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» 2004年10月23日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(11):IT化と投資の“正しい”関係とは?(前編) (1/3)

ITと投資の問題を考えるとき、問題構造の理解と考え方をはっきりさせておくことが大切だ。今回は、陥りがちな“IT投資の評価”に関する問題について、さまざまな角度から考える。

[公江義隆,@IT]

まえがき―ITを入り口にすると、そこは効果の出口が見つからない迷路

 初めて日本の企業にコンピュータが導入されてから50年近くになるが、この間にコンピュータそのものの技術や製品とともに、システム開発の方法をはじめとした数多くの関連情報がコンピュータの故郷である米国から導入されてきた。これらの中には、この新しい道具を使ってゆくうえで必要になる普遍的なものと、単に米国式のやり方・考え方にすぎないものが混在しているが、われわれはあまり深く考えることなく、後者もまた前者のように扱ってきたのではないだろうか。

 米国は、“技術革新(イノベーション)に対する強い信奉”と“挑戦”が文化の国である。新しい技術としてのITに、新しい社会の先導役としての思い入れが強くなるのも当然だろう。しかし、このような流れの中では過剰期待、過大評価が起こりがちである。

 例えば、企業の情報化を進める中での、IT中心の発想やITを起点とする仕事への取り組み方、あるいはIT戦略と経営戦略の統合といったいい方で、両者の位置付けがあたかも対等であるかのような扱いなどは、この典型例であろう。

 次々に登場する新しい技術を、自らのビジネスチャンスに最大限活用しようというベンダ企業の意図が、このIT中心思考の傾向を一層拡大する。ユーザー企業にとっては1手段・道具にすぎないITは、ITベンダ企業にとってはまさにビジネスの対象・目的であるから当然の行動だ。

 ITベンダやコンサルタント企業にとっては、世間が「ITは強力なもの」と思い込み、IT中心に物事を考えてくれるほど、ビジネスが有利に展開できる。従って、そう思えるよう・思われるような最大限のPR活動がされている。

 ITを引き金にして経営戦略を決める(*1)、あるいはそこまでは無理でも、ITの位置付けを最大限高く設定し、独自に企画されたIT戦略(この場合のIT戦略の意味は、アプリケーションの課題に限りなく近い)をどこかで経営戦略と整合させるという筋道なら、そのIT独自の段階への影響力行使はやりやすい。もともとが、別々に作られる前提のうえでの「経営戦略とIT戦略の統合をいかに行うか」をテーマとする流れが作られることになる。

 かくして、ITを知らない経営企画担当が作る経営戦略、経営を知らないIT企画担当の作るIT戦略、仲を取り持つCIOが必要という図式が出来上がるが、もともと別々にスタートしたものを統合するのは並大抵のことではない。

 2本の流れを途中で1本にするのではなく、最初から1本の流れでスタートし、具体化の過程で流れが分かれていく、川の流れとは逆の形が企業の仕事の流れとしては自然だ。もちろん、本流は経営戦略の流れだ。

 経営目的や目標がブレークダウンされ、目的実現のための1つの要素・手段や道具としてITが位置付けられるなら(*2)、ITは本当の“ソリューション”になる。的外れな情報システムを作る方がよほど難しい。逆にITを起点とすると、途中で迷路に入り込み、効果発現の終点にたどり着くのに大変骨を折ることになる。ベンダ企業のソリューションになっても、ユーザー企業のソリューションにはなかなかなり得ない。

 ITへの理解度(*3)が経営施策の幅を左右することは十分あり得る。経営層や経営戦略・業務戦略策定に携わるスタッフの理解を高めるための啓もうや教育は、IT部門の重要な任務である。昨今、経営層やユーザー部門に対する教育として、事例紹介や新しい情報システムイメージの体感に重点を置いた研修を行う企業が増えている。ITと経営効果を結び付ける1本の流れを作っていくうえでの好ましい方向だと思う。

 「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」2004年10月号に『全世界で5000億ドルの無駄遣い――ITターンアラウンド』(原著:C. S. Feld, D. S. Stoddard “Getting IT Right”Harveard Business Review Feb. 2004)という記事がある。米国の現状理解の一助として、この中に出てくるいくつかの文章を以下に記述してみる。

  • “役員会の面々の中で、最も理解されていないのはCIOだろう”
  • “多くの組織において「親」である会社が、末っ子(CIOのこと)の意図をさっぱり理解できずにいる”
  • “(経営陣は)後になってから、最新流行の技術に法外な金額を支払わされたことに気付く。(経営陣は)問題に取り組む代わりに、末っ子(CIO)を家から追い出して決着を図る。だからこそ大企業の多くで、ITが高価な失敗に終わっている……。”
  • “(いまだに多くの企業が)冷笑的な態度の取締役会、意欲を喪失したIT部門、苛立ちを強める大勢の顧客を相手に悪戦苦闘している。”

 著者は、ITを効果的に管理・運用するために、次の3原則を提案している。

1.企業戦略と連動した長期的なIT再生計画

IT部門全体の意識を、数年にまたがる全社目標に向けさせる。ITシステムの再設計および価値創造に向けた青写真を描くような長期計画が必要となる。

2.シンプルかつ全社統合的なITプラットフォーム

3.機能性とパフォーマンス重視のIT組織

寄せ集め集団と見なされたりすることなく、チームで作業に当たり、業績評価基準に従って業務を進める。

 つまり、ITの長期計画や青写真がない。プラットフォームはアプリケーション分野

ごとにバラバラ。寄せ集め集団が業績評価基準など無視して、バラバラに作業に当たっているのが現状だ。これは、今からIT化を進めようという中小企業の話ではない。フォーチュン100に名を連ねる米国の大企業の話である。

 これが米国の現状なら、ITの分野でも、われわれの問題はわれわれ自身で考え、われわれの考える方法で解決すべき時点に来ているということになるが、皆さんはどうお感じだろうか?

*1::IT戦略に基づく経営戦略――戦略創出型の例として、よく例に出されるAmazon.comのケースも、ITを理解していた創業者の経営戦略の柱として、IT活用があったという考え方ができる。クリック・モルタル論議の蒸し返しになるが、ドッグイヤーの「犬の寿命が尽きるころになってやっと黒字」、この間の「投資の大部分は“普通の本屋さん”になるためのもの」をどう考えるべきだろうか。このケースは世の中の普遍的な流れなのだろうか、あるいは多様性の中の1つ特異なケースなのだろうか。1980年代にはやったキーワード「SIS」の論議を何となく思い出させる。

*2::このような考え方は古典的で、戦略は存在し得ないという意見もあるが、業務プロセスやITの全社最適化や、適切にITが活用された経営戦略が実現されるようにするための啓もうや教育活動、支援活動、組織体制などに、別の意味での高度な部門戦略が必要になる。

*3::ITの技術についての理解ではなく、ITで何がどのように、およそいくらでできるものかなどが、必要な場合に頭に浮かんでくることを意味している。昨今、IT企画担当者のこの面での能力低下が懸念される。外部業者の検討や見積もりに頼らなければならないような状況からは、種々の組み合わせや方法の比較検討結果から見出される最適な内容の企画など望むべくもない。

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