いまのIT組織でいつまでやっていきますか?何かがおかしいIT化の進め方(15)(1/3 ページ)

過去10年間にユーザー企業では、ITに関する組織体制に対してさまざまな取り組みがされてきた。しかし、それらの取り組みの中には、目先の問題に対して“取りあえず”行う対応など、実質的にはその場しのぎと思われるものが少なからずあったと思う。では、今後のIT組織体制はどのようにしていけばよいのだろうか?

» 2005年04月22日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

 過去10年、経営革新とIT革命の掛け声の中で、ユーザー企業ではIT・情報化の組織体制面に対していろいろな取り組みがされてきた。しかし、それらの内容には“取りあえず”といったものも数多くあったと思う。IT化が新たな局面を迎えている現在、現状の評価と将来の見通しを踏まえて、ユーザー企業の“今後向かうべきIT組織体制”を、ITに対する経営トップの関心のあるいまのうちに、もう1度考えてみるべきではないかと思う。

少数化した組織は精鋭化したか

 経営革新や業務改革を迅速に進めるためには、トップダウンによる推進が必要であった。改革を支援し、新しい業務プロセスを定着させる道具と位置付けられたITと、これを担う組織にも集中や集権が求められた。一方で、戦略の中核プロセス、いわゆる“コアコンピタンスに特化する”という考え方から、システム開発や運用・保守業務の切り離しが行われてきた。結果的に多くの企業で、企画重視の集権的な組織体制が出来あがった。

 「少数精鋭の本社」と「子会社化やアウトソーシングによる効率化や専門化による質の向上」は誰も反対できない正論ではあったが、狙いどおりに進んだのだろうか。少数化した本社のIT組織は精鋭化できただろうか。

 「角をためて牛を殺す」ようなことにはなっていないだろうか。

現場の実態が分からなくなっていないか

経営の中枢に近づいた組織の位置付けによって、従来から問題視されていた「経営とITの乖離」という問題は改善された。またアウトソーシングなどによる自前主義からの脱皮で、量的な問題は軽減された。

 その一方で、企画中心のIT組織は、切り離された開発や運用部署との組織の壁に阻まれて、IT現場の持つ知識やノウハウ、さらにここを通じて得ていた業務現場の問題把握の“すべ”を失い、開発や運用、あるいは業務現場との間に乖離を作ってしまった。企画の検討に際して、開発や運用に必要な費用を自分の頭の中で想定し、あれこれ比較しながら案を練ることができているのだろうか。

 “成功させるポイントは何か、どのような方向ならうまく問題解決できるか”といったことが、頭の中に、また企画書のうえに描き切れているだろうか。企画がうまく具体化(ブレークダウン)できない、具現化できないといった問題が増えていないだろうか。それを開発や運用組織の問題と思ってはいないだろうか。

統括機能は機能しているか

 大きな組織のすべてを把握して管理することは現実問題として不可能であり、適切な権限委譲が必要になる。しかし、その条件として「全体(全社)方針の設定とその周知」「具体的な内容の標準やルールの整備と徹底」「適切なチェックと支援の機能」という統括機能・求心力が十分に機能して、分散/権限委譲という遠心力とのバランスが取れるようになっている必要がある。これがなければ、“良いところ取り”を狙った方式は期待と逆の結果になる。

 課題の種類や開発フェイズで、本社と各部門のすみ分けを図る“連邦制”といわれる分権体制は、うまく機能しているのだろうか。標準や基準が十分でないまま、アウトソーシングによって不整合や非効率が蓄積されてはいないだろうか。明快なルールがなく、結果的には人治主義、統括の仕組みなき分散になってはいなかっただろうか。

企画要員の能力は向上したか

 経営や業務が求めるモノに対し、的を射た内容や水準と、実現できるような実行方法を併せた計画策定が企画担当者の役割である。そのためには、企画の担当者が“結果に責任を持つ”という意識(*)を持つことが大切である。結果の不首尾を実行段階の問題と思っていても、実は企画担当者が実行組織の状況・能力や環境条件を読み違えていたり、事前の調整不足が原因という場合も少なくない。


(*)現実問題として、スタッフである企画担当者には、実際には責任を取り切れない場合が多いのではあるが……。


 「建前論のアイデアに理屈を付けたような案」を虎の威を背景にやろうとしても、そううまくいくものではない。しかし、よほど心しておかなければ、権力の近くにいるほど、このような傾向に陥りがちである。権力で人や組織を動かそうという考えが強まると、向上心は消えてゆく。また、周囲の人の心を荒廃させてしまう。

 IT課題の真の問題や解決方法は、本社の机の上ではなく、業務の現場、ITの現場にあるのだ。企画書や計画書の中の1つ1つの言葉の先に、具体的な現場の姿が見えていなければならない。

 現場に踏み込んだ具体的な思考は、現実にはどこまでできているのだろうか。

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