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» 2004年12月02日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(12):IT化と投資の“正しい”関係とは?(中編) (1/3)

前回に引き続き“IT投資の評価”に関する問題を考える。今回はその中でも、IT投資評価とBSC(バランス・スコアカード)との関係や、インフラ投資の評価などを中心に検討してみる。

[公江義隆,@IT]

結果の不確定性というリスク

 「投資結果を確実なものにするのは、計画内容の論理的な妥当性と、目的達成に向けて不確かな要素を乗り越える努力をする関係者の意思である」

 この観点から以下の1?4は計画の重要な評価・判断要素になる。これらがあやふやだと机上計算のROIと実施結果に大きな乖離が生じる可能性が高くなる(※1)

  1. 論理性:投資目的達成、効果(業績)に至るプロセスが論理的に正しく明確か
  2. 具体性:このプロセスに必要な具体的な業務施策がすべて準備されているか
  3. 必要性の理解・納得:このプロセスや施策にかかわる人たちが、経営戦略や方針との関連、投資の目的と必要性を十分理解しているか
  4. 能力、意思:関係者が実行能力と実行する意思を有しているか

(※1)
“1”が正しくなければ、“2”以下の努力は多くの場合無駄になる。また、“2”がなければせっかくの良い内容も実行されないため、効果発現に行きつかない。このことから、IT化と業務改革・業務施策は一環のものとして、同時並行的に進めなくてはならない。“3”の必要性の理解は、さまざまな困難に打ち勝って施策を実行していく“4”にかかわる人たちにとって、最大の動機付け(モチベーション)になる。なお、社内を対象にした問題は、マネジメントのリーダーシップいかんによって、かなり結果が左右されるが、対象が研究などのサイエンス分野であったり、顧客といった社外の不特定多数である場合には、結果の不確定性(リスク)は大きなものとなり、特に“4”のウエイトが高まる。


IT投資評価とBSC、そもそもがITへの投資でなく業務プロセス改革への投資

 バランス・スコアカード(BSC)KPI(Key Performance Indicator)によるIT投資評価といった方法を見ることがある。BSCは経営目的と必要な諸施策、情報システムの因果関係全体を戦略マップで可視化することにより、論理性の高い、分かりやすい計画にして管理しようというものだ。また、内包される必要な種々の施策の達成すべき成果目標をKPIとして表し、その実行責任をはっきりさせていこうという観点から、効果を確実なものにするために、プロジェクトマネジメントの一環として活用することが有効だと思う。

 もともとIT投資といっている問題は、ITに投資するというより、業務プロセス改革への投資(この中にITが道具や手段として登場する)として考えるべきだ。こう考える方が一般には理解されやすくなると思う。

 BSCの考え方を持ち込む場合、ポイントは因果関係の具体的な表現であって、BSCの4つの視点にこだわる必要はあまりないように思う。同様に、KPIは誰にでも分かる具体的な成果イメージであれば、必ずしも“定量的”の部分にこだわる必要もない。無理やり計数化して、かえって分かりにくいものになったり、数値化に固執して本来の目的からズレた指標設定になるよりはよほど良いだろう。「定量的な問題は定量的に、定性的な問題は定性的に表す」ことが分かりやすいのだ。複雑であるほど解釈の違いが生まれ、言い訳がしやすくなるからだ。

 要するに、目的・目標を達成するために「何を、なぜやらないといけないか」と、「誰が、どこまでやらないといけないのか(目標の指標)」「できたのか、未達なのか(結果の評価)」が誰の目にも分かるような、言い訳のできない形になっていることが肝要なのだ。BSCも使い方次第の道具である(※2)

 一方で、ITが独断先行(?)した企画に対して、後からBSCマップを使って“こじつけ評価”をしたような資料を見ることがある。「IT化をすれば顧客満足度が上がり(顧客の視点)、売り上げが25%上げられる(財務の視点)」と、戦略マップ上に一見もっともらしく記載されている。しかし、「IT化でなぜ顧客満足度が上がるのか」や「なぜ25%も売り上げアップできるのか」といった具体的な説明ができない場合や、「そのために誰が何をするのか、どうやってするのか」についての具体的な計画と実行がなければ、机上の無責任な願望にとどまる。一見もっともらしく表現した分だけ罪が重い。ましてや、BSCの戦略マップ上で情報システム部分と業務施策部分を分断することによって、「ITだけはうまくやりました」で事を済ませる言い訳の材料に使うなどというのは論外である。

 社内関係者への協力要請や検討調整のためのたたき台資料と、評価資料は別である。もともと、なかなか理解してもらいにくいIT問題の、疑問の多い投資評価のために、さらに耳慣れないBSCというアルファベット3文字略字をわざわざ持ち出して、理解や納得を得られる勝算はあるだろうか。ITの投資評価問題も、ITの問題として独自の計算式や方式などを持ち込むより、既存の社内ルールのうえでほかの投資と同じように扱っていく方が理解されやすい。


(※2)
経営計画のプロセスの構造は、図「IT化と経営計画プロセスの構造」に示すようにマネジメントの各階層で、上位レベルからの課題(BSCではCSF)と、その達成目標(BSCではKPI)に基づき、そのレベルでの戦略(どのような考え方や方法で実現するか=どのような考え方や方法は用いないか)に基づいてストーリーを考え、下位レベルの課題(BSCではCSF)と目標(BSCではKPI)に展開していく(各レベルとも、プロセスの基本構造は図の左上に示すように同じである)。


 ITや情報システムの課題は多くの場合、業務施策を構成(支援)する一施策という位置付けになる。また、同じレベルの隣にある業務実行課題と、上位の関連業務施策がすべて実行されて初めて、会社の求める経営施策や目標達成ができるのだ。

 ほとんどの問題(解決)では、利害関係者間(株主、顧客・取引先、会社、社員、地域社会や社会全般)や長期・短期の業績の間で、二律背反問題に対する利害調整が必要になる。会社が何かをするということは、業務プロセスの問題(業務プロセスの視点)が発生することにつながる。昨今では多く場合、顧客のことを考えないと売れない(顧客の視点)し、新しい企画の実行には従業員の教育が必要(従業員・教育の視点)になり、何をするにもお金の問題は避けては通れない(財務の視点)。つまり、BSCも計画や実行管理や評価をキチっとやっている会社が、昔からやっている考え方と基本的に同じことになる。最上位の項目は、米国発のBSCでは“財務”になっているが、本来は“経営理念”であり、その下に“財務の視点”があってしかるべきであろう。また企業によっては種々の行動規範が条件として随所に顔をのぞかせることになる。

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