IT化と投資の“正しい”関係とは?(中編)何かがおかしいIT化の進め方(12)(2/3 ページ)

» 2004年12月02日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

戦略的システム投資と効率化システム投資という分類は……

 情報システムを、戦略的システムと効率化システムに分類した資料を見ることがある。何となく、効率化システムはレベルが低く、これからは戦略的システムの時代といったニュアンスの表現であったりする。

 従来、「戦略的にご判断いただき……」などというベンダの売り込み話には、「それでは1つ、戦略的価格でお願いしたい」などといってお引き取りいただくことが多かった。

 いまでもITの分野で使われる“戦略/戦略的”という言葉には、効用を論理的にキチっと説明できていない言い訳に使われているように感じることが少なからずある。もちろん、不確定要素があるがゆえに必要になるのが“意思決定”であり、感と勘、経験、度胸に頼る部分はどうしても残る。しかし、それは論理的に考えられる部分は十分に考えたうえでの話である。「新しいことは、やってみないと分からない」という話についても、少なくとも情報化問題についても同様である。「人事を尽くして天命を待つ」であるべきだろう。

 情報システムから経営目標である“効果”に至る問題構造の分析や、必要な具体的施策の企画や調整を、その複雑さや困難さに根負けして途中で放棄し、間接的効果、定性効果システム、戦略的システムなどと称してお茶を濁し、結末を他人任せにしてきてはいないだろうか。複雑な問題ほど、事前に内容を明快にしておかないとうまく進まない。分析・計画段階、そして実施段階すべてにおいて“やり抜く気力”がポイントになる。

 情報システムで支援できることを生産性の式に投影してみる。

 少し乱暴だが、はやりのキーワードを当てはめると、CRMKMシステムなど情報活用型のシステムは1、SCMなど管理の高度化システムは2、BPRを狙ったERPなど日常・基幹業務のシステムはおおむね3といったことになる。

 しかし、このようなシステムの種類で効率化か戦略的かを分類することはとても難しい。他社と差別化が難しい一般・標準品(コモディティ)を扱う企業では価格が競争力になる。徹底した効率化や省力化が、経営にとって戦略的にも重要なはずである。サプライチェーンの管理は、単なる物流コスト軽減の効率化目的のレベルから、新製品の販売戦略の一環として位置付けられているケースなどさまざまである。収入を増やすための情報活用=戦略的とも言い切れない。

 いずれにせよ、投資の評価はその時点時点で経営が求める目的やその重要度からなされる問題で、システムの分類から評価基準が変わるような問題ではないと思う。戦略的システムか効率化システムかは、システムの目的からの大分類、経営者の意識としての分類だと思うが、用いられる戦略的の意味、また“効率化”と“戦略的”を対比させる視点が、私にはまだよく理解できていないので、この観点からの戦略的システムについての論議は、今回はやめたい。

不確定性・リスクの高い問題の構造

 代わりに、効果の不確定性・リスクの高い課題を、「問題の構造」という観点から考えてみたいと思う。

 情報システムと経営目標である効果との関係を、前出の図「IT化と経営計画プロセスの構造」で考えてみると、基本的な問題構造に違いはないが、上式の3→2→1の順に経営目標への経路が複雑になり、また並行して実施が必要な業務施策や実行課題の数や種類が増加していく。さらに、施策の対象が顧客や取引先や地域社会など会社の外に及んでいくと、コントロール能力は急速に低下する。このような問題構造のために“結果の不確定さ・リスク”が急増していくことになる。リスクの種類や大きさを考えた評価が必要という話になるが、もともと投資評価や意思決定におけるリスク評価は常識の事項である。この問題もIT島の外へ出て、リスクの種類と大きさを説明できれば解決する問題である。

 このような難しいシステム課題が増えていく中では、投資評価に際し、不確定性を“効果が実現できない可能性の大きさと考えるか(結果は成り行きという見方)”あるいは“効果を得るまでに必要な努力の大きさの変動幅と見るか(できるまでやることが前提)”という、リスクに対する考え方をはっきりさせておくことが大切だと思う。これは“言わずもがな”の組織文化の問題かもしれない。

 なお、この不確定性を確率として扱い、効果を統計的期待値で評価しようとする試みもあるが、このように1件1件が独立した案件の評価・意思決定の問題には、統計的な処理はなじまない。

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