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» 2006年01月11日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(23):阪神大震災10年目に考えること、するべきこと(後編) (1/3)

前編となる前回は、直下型大地震発生時の状況を、昨今の環境を加味しつつ1つの物語として描いた。大災害時には、日常的には意識していないようなささいな出来事が大問題になり得る。経営者や管理者は、このような事態を事前に想定し、考えて覚悟しておく必要がある。後編の今回は、問題を掘り下げ、対処の仕方や要件について考えてみる。

[公江義隆,@IT]

 前編では、直下型の大地震発生時の状況を、阪神・淡路大震災当時を振り返り、また昨今の環境を加味して1つのストーリーとして描いてみた。

 大災害の発生時には、「従業員やその家族の安全や生命」と、「企業の災害復旧活動の遂行」との間での葛藤が生じる。また日常的には意識していないささいな事柄が大問題になる。企業の経営や組織のマネジメントに携わる人は、前もって考え覚悟しておく必要のあるこれらの問題について考えた。

 後編となる今回は、問題を少しブレーク・ダウンし、対処への考え方や要件を探ってみたいと思う。

 電気は消え、通信はままならず、窓ガラスは破れ、ひび割れした壁や天井、机の引き出しや棚の書類が床に散乱し、小さな機器は床に落ち、大きな機器は倒れて、接続していたケーブルが床に散らばった現場が話の出発点である。周りを見ると自分が最先任者だ。担当外の分野で、元がどうだったのか、いま何がどうなっているのかもさっぱり分からない状態だが、いまいるわずかなほかのグループの担当者や派遣社員を指揮して初動作業が始まる。

問題を最小限に絞り込んだ初動の指示書が必要

 大災害が発生した場合、もし現場に立ち入る(またはとどまる)ことができれば、ほとんどの場合に共通する初動活動がある。しかし、この初動段階では、自分の担当業務のことしか知らない少数の人員で、すべての問題分野に対応しなければならない場合が起こる。多くの場合に共通する初動活動とは、以下の4点だ。

  1. 自らの安全を守るための処置
  2. 緊急対処を要する場合の作業(ない場合もある)
  3. 状況の確認
  4. 連絡・報告

 上記1については、国の安全保障や、市民の生命や安全確保にかかわる行政の情報システムやライフラインにかかわる企業システムは別として、命を賭して現場にとどまり守る必要のある情報システムは、一般企業ではどの程度あるだろうか。結論とコンセンサスを得ておく必要がある問題である。

 ほとんどの場合は、「危なければ逃げろ!」のはずだ。しかし、この認識を公式に徹底周知させておかないと、責任感旺盛で気の弱い人が取り残されることになりかねない。人間は1つの環境に入り込むと、そこから離れる新たな行動を起こすのにちゅうちょする。災害のショックによる“うつの状態”では余計にそうなる。

 2は、例えば火災が発生している場合の消火活動や、けが人の救出や手当てなどである。けがの応急手当てのできる人の養成(消防署で講習している)や、最小限の薬品や医療材料、什器や壊れた建造物に挟まれた人を救助するための最小限の工具など、事前の整備の有無で、結果は大いに異なってくる。

 3や4の項目は当たり前のことと思われるかもしれないが、初めて経験する想像もしたことがない、めちゃくちゃな状況の中で、自分がよく分からない分野の問題について確認せよといわれても、具体的に何をどうすればよいのかが分からない/考えられない、誰に何を連絡すればよいのか分からないということになってしまう。

 なお、「建物の安全性に問題がある」「食料や水がない」「感染症の発生」など、場合によっては、ライフラインの絶たれた職場に多数の人がいること自体が、人の安全性を損ねる場合がある。家族の安全確保のための場合と併せ、“出勤を止める(帰宅させる)判断”が早急に必要になる場合があると思う。

 混乱した状態下で人を動かすためには、命令のような極めて具体的な指示が有効/必要になる。やるべきことや、方法を明快に記述した指示書が必要だ。昔、聞いた話であるが、飛行中の事故でパニック状態になった乗客には、『ひっぱたいて命令口調で指示しろ』と航空会社の客室乗務員は訓練されていたそうだ――いまはどうか知らない。

 こんな状況下でできることは限られているから、やることは最小限の重要事項に絞り、“できれば・やれれば”望ましいといったことは、最初からバッサリ切り捨てることだ。その方が現実的だと思う。

 確認作業については、やる人は「その問題については素人」という前提で、「具体的な対象」「それがある場所」「操作の具体的な方法」「確認の具体的な判定方法」などを、具体的に記述しておく必要がある。「いま、そのビルに電力は送電されていますか?」と聞かれてあなたは答えられるだろうか。「Windowsを立ち上げてください。立ち上がりましたか?」では、まったくの素人にはよく分からないのと同じである。

 「エレベータホール1階の玄関から向かって右側の壁に取り付けてある、30センチ角のグレーの金属性の箱の中の、一番左の黒いボタンを押してみて、その上にある赤いランプが点灯するかどうかを確認してください」といった指示なら何とかやってもらえそうな気がするが、どんなものだろうか。

 連絡・報告についても、相手先の名前だけでなく、すぐ行動につながる電話番号などの具体的な情報や、連絡すべき具体的な事項が明確になっていないと、担当していない業務分野に関する行動や判断はなかなか難しい。

 これら状況確認や連絡報告の方法については、簡潔に大きな字で紙の上に書かれた手順書が必須であり、誰でもすぐ目に付くところ置いておく必要がある。こんな話をすると「電話番号や連絡先は個人情報保護の対象だから目に付くところはまずい」という人がいる。目的と条件を混同しないで常識的に判断してほしい。少なくとも、こんなものがあることだけでも関係者全員に周知させておく必要がある。あることが分かっていれば、必要な際には一生懸命探せる。あるかないか分からないものを探す作業は気持ちのうえでも大変苦しい。

情報受発信のセンター機能・連絡先は通信手段の確保できる場所に

 災害が発生した場合、従業員は自分の勤務している部署へ連絡しようとする。ほかの部署や他事業所の連絡先の具体的な情報は手もとにない場合が多い。一方、被災地では通信手段は閉ざされているか、極めて限られたものしかない。公共の通信設備自体が損傷を受けている場合も多いし、稼働していても、通信の集中のため規制が掛かったり、待ちが発生して十分機能しない場合が多い。

 自分の勤務している部署が被災している場合には、連絡が取れないことになる。阪神大震災当時の新聞を調べてみると、大阪に設けた対策本部や東京、地方工場に安否情報の連絡先を設け、社員向けに新聞広告を出している神戸に本社を置く会社があった。

 従業員の安否情報の収集や、連絡情報の受発信など、初動時点での情報収受のセンター機能は、通信機能障害のない被災地域の外に置くことが望ましい。災害はどこで発生するか分からないから、全国のどの事業所でも情報を受けられるようルール化し、従業員に周知しておくのがよいと思う。

 余裕のある企業では、NTTの「171」のような「CTI(Computer Telephony Integration)」を使ったシステムを準備しておく手もある。しかし、1つのメディア(手段)だけでは心もとない。「出張者に伝書バトを持たせては」という真剣? な迷案もあった。

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