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» 2004年10月23日 12時00分 公開

IT化と投資の“正しい”関係とは?(前編)何かがおかしいIT化の進め方(11)(3/3 ページ)

[公江義隆,@IT]
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ベンダの思考とユーザーの思考は本来異なるはずだが……

 「作れば売れる」のは、“需要>供給”という関係の成り立つ高度成長期や、高度成長分野の製品やサービスに限られる。

 情報化について、現在の需給関係をどう見るのが妥当であろう。現実の多くの事象を見る限り、一般論として“潜在需要>供給”の関係(当社も何かすべきではないのか、できないのか……漠然としたもの)はあっても、“顕在需要>供給”  (具体的な情報システム構築のニーズが、ユーザー部門からどんどん出てくる)状態とはいいにくいと思う。

 新しいものを考えるとき、以下の2種類の考え方・アプローチがある。

  1. 『技術中心思考』・『シーズ指向(SEEDS:種)』
  2. 『問題中心思考』・『ニーズ指向(NEEDS:必要性)』

 前者の『技術中心思考』・『シーズ指向』は、新しい技術やアイデアを商品化し、事業に結び付けていこうという売り手側にとっての一般的な考え方だ。ベンダ企業にとってはITが事業目的である。すべてがIT中心に考えられる。潜在需要の顕在化、需要の創成といったマーケティング活動(新しい技術の使い道を考える。新しい概念や手法の売り込み方法を考えるなど)が商品化というプロセスを通じて行われる。

 「個々の顧客にとって今、本当に必要か、大切か」は関知しないし、またできない問題である。一方、ユーザーである買い手側は、本来ならば後者の『問題中心思考』・『ニーズ指向』に立つのが適切なはずである。つまり、解決すべき自分の内の問題や、やるべきこと、やりたいことを整理し、これを実現するために必要な最もふさわしい方法や道具(技術)を探し選ぶ(ときには開発する)というアプローチだ。

 少なくとも、IT以外の分野ではこれが一般的である。この考え方なら、いま一番必要なもの、重要なことから手を付けることになり、無駄な買い物でお金や努力の浪費をしなくて済む。

 ユーザーが『問題中心思考』・『ニーズ指向』で“WHAT”と“WHY”を考え、ベンダが『技術中心思考』・『シーズ指向』で“HOW TO”という関係でお互いに補完し合えれば、全体として好ましい姿になる。

 しかし、ITの分野では、何としたことか、買い手側であるユーザー企業のIT技術者までも『技術中心思考』・『シーズ指向』に陥っている傾向がある。コンピュータ活用の黎明期から長年にわたり、大手コンピュータメーカーに依存してシステム化を進めてきた故か、日進月歩の技術と喧伝(けんでん)されるメッセージにほんろうされた結果だろうか、あるいは社内の立場上、技術者としての顔をする必要があるのか……。

 その一方で、IT企業の経営者が、“ITによる将来の経営の在り方”を語るなど、主客が転倒した状況になっている。ITの活用方法を、ベンダから教えてもらう時代は既に終わっている。自分たちの業界、自分たちのいる会社に必要な最適な情報化は、自分たちで考えなければ描き出せない。

 ユーザー企業は、『問題中心指向』・『ニーズ(NEEDS:必要性)指向』に立とう。この世の中も会社も、IT中心に動いているわけではない。

  • IT世界と非IT世界の間に思考の境界線を引くのは、もうやめよう。
  • IT分野を特別扱いするのをやめにしよう。
  • 新しい分野には社会的常識やノウハウの蓄積は浅い。ほかの分野の常識や蓄積された知識やノウハウに学ぼう。

 情報化投資はユーザー企業自身のビジネス問題である。情報化投資や投資評価についての問題を検索ロジックで言うと、“ITの問題”ではなく、“企業の投資・投資評価の問題→投資対象がITと業務改革”としてとらえれば、話は随分簡単になる。

 IT分野を特別扱いして難しい理屈を並べなくても、「自社にとって本当に必要な情報化とは何か?」「その投資はどんな形で回収するのか?」「その結果に誰が責任を持つのか?」をはっきりさせるという、ほかの分野と同じ常識で論じる問題、もっと考えやすい問題になる。この辺りの考え方をはっきりさせておかないと、投資評価の混乱の種になる。

投資の社内基準の持つ意味と個別案件の評価

 企業の発展にとって投資は非常に重要な問題であり、多くの会社では投資評価基準や決済の手続きを定めている。情報化投資についても、このルールにのっとって決定がされるのが普通である。

 企業の望む成長を達成するために、投資に回せる“限りある経営資源”を、いかにうまく配分するかという問題である。この中で、ROIや投資の回収期間などの数値基準は、個々の案件の採算性に対する必要最小条件を与えるものといえる。この条件を満たせない案件は、企業の求める成長に資することができないし、限りある経営資源をこれに投入することは、より高い投資効率を持つ投資への機会損失を生むことにもなる。

 このように考えると、ROIや投資の回収期間数値の社内基準は、個々の投資案件の評価目的もさることながら、公正な投資配分のための全社共通の物差しという点に大きな意味があるといえる。数値基準としては、DCFによるROIや回収期間などが取られている場合が多いようだが、現実にはこんなものだけで投資の評価や判断がされているわけではない。

 投資対象によっては、最終的にROIが評価・決定の基準になる課題もあるが、多くの社内課題では、課題ごとに固有の異なるストーリーがあり、評価の対象となる項目・視点は課題ごとに異なる。これらの項目が網羅できていれば評価可能なはずである。なお、評価基準や、方法そのものに説明の要るような難しい評価法は、かえって問題を混乱させる。

課題の優先度

 “情報化課題の投資優先度”という言葉がある。

 これも、IT世界の中でITを基点に置く考え方が不必要に問題を難しくしている。ITは道具、情報化は手段なら、道具や手段から見る優先度という発想に無理がある。優先度を決めるのは、企業目的にかかわる経営や業務の施策の方である。

 会社の最優先施策を支援する情報システムやIT課題が、最優先の情報化・IT課題ということになる。これが道理ではないだろうか。この考え方なら、「どの施策が、どのように、どの程度に重要か」という、社内関係者が誰でも論議できる問題になる。IT投資といっていても、本当の投資対象はITを使う業務改革や業務施策である。

 ITと名が付くだけで、閉じたIT島の中の問題にするのをやめよう。この小さな島の中の考え方は島の外の人には理解できない。そもそもが島の中の問題ではない。IT島の住民は島の外へ出て議論しよう。


 後編では、BSC(バランス・スコアカード)との関係、インフラ投資の評価とコストの扱い方、情報セキュリティ投資の考え方などについて紹介する。

profile

公江 義隆(こうえ よしたか)

ITコーディネータ、情報処理技術者(特種)、情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)

元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる


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