今回は前回に引き続き、IT組織体制を考える。前回は、多くの企業が現在抱えるIT組織の問題を俯瞰(ふかん)し、将来への組織体制を「立場が持つ競争力」と「人材開発投資の回収の可否」の2点から考えることの必要性について説明した。今回はIT部門の機能の将来を中心に考える。
組織機能の集中と分散はなぜ繰り返すのだろうか。
集中は集権、いわばトップダウン的、分散は分権、ボトムアップ的に運営される体制ともいえる。
集中にしろ分散にしろ、その形を採用した時点では必要性や狙いは明確であったはずである。しかし、1つの形態が長く続くと当初の問題意識や目的が忘れられてしまい、利点より欠点や弊害が蓄積されてくる。人間の持つ特性の弱い部分が顕著に表れてくるようになる。
例えば、当初は極めて迅速に変化に対応して効率的に機能することが目的であった集権体制では、やがて権力側は無意識のうちに謙虚さを失い、自らの利益を優先するような行動に走るようになる。下部組織は怠惰になり、いわれた最低限のことを形式的にしかやらなくなる。双方に活力や向上心が失われて周囲の変化についていけなくなる。
一方で適切な統括機能のない分散体制では、やがてそれぞれがバラバラな動きをしだし、全体的に見ると多大な矛盾や無駄が生じていたりする。かじのない船の状態になり、嵐の中では難破の危機に見舞われる。
このような弊害の蓄積が限界を超えると、これを取り除くために土台から入れ替えようという動きになる。
過去十数年において、日本企業の間に起こった集権化の動きの背景の多くには、大きな企業環境の変化という嵐の中で、もはや耐えられなくなった状況から、トップダウンで脱出しようというものがあった。IT部門も情報システムもこの動きから無縁ではいられなかった。
しかし、改革や組織の改編には企業として多大なエネルギーが必要になる。将来の組織体制を考えるうえで、このような変革が必要となる頻度や、変化の“振れ幅”が極力少なくて済むようにしておく必要がある。
この問題のキーポイントは適切な権限委譲(遠心力)と、これとバランスの取れる「求心力としての統括機能(*)」である。
従来、情報システム分野での集中・分散論議は、どちらかといえばコンピュータやコンピュータ処理に焦点を置いた発想が多かったように思う。しかし、これはコンピュータの価格が大変高く、通信ネットワークに制約があった時代を引きずった考え方だ。この制約がほぼ解消した現在、会社の中で「どの問題は、どこの、どのレベルの責任・権限で決められているか、IT化の効果の受益者は誰か、コストの負担者は誰か、IT化の対象である業務プロセスに責任を持つのは誰か」といった、社内組織の権限(責任)実態に合わせたIT組織とその運営を考えていかなければならない。
“改革”の後には“改善”が必要になる――権限委譲・分散化と統括機能の整備をトップダウンで進めてきた“改革”は経営や業務の枠組みの入れ替えである。生まれたばかりの新しい枠組み上の業務はまだ穴だらけだ。この新しい枠組み上での日常業務に磨きを掛ける“改善”がこれから必要になる。改善はボトムアップが基本である。改革のめどの立った企業では、ボトムアップのための権限委譲・分散体制と全体統括の機能整備が必要になる。
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