答えは仮説の下で探し出そう―捜査技術の第4条「仮説の下で探し出す」―ビジネス刑事の捜査技術(9)(1/2 ページ)

答えを探す際に、何も考えないでやみくもに探し回るのと、仮説を立ててから探し出すのでは答えにたどり着く速さなどが格段に変わってくる。今回は捜査の技術第4条「仮説の下で探し出す」について、試験問題の解き方に例えて考えてみる。

» 2006年08月29日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

 第8回では捜査の技術第3条「捜し出したい人や物の気持ちを知る」として、顧客が見せるさまざまなシグナルを見逃さず、積極的にシグナルを得るためにはアンケートや口コミ掲示板などコミュニケーションを密にすることが必要だということをご説明した。

 今回は、捜査の技術第4条「仮説の下で探し出す」について説明する。仮説の設定と廃棄の繰り返しが真実へと接近させる。何の考えもなしに、やみくもに探し回っても成果は期待できない。このことを試験問題の解き方という場面で考えてみることにする。

試験合格の秘訣とは?

 資格試験になかなか受からない人がいると思えば、たくさんの資格に合格し続ける人もいる。

 実は私も多くの情報処理技術者試験に合格している。ほかの資格試験のことはあまりよく分からないが、情報処理技術者試験については新しい分野が出てきても合格できるのではないかという自信がある。

 それはなぜだろうか? 実はあるとき、模擬試験問題の作成を依頼されて自分で問題を作ってみてから、正解を導き出すためのコツをつかむことができた。もちろん、試験に合格するには必要な知識について地道に勉強し、関係する業務経験も積まないといけないだろう。私よりも多くの知識を持ち、豊富な経験も持っていながら試験になかなか合格できないAさんという人がいた。試験の後、Aさんに問題に対してどのように回答したのかを聞いてみて、Aさんがなぜ合格できないのかが分かった。私のやり方とは大きく違っていたのだ。

 Aさんは、問題文をじっくり読んで、自分の経験に照らし合わせて正しいと思われる行動の内容を解答とした。大変まじめな解き方である。しかし私の解き方はこのような正面突破のようなやり方はしない。そのやり方について説明する前に、まず問題を作成する側の手順について説明しておかなくてはならない。

答えは問題文の中に隠されている

 問題の作成者は問題文を先に作成するのではなく、まず答えから考える。答えがない問題は問題にならないし、たとえ答えがあってもあいまいな答えや、いくつでも答えがある問題では使い物にならない。ようやく答えを決めたらそれを導き出すための式を考える。

 例えば、情報セキュリティの問題であれば、正解として「PCへのウイルス対策ソフトの導入」に決めたのであれば、式は「ウイルス感染を防止するには何が必要か?」となる。しかし、これでは誰もが正解するに違いない。

 答えを導き出す式を考えた後は、式を導き出すための式を考える。例えば、「電子メールサーバ側でウイルス対策されている場合であっても」という条件を付ける。こうすることで、「PCへのウイルス対策ソフトの導入は不要」と思う受験者が出てくるかもしれない。しかし、現実には暗号化された電子メールは受信者のパソコン上でしか中身を検査することはできない。そこまで気が付いた受験者だけが正解にたどり着くのである。後は、さらに式を導き出すための式を考えていく要領で問題文を装飾していけばよい。

 実は、情報処理技術者試験の場合、「○○字以内で記述せよ」という捜査上の手掛かりまで提供してくれている。正解にたどり着いた受験者は字数によって正解を得たことを確信することもできるのである。

最初から正解を推測して問題文を読む

 では、私の解き方について説明しよう。

 私の説き方でも、Aさんと同じように問題文をじっくりと読むのは読むのだが、ちょっとやり方が違う。まず問題文のガイドと問題文の後に出てくる設問すべてに目を通しておく。「以下のインターネットに関する情報セキュリティについて問題文を読んで設問に答えなさい」というガイドと、「この設定のままではウイルスに感染する恐れがある。その理由を述べよ」という設問があれば、この時点で正解は問題文に電子メールかWebサイト閲覧に関係する記述が出てくることが推測できる。

 いざ問題文に向かうときには、正解が隠れていないか捜しながら読むのである。犯人はアリバイを偽装したり証拠を隠すなどの工作をしても、どうしても手掛かりを残してしまう。作問者の場合は、わざと正解にたどり着くための手掛かりを置いていくのだ。

 正解者が誰もいなくなってしまうと困るので、この手掛かりはよほど不注意でなければ気が付けるようになっている。後は、素直にこの手掛かりと設問文から作問者が設定した正解を探し出せばよいのである。手掛かりが「利用者の中には重要な取引文書を暗号化して送信する者もいる」という文章であれば、正解は「サーバ側でのウイルス対策だけでは暗号メールがチェックできない」という感じになるだろう。

初めに答えありき

 Aさんは、問題文をしっかり読んでいたのだが、その状況を自分の経験と知識に置き換えて、「ウイルス対策ソフトのパターンファイルの確実な更新こそが一番大切」と考えて解答してしまった。Aさんのような人は正解を知った後、この程度の答えでよいのかと思われることが多い。経験も知識も合格レベルなのに、試験になると作問者の求めている答えが見つからない。

 作問者ですら知らないかもしれない高度な解答をしたところで、間違いは間違いである。

 Aさんは、試験問題では、初めに答えが決まっている問題を解くという捜査という考え方が必要なことを知っておくべきだったのだ。試験問題の解き方のうまい下手は大人だけに限ったことではない。子供もまた同じわなにはまっていることがある。算数、数学の応用問題が不得意な子供は、国語の力が不足している。作問者の考えや気持ちを問題文からキャッチできるかどうかが大切である。子供たちの責任ではなく、作問者の国語力やコミュニケーション力に問題があることも少なくないが。

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