“シックオフィス”で健康を損なっていませんか?何かがおかしいIT化の進め方(34)(2/3 ページ)

» 2007年12月03日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

シックオフィスの危険性

 いま、住宅・学校の“シックハウス”や“シックスクール”(*4)が社会問題になっている。


(*4)
家や学校の室内で建物の材料や内装材などから発散される、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどといった化学物質によって発症する。家庭にいる時間の長い主婦や、抵抗力の弱い学童などの発生率が高い。発症の個人差が大きいのが特徴で、また症状も人によりさまざまであり、原因が特定できないまま「更年期障害」「アレルギー」「ノイローゼ」などと診断されてしまうケースもかなりあったともいわれる。子供の多動障害や情緒障害など異常行動の背景に、この問題のある場合の可能性も示唆されている。


 シックハウスやシックスクールを持ち出したのは、何もこの問題を議論するためではない。考えてみれば、オフィスの室内環境にもそのまま当てはまる問題だからだ。

 例えば、働く人が1日の3分の1を過ごす空間であるオフィスを見てみよう。

 最近の建物は気密性が大変高く、換気は空調装置任せだ。この中で使われている合板や集成材の接着剤、塗装ペンキ、カーテンの防炎・難燃加工処理、空調や空気清浄機のフィルターの防カビ・防菌処理、内装用のビニルクロス、床のワックスコーティング、机やいす、間仕切りに使われるプラスチック材料などなど、室内の目に付くもののほとんどが化学物質の発生源でもある。人工的に作られた化学物質は、強さの程度は別として人体にとって毒性を持つものが多い。

 さらにこれらに加えて、IT化の進んだ最近のオフィスでは、パソコンやプリンタ、複写機などが多数設置され、これらの本体、印刷インクやトナー、LANのケーブルや電源コードなどからも、さまざまな化学物質が放出されている。

 シックハウスやシックスクール同等以上にシックオフィスが気になるゆえんだ。

 先にも述べたように、物に匂いがあるのは、微量であってもその物質の粒子が空気中に放出されているからである。これらの毒性の強弱はともかく、われわれは知らず知らずのうちに相当量の化学物質を吸い込んでいるのだ。

 社団法人日本情報技術産業協会(JEITA)でも、パソコンから発生する揮発性化学物質のうち、7種類についてガイドラインを作っている。

 シックハウスやシックスクールでは、大量被ばくの場合には急性中毒症状を呈し、軽症の場合はその場所から離れることにより症状は軽減・消滅するから、原因物質や因果関係の特定、対策の方向も比較的考えやすい。

 一方、例え微量でも毒性のある化学物質に“繰り返し”暴露していると、やがて化学物質過敏症を発症する可能性が指摘されている。これはppb、ナノグラム、ピコグラムといったごく微量の化学物質が呼吸などを通じて体内に入っただけで、発症する不特定の種々の症状である。発症のメカニズムはまだ明確になってはいないが、長期にわたって蓄積された化学物質やそのほかによるストレスがある量を超えると、体内の解毒機能や自律神経系、免疫機構や内分泌系などのバランスが取れなくなって発症するといわれている。女性の発症者が男性の3倍ほど多い。

 自動車の排気ガスや、すれ違った人の化粧品や衣類に残る洗剤の匂い、トイレの消臭剤、本や新聞の印刷インクにまで反応して、頭痛や不眠、うつやイライラ、目まい、筋肉や関節の痛み、胃腸障害、せきやたん、不整脈、呼吸の異常、皮膚炎、トイレが近くなる……などなど、人によりいろいろな症状が現れる。

 厚生労働省は1990年代に研究班を発足させているが、発症のメカニズムが解明されていないため、病気としての認定はなされていない。正式な統計データはないが、この症状を持つ人が相当数存在するのは事実である。先進諸国では人口の1割程度の潜在患者がいるとの研究がある。

 なお、この症状を発症しやすい職種に、美容師、防蟻(ぎ)業者、農薬を扱う農家、塗装業者、研究者や医療関係者など化学薬品を扱う職種にならび、OA機器を扱う人が挙げられている。

電磁波による健康傷害は?

 もう1つ、明確になっていない病気に電磁波傷害がある。これも個人差の大きい、取り扱いの大変難しい問題である。

 電流の流れる電線の周りには磁界が発生する。昔から、高圧送電線の鉄塔の近くに住む人に病気が多いという話があった。最近、WHOが「3〜4ミリガウス以上の磁界に日常的にさらされる子供は、小児白血病にかかる確率が2倍に高まる」として各国に予防措置を取るよう勧めたとの報道記事があった。電磁波によるそのほかの病気の発症についてはグレーのままである。

 携帯電話についても脳腫瘍との関係など、さまざまな話はあるが確証はない。安全策をとって子供の携帯電話使用の制限を始めた国もあると聞く。

 電子レンジ(電波によって、物体中の水の分子を振動させて熱を発生させる)や、IH(強い低周波の磁界が発生している)に反応し体の変調を訴える人、パソコンから出る高周波の電磁波に反応してパソコンを長時間使用できないという人、無線LANが苦痛という人、電気毛布やヘアドライヤーが使えないという人たちが現実に相当数いる。発症メカニズムは解明されていないが何かあるのだろう。

 ヨーロッパ、特に北欧の国スウェーデンなどでは、パソコンやそのほかの電気機器の電磁波発生に対して大変厳しい基準を決めている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ