IT化と投資の“正しい”関係とは?(前編)何かがおかしいIT化の進め方(11)(2/3 ページ)

» 2004年10月23日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

問題の本質――業績が投資効果

 話を聞いているときには分かったつもりでいたことでも、それを自分が他人に説明しなければならない立場になった場合、はなはだ心もとない理解であったことに気付くことがある。

 その昔、係長(数名のチームリーダー)だったころ、「組織の中で自分のやりたいことを通したいなら、2つ上の役職者の立場で考えてみろ」といわれたことがあった。課長に説明して分かってもらったつもりでも、さらに課長が部長にうまく説明できて、部長が納得できる話になっていないと、物事そう簡単にうまくは進まないということだ。

 昨今、多くの企業は投資家(株主)を強く意識せざるを得ない環境に置かれている。投資家がまず気にするのは株価や業績、次いで背景にあるROA、ROEEVA……など、施策運営のパフォーマンス指標や、企業環境であろう。

 「情報システムに大きな問題がある」といったことが、評価のマイナス要因になることはあっても、情報化投資自体がプラス要因として評価対象になることは極めてまれである。関心の対象は、投資の結果もたらされる企業の業績にほかならない。

 企業にとってIT・情報化そのものは目的ではない。情報化投資の目的は、これによって支えられる業務プロセスの改善・改革や顧客満足の向上などによってもたらされる、業績への寄与にある。つまり、外からも内からも“業績・効果”が関心の対象であり、それを得る手段に対する必要な施策が計画され、適切に運用されているかが問題なのだ。

 情報システム部門の責任者や、CIOを補佐する企画スタッフには、ITや情報システムを中心に置いた発想を離れ、経営トップのその先にいる投資家(株主)の納得が得られる投資効果、社外向きのシステムなら顧客の評価が得られるシステム内容など、社外の利害関係者(ステークホルダー)から理解の得られる情報化という観点から問題を見直してみてはどうであろうか。問題の本質がはっきりしてくると思う。

 「投資の効果が直接的か間接的か」、あるいは「短期に実現できるものか、結果が出るのに時間のかかるものか」は別として、投資結果は業績に反映されるべきものであり、そのために必要な施策が具体的に実行されなければならない。これは情報化に限らず投資全般について求められていることである。

 お金を使うことが投資ではない。効果を得て目的を達成し、投資を回収するまでが1つのプロジェクトである。お金を使うシステム開発と効果を生み出すための業務プロセス改革施策の実行を、一環のものとして管理しなければならない。

道具に効果は付いてこない??効果は使い方次第

 工場の製造装置の更新に際して、「この新しい装置は、現存装置の2倍の能力がある」「熟練者でなくとも容易に操作できる」「この装置の購入コストは××、運用コストは××で、コストパフォーマンスは高い」など性能や機能とコストで、この設備計画の投資評価はできるであろうか? 同種装置や委託生産など、ほかの製造手段との比較などで、この装置自体の評価はできても、投資の評価にはならない。

 ITの分野には「××システムの構築をすれば、××ができる」といった表現の企画書がまだある。もし、製造部門がこれと同じように、「この装置を導入すれば、売り上げが2倍に出来る」などといい出せば、社内で失笑を買うのがおちであろう。市場に需要があり、会社の売り上げを2倍にする必要性があり、販売部門がそれを理解して必要な施策を行う意思や能力があって初めて、この2倍の生産能力の必要性や有効性が生じる。売り上げを2倍にするという会社の目的に対し、販売の具体的施策が販売部門で考えられ、その遂行の条件の1つとして、2倍の生産能力を持つ装置が必要というのが問題の構造である。

 目的達成に手段は必要であるが(必要条件)、1つ手段を整えれば目的が達成できること(十分条件)にはならない。ITを入り口とすると、出口(効果)のはっきりしない問題になる。しかし、理屈では分かっているつもりでも、現実の場面での目的と手段の混同は本当にないといい切れるだろうか? 具体的な話になるとITを基点にした道具からの発想、ITを中心に置いた手段が目的化した行動になってはいないだろうか。

 システム思考は、要素間の論理関係を明確にしてゆくことがその基本のはずだ。システム化に携わる人に、目的と手段、因果関係の取り違えがあってはならない。

 「熟練者でなくとも容易に操作できる」については、新人やアルバイトに依存する熟練者の払底した職場なら、その必要性があり効果も大きい。しかし、熟練者や上昇志向の人の多い職場の場合には、かえって社員のやる気(モラール)をそぎ、生産性や品質向上意欲を損ねる結果になるかもしれない。効果は背景の条件により大いに異なる。

 情報システムの分野でなら、情報システムのデータ入力方式を考えてみてほしい。時々しか扱う機会のない不特定多数の素人・一般社員にとって扱いやすいメニューの選択方式も、毎日のルーティン作業としてデータ入力操作を行い、数百件のコードぐらい頭に入っている専門職にとっては非能率極まる方式になる。同じ道具の機能も、目的と条件次第で利点にも欠点にもなるのである。

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