定の顧客をマークすることで、顧客タイプの行動パターンを知ることができるのである。
マーケティング戦略に低価格化戦略、差別化戦略、市場細分化戦略というものがある。低価格化戦略とは、低コストに基づく低価格を売りにする戦略である。低コストを実現できないのに不用意に低価格競争に巻き込まれると自滅することになる。
差別化戦略とは、機能やブランド、デザインなどで業界リーダーとの差別化を図るための戦略だ。苦労して作り出した新商品であっても同業他社がすぐに追い付いてしまうため、優位性はすぐに消えてしまう。ホンダのファミリーワゴンがこれに当たる。いまでは、ファミリーワゴンはどこの自動車メーカーでも売り出しているので優位性は消えてしまっている。
市場細分化戦略とは、ある特定の顧客層にターゲットを絞る戦略である。真夜中の若者を狙ったディスカウントストアであるドン・キホーテ、小型車のダイハツやスズキなどがこれに当たる。市場細分化戦略は、特定の顧客層だけをマークして、その顧客層だけから高い満足度を得ようとする。徹底的にマークするから、当然、ますます顧客ニーズを知ることになり、顧客にとっても、掛け替えのないパートナーとなっていくのである。
集客力の高いホームページを構築する場合でも、マークという考え方を適用させることができる。インターネットだからといって、不特定多数のユーザーに対して情報発信しても、結局、誰にとってもつまらないコンテンツになってしまう。
不特定多数ではなく、少数特定のユーザーをマークして、少数特定のユーザーが面白いと思うようなコンテンツを作るのである。そうすれば、その少数特定ユーザーと同じニーズや感性を持つ未知のユーザーの心までとらえることができるのだ。
今回は、捜査の技術第9条「犯人をマークし追跡せよ」について説明した。漠然と行動する人よりも、明確な目標を持って行動する人の方が成功する可能性が高い。仕事がうまくいかないと感じている人は、一度自分の仕事の成果を誰が利用しているのか、マークしてみていただきたい。誰のためになっているのかも分からない仕事がうまくいくはずがないのである。
さて、次回は、捜査の技術第10条「探偵の7つ道具に手帳は欠かせない−仕事がうまい人は記録もうまい」について説明する。捜査員に手帳は欠かせない。手帳を持っている人は多いが、そこに書き込む内容はまちまちである。手帳に何を書き込んでおくべきだろうか。同じことが情報システムにもいえる。役に立つデータベースと役に立たないデータベースはなぜ生まれるのだろうか。
杉浦 司(すぎうら つかさ)
杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役
京都生まれ。
京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。
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