このように解明されていない難しい新しい問題に対して、どのように考えるかは、国民性によって大いに異なる。世界にはいろいろな考え方、価値基準がある。
「地球温暖化問題の京都議定書―CO2排出規制」のその後の状況を例に問題を見てみよう。
京都会議の後、米国はほどなくこの京都議定書から離脱した。米国は産業重視、「危険であるという明確なデータがなければ、規制はしない」「ビジネス優先」というのが基本的な考え方だ。
一方、環境問題に熱心なヨーロッパの国々、特にドイツや北欧の国々では真剣な取り組みがなされ、相当の実績を上げている。長い歴史を持つヨーロッパには、リスクに対する「予防的発想」、また「リスクがないことを示すのは産業側」「安全を示すデータがなければ市場に出さない」といった考え方も見られる。
日本は議長国として議定書の取りまとめには熱心であったが、総論と各論の乖離(かいり)が大きい。その後CO2は減るどころか逆に増加している。日本は戦後、各論は米国流の考え方にならう場合が多い。行政の動きは遅い。アスベスト問題、血液製剤問題、公害問題などの例を見るまでもなく、お役所任せでは手遅れになる場合も多い。
ただし、国民の強い関心と後押しがあったBSE問題は、異例の速さで対策が実施された。
なかなか手の付けにくい問題であるが、まずは「こんな問題があるかもしれない」と考えてみることが出発点になる。
問題は予防と総量規制という厄介なものではあるが、具体的に作業をやってみることで納得の得られることがあると思う。
ITとは関係ない話のように思われるかもしれないが、先に述べたようにIT従事者はこの問題に対して、危険度の高い職種といわれている。もう少しお付き合いいただきたい。
人類が開発してきた化学物質は約2000万種類、そのうちの数万種類が日常生活の身近なところに存在するといわれる。
女性が毎日使う化粧品やスキンケア用品などの成分として、皮膚から吸収される化学物質は年間2キログラム、食品添加物(*5)として口から入るものは2〜3キログラムという。
昨今、中国産品に含まれる残留農薬や有毒物質が問題にされるが、われわれが口から取り込む農作物の残留農薬や、卵や肉や魚などに含まれている抗生物質やPCBなど有害物質の総量は年間どのくらいのものだろう?
IT機器やオフィス環境という、狭い範囲で考えても本質的な解決にはならない。必要なのは、「一生のうちに人はどのくらいの量の有害な化学物質を体内に取り込むか」といった観点である。ここから総量規制を考えることだ。
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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