本連載の筆者は、京都府警に10年間勤務した後にシステムコンサルタントとして独立した経歴を持つ。昨今のビジネスでは、データマイニングなどの高度なITを活用したマーケティングリサーチや問題分析といった“捜査”に近い活動が頻繁に行われている。この連載では、ビジネスに捜査の技術を応用する手法を紹介する。
筆者は京都府警に10年間勤務し、コンピュータを使った犯罪捜査や防犯統計、交通事故分析などの業務に携わっていた。その後、システムコンサルタントとして独立し、ファーストリテイリングやソフトバンクといった企業に対する情報システムやマーケティングのサポートを行ってきた。
特に最近では、データマイニングや地理情報システムなど高度なITを活用したマーケティングリサーチや問題分析といった、まさに企業における捜査活動を支援する機会が増えてきている。この連載では、ビジネスに捜査の技術を応用し、さまざまな問題を解決する手法を解説していく。
捜査といえば刑事が犯人を捜し出すことを誰でも思い起こすだろう。しかし、一般人も常に何かを捜している。将来の夢、結婚相手、就職先、住宅、昼食を取る店、一息入れるための喫茶店、子供のころの思い出の品などなど。中でも社会人は、来る日も来る日も捜しものに明け暮れている。新規の顧客、顧客不満の原因、提案書に書くべき内容、トラブルの原因、コスト削減の可能性、そして究極は自分自身の適性や進路だろうか。
腕利きの刑事は現場に足を運び、証拠を丹念に探して、聞き込みを続ける。そして犯人を少しずつ追い詰めていく。一方で、なくしたものが見つからず、仕方なく代用品を購入した後で、なくした元の品物が調べたはずのかばんの中から出てきて後悔する人がいる。
本連載では、社会人が何らかの問題を抱えているときに、「どうすればより効果的に答えを探し出す―捜査する―ことができるか」について考えていくほか、科学的な捜査技術として、多変量解析やデータマイニングの手法についても紹介したい。
「捜査」という考え方は、警察関係者にだけ当てはまる技術ではない。顧客を捜す、経営課題やその解決策を探すといった行動は皆、捜査である。捜査という技術がビジネススキルとして語られることは過去においてあまりなかった。しかし、消費者や企業のニーズや行動が多様化し、企業の経営や業務も高度化・複雑化していく中で、戦略を練ったり実行計画を立案する能力以上に、解決すべき問題をはっきりと見極めるリサーチや問題探索といった捜査の能力の向上が求められているのではないだろうか?
捜査の技術を駆使し、さっそうと難解事件を解決していく腕利きのビジネス刑事、あるいは人生の捜査官を目指していただきたい。
日常の生活で捜査が必要になることは少なくない。ビジネスシーンでは捜査が日常的に行われている。「顧客が見つからない」とか、「在庫が減らない」「納期が縮まらない」、あるいは「商品が売れない」「不良品の原因が分からない」などなど、経営者はいつも頭を抱え、社員は飲み屋で不毛な議論を戦わせる。私生活でも捜査の連続である。「結婚相手が見つからない」とか、「就職先がない」「いい家が見つからない」など、心の安まるときはない。
ビジネスでも私生活でも成功する人、失敗する人がいる。あるいは昨日は成功したけれども、今日は失敗するかもしれない。いずれにしても、捜査が下手だとビジネスも生き方も損をする。魚がいそうもない場所に、糸を垂らしても「アタリ」はない。魚釣りがうまい人は出掛ける前から「アタリ」をつけている。腕利きの刑事も逃走する犯人の行き場所の「アタリ」をつけている。
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