あなたはいったい何を探しているのか?―捜査技術の第1条「ターゲット定義こそ肝心」―ビジネス刑事の捜査技術(6)(1/2 ページ)

顧客や売れる商品を探し続けている人が居る。しかし、その人たちに「それは具体的にどのような人や商品なのか?」と尋ねると、はっきりしないことが大半だ。まず、ここをきちっと押さえておく必要がある。今回は、“モノを捜す”際のテクニックを紹介する。

» 2006年03月02日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

あなたの捜し物は何ですか?

 顧客を捜している人がいる。売れる商品を探している人がいる。その人たちに尋ねてみると、それがどういう人なのか、どういう商品なのか、どうもはっきりしないことが大半だ。しつこく聞こうものなら、「それが分かっているなら苦労しないよ!」と逆ギレされてしまうだけである。

 欲しいものを探す必要があるならば、まず、探す対象は決まっていてその所在が分からないのか、欲しいもの自体が何なのかよく分かっていないのかのどちらであるかを、はっきりさせておくことが必要だ。あなたが誰かから「何かおいしいものが食べたい」とか「面白い場所に行きたい」といわれたとしよう。それが家族であったとしても、その答えを探し出すことは極めて困難だ。あなたはきっとこういうだろう。「もっと具体的にいってくれないと分からない!」と。

捜査を始める前に

 数学や物理などの難しい問題を解こうとして、さっぱり分からずお手上げになった経験は誰にでもあるだろう。そのときの多くは、問題文の意味自体が理解できなかったからではないだろうか。問題文の意味をなんとか理解できたとすれば、手掛かりとなる公式などの知識や、類似問題に対する経験不足で捜査に手こずるのである。

 捜し物が何であるかがはっきりしているのであれば、時間がかかろうがお金が掛かろうが、あきらめない限り、いつかは見つけることができる。捜し物が何なのかはっきりしないのに、探し回っても、それを見つけることはまず無理だ。それが1人ではなく、組織で探している場合はなおさらである。探している当事者ですら発見できることなど期待していない。

 「もっと売ってこい」とか「もっと安くしろ」とかいう上司や顧客の言葉に対して、「どうすればいいんですか」と聞いたころで、「そんなことも分からないのか。自分で考えろ!」としかられるだけである。何がゴールなのか分からずに突っ走っていった先にあるのは、何なのだろうか。

思い込み捜査はなぜ起きるのか

 意識しようがしまいが、捜し物は思い込みに縛られている。「怪しそうな中年男を探せ」という指令を受けた捜査官は、立派なスーツを着こなした若い紳士や、若づくりのファッションで身を包んだ老人を職務質問したりはしない。

 当然、訓練を受けた捜査官は、変装を見破って見事逮捕ということになる。しかし、中年男といえば、よれよれのコートを着て疲れ切った顔をしながらタバコを吸っている姿を思い浮かべ、怪しいといえば大事そうにカバンを抱えながら、きょろきょろ周りを見回している姿を思い浮かべている人は、幼稚な変装にすら気付けないだろう。

 実は、「中年男といえば……」とか「怪しそうといえば……」とかいった当たり前のように思われている『常識』こそがくせ者なのである。常識は人によっても違いがあり、時と所が変われば、違ってくることがある。そこへもってきて、「そんなことも分からないのか!」と相手にいわれてしまい、その内容について確認する機会すら奪われがちである。

 本当に、「そんなことも分からないのか!」といえるような常識があるとするならば、まずそれが単なる思い込みではないのか疑ってみるべきだろう。ビジネス上の常識ともいうべきものがあるすれば、民法や商法といった必ず守るべき法律や(最近は違法な常識を持つ企業が多いようだが)、自社の経営理念や顧客との契約などが挙げられる。

 気を付けないといけないのが、業界慣習や企業文化といった不文律である。若い人が学ぶ機会を失いつつある社会人としてのマナーもそうかもしれない。しかし、本当に自明の真理といってもよいものは、煙たがられて隅っこに追いやられてしまっていることが多いのである。

 捜査に当たろうとする者は、まず自身が束縛されている思い込みについて、それが本当に常識と呼べるようなものなのか、その信頼性について確かめておくべきである。

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