捜査は警察だけが行うものではないビジネス刑事の捜査技術(1)(2/3 ページ)

» 2005年09月08日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

顧客を見つける刑事のテクニック − その1

ターゲット顧客像をイメージする

 刑事は現場から犯人像をイメージする。神経質そうな犯人、大胆な犯人、狡猾そうな犯人。証拠や手口には犯人の性格や被害者との人間関係が反映されているといっても過言ではない。同じように、顧客を見つけるのがうまい営業社員は、ターゲットの顧客像をまずイメージする。顧客が見つからないと嘆く企業経営者、商談がまとまらないと嘆く営業担当者に共通するのは、顧客という存在をぼんやりとしかイメージしていない。反対に商売繁盛で忙しい通販事業者の経営者は、顧客の顔や生活を具体的にイメージしながら、販促の手紙を書いている。

 プロの釣り人が釣ろうとする魚を徹底的にマークするのに対して、素人の釣り人は何が釣れてもいいやと思って何も釣れないのとよく似ている。顧客は見つけるものではなく、始めから調べてあるのである。どのような顧客に売りたいのか、そしてその顧客はどのような人たちか、その顧客はどのようなことに関心があり、何に困っているのか。プロの釣り人はターゲットにする魚の生態を知り尽くし、刑事は捕まえたい犯人の心理を先回りし、そしてトップセールスは顧客の行動パターンを見通しているのである。

因果関係を推理する

 刑事は過去の経験から犯人の行動を先読みする。逃走する犯人は食べ物とねぐら、そして足が必要になる。犯罪者が再犯する場合には同じ手口を使う。プロフィールを偽るときは自分の知人であることが多い……などなど。顧客にも同じことがいえる。通販事業者はあえて手書きで手紙を書く。商品よりも自分の熱意を書く。人は人に反応しやすく、活字や機械には反応しにくいからである。自分で商品をアピールするよりも、顧客の声を紹介する。本人の宣伝よりも他人の推薦の方が信じやすいからである。

 世の中には因果関係がはっきりしていることがかなりある。妊婦や病人、中高齢者は健康に関心がある。健康器具や健康食品を買ってくれる顧客ターゲットとして期待できるだろう。しかし、妊婦は若い主婦であり、高額な商品には手を出さない。それならば、かわいい孫が待ち遠しい祖父母なら高額商品も惜しくないかもしれない。「顧客が見つからない」「商品が売れない」と嘆く人たちの声を聞くと、因果関係を考えれば当然と思えることが少なくない。「事件は現場で起きている」、しかし、会議室で因果関係を推理しなければならないのである。

地道な情報集めで顧客の特徴と居場所を絞り込む

 予測は「過去の実績から傾向を見いだす活動」といっても過言ではない。いまや、捜査においてコンピュータは必須の武器である。しかし、何よりも地道な情報集めが大切である。映画で老いたベテラン刑事がよく登場する、そしていつも共通するのが彼らは小まめにメモを取っている。

 警察手帳はまさに地道な情報集めのシンボルといっていいだろう。雨が降れば傘がなくて困っている客が必ずいるはずである。いまでは、コンビニで雨の日に傘が並べられるのは見慣れた景色になってきた。そして、意外と高額な傘が売れていく。ビジネスマンが客先に安っぽい傘を差していけないからだろう。決して買い物帰りの主婦や通学生が高額な傘を買うはずがない。安い傘を7割、高い傘を3割ほど陳列しておくのが賢明なのである。

 営業日報を義務付けている会社は多いだろう。しかし、収集した情報は定期的に分析する必要がある。その日の分だけを見るのではなく、全体を見渡すのである。足しげく通った顧客との会話の中に、あるいは注文や要望の中に何かパターンや傾向がないだろうか。ある顧客からの要望や苦情は、その顧客と同じ業種業態の企業からもいわれる可能性が高い。

 とすれば、既存客から得られた特徴や居場所などの情報は、新規客の探索にも役立つはずである。刑事は犯罪者の手口のパターンをしっかりと頭に入れている。だからこそ、怪しい犯人を見逃さないし、余罪をもお見通しなわけである。

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