連載
» 2005年01月25日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(13):IT化と投資の“正しい”関係とは?(後編) (1/2)

連載第11回の前編と第12回の中編に引き続き、後編となる今回も“IT投資の評価”に関する問題を考える。今回の問題には、情報セキュリティ投資や事後評価の問題を主に取り上げて考えたい。

[公江義隆,@IT]

再構築やソフトの更新
――ソフトウェアの寿命と減価償却についての理論武装を始めよう

 システム再構築、中でも経理会計システムなど間接業務にかかわる情報システムの再構築投資の評価は特に問題が多い。もともと効果を生まない業務が対象であるから、情報化による大きな付加価値など望むべくもない。最初のシステム化の段階では、省力や業務の迅速化(決算日程短縮)などの効果が大きかったが、第2次、3次とBPR(業務改革)とシステム再構築、再々構築をやってきたところでは、更なる再構築のための投資を賄えるほどの改善効果は、業務面からも技術面からも期待するのが難しくなる。グループ会社のシェアードサービス化や、連結会計とグローバル化へのシステム対応あたりが効果を搾りだせる、あるいは説明のできる最後の機会かもしれない。

 古いアプリケーションが新しいインフラに対応できない。現在利用しているソフトウェアのバージョンがサポート切れになり、特に新たなメリットを生むわけでもないバージョンアップが必要になるなど、前向きなニーズよりメンテナンス問題などの後ろ向きな問題の解消や軽減が目的といったケースが増えてくる。業績不振事業部門で、十数年来の基幹システムを使い続けているという会社もある。

 多くのシステムがいずれこのような時期を迎える。ソフトウェアの寿命と減価償却についての概念理解が必要になる。減価償却という概念は、ハードウェアに対しては一般に理解されているが、ソフトウェアについては、法制度上はそうなっていても(ソフト資産も償却対象になっている)、一般にはその認識がほとんどないのが現状だ。今から理論武装と仕組み作りを考えておかなければならない。

 受身の姿勢のままで追い詰められてくると、システム全体や業務全体をアウトソースして丸投げする誘惑に駆られるかもしれない。世の中にはASPだのシェアードサービスなど横文字が並ぶ。しかし、これは本当に慎重に考えて欲しい問題である。もし経理のシステムや業務をすべて外部に出せば、お金の流れから現場の実態を把握しコントロールする能力や経営管理力は、時間とともに確実に失われてゆく。目先のメリットやIT部門の問題回避で大局を見誤ることのないように切に望みたい。

 先日、ある大手電機メーカーを訪問したとき、経理部長さんがIT部門に対する要望としてこんな発言をされていた。「現行の経理処理の、詳細な仕組みの分かった人をIT部門としても維持しておいて欲しい。経理部門でもそのような人は数少なくなってしまった。何かあったときや、何かを新たにしようとするときにそれに対処できる最小限の人材は、会社として何としても確保しておく必要がある」と。この会社は堅実な経営と先進的なITで知られる企業である。

 二十年も前、私のいた会社では経理部長からはこんな皮肉(?)を言われた。「君らがあまり立派な経理システムを作ってくれるので、(システムが整備されていない)関係会社に出向したうちの部員が困っている」。入社以来、仕分け処理の1つさえ自分の手作業でやったことのない経理部員が増え始めていたころの話である。

 こんな情報化の影の問題はどんどん大きくなっているが、これが新しい施策や投資評価の場でプラス面と共に議論されることは少ない。先日、電力会社の原子力発電所で起こった事故の背景にある、効率化を推進する本社、問題には気づいていた発電所建設を請け負った大手機械会社と、その後設備保守を担当することとなった権限の無い子会社と現場という関係を、企画だけ担当する本社、システム開発を請け負ったSIベンダ、その後に保守業務と運用を押し付けられた情報子会社と現場という構図に当てはめてみれば、他人事ではないと思う。物事には必ず光と影の両面がある。IT分野も影の部分が無視できなくなっている。光と影の同時評価が必要なのだが……。これから本当にどうしますか?

システムの機能強化・追加という保守の問題
――システムのライフサイクルを通じて必要な事後の評価

 既存システムに対する大幅な改定や機能追加などの問題もある。多くの場合、これによって新たにシステムの付加価値が高まるということではなく、やらなければ、事業環境変化や法規制に対処できなかったり、競争相手に先行を許してしまうなど、価値を損なったり、結果的にシステムの寿命を縮めてしまうことになる。理屈からいえば、そのまま放置した場合に発生する損失と、手を加える為に必要となるコストのバランスということだろうが、時間的に検討の余裕がない中で、システムの維持「メンテナンス」の一環として対処せざるを得ない場合がほとんどであろう。

 このようなメンテナンスを行っていても完全に対応できないケースもあり、システムの価値は徐々に低下(陳腐化)してゆく。システム毎に運用コストやメンテナンスコストの把握管理体制を作り、中長期にこの維持コストの発生状況の傾向を捉えながら、上記の価値の低下と、その時点で考えられる最良のシステムとの違い(機会損失)を想定しながら、1〜2年の周期でシステムの評価を継続して行くことが大切である。ただし、これは適切な保守の体制と方法が採られていての話である。保守や運用軽視の現在のような風潮の中では、開発の都合優先で必要以上に保守コストがかさむ構造になっていたり、適切な保守ができず、これがシステムの陳腐化を早め、結果的に長期のコストを膨らませている可能性が高い。

 事後評価は、稼働開始時点の1回に留まらず、システムのライフサイクルを通じて必要な問題である。目先のメンテナンスコストは安いようでも、少し長い目で見れば作り直す方が得策というタイミングが見えてくる。多くの場合、このタイミングはITの技術の環境変化より、事業環境の変化の大きさに左右される。事業環境に変化がなければシステム改定の必要性も生じない。リース切れ状態でタダ同然のメインフレーム上で、枯れて安定した(手の掛からない)システムを、可能な限り使い続けるという策も捨てたものではない。一方で、メンテナンス体制不備のためにメンテナンスが不能となり、システム寿命を縮めてしまっているケースもある。

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