“影”から目を背けてきた原発とIT何かがおかしいIT化の進め方(52)(1/3 ページ)

個々の情報の入手は容易になり、その分だけ価値が低下し、代わって知恵が求められる時代になった。応用力と、行動するための理解力、説明力、説得力、そして“多種の情報”の組み合わせが生み出す知恵という価値――今、IT関係者には情報にかかわる能力が求められている。

» 2012年03月09日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

IT関係者は視野を広げ、より深く考えよう

 この数年、国内政治の混乱、領海・領土や主権に関わる事件、震災・津波・原発事故、TPP(環太平洋経済協定)論争、消費税論議……などなどが、何一つ解決のめどがつかないまま次々と起こり、われわれ日本人がこれらに目を奪われている間に、世の中も日本自体の状況も大きく変化している。しかし、昔の状況に合わせて作られた日本のいろいろの仕組みの改廃も、人の世代交代もほとんど進まない。

 昨今、日本人が“内向き”と言われる中でも、IT関係者には特にその傾向が強いように感じることが多い。ITを基に積み上げて世の中があるわけではない。“目先の狭いIT”にとらわれた受動的な発想を脱して、広い時間・空間軸上に視野を広げて事実を掘り下げ、より深く考えることが強く求められている。

 以前に“深く考えることは、すなわち広く考えること”について書いたことがある(第38回、第39回を参照)。一つの問題を深く考えていくと、実に多くの、広い分野の問題が関係していることに気がつくと思う。

 情報化の時代は、個々の情報の入手は容易になり、その分だけ価値が低下し、代わって知恵が求められる時代である。応用と行動するための理解と知恵、説明・説得力――こんな情報にかかわる能力が大切なのだ。知恵という価値は“多種の情報”の組み合わせが生み出す。

 いろいろの分野で格差・不平等が問題となる今日、特に若い人たちには、物事を能動的に捉え、周囲の人と“顔を合わせて議論し、行動する”習慣をつけていただきたいと思う。昨今話題となるSNSなど、コミュニケーションツールとしてのITメディアには“破壊する力”はあっても、それだけでは、物事をまとめ、作り出していく力はない。新しい方向を作り出すためには、人と人が直接向き合い、考えを交わし、行動することが必須である。

「製品」と「部品・素材」の違い

 アップルコンピュータのiPhone4Sに使われている部品について、生産国別の割合を記した記事があった。中国3.6%、米国6%、韓国13%、ドイツ17%、日本34%だそうだ。そして、この種の製品の「たかだか3割程度」と言われる原価から、組み立てコストを除いた残りが部品のコストだ。

 また、世界に先駆けANAが採用した最新旅客機、ボーイングB787の主翼は三菱重工、前胴部は川崎重工、中央翼部分は富士重工が担い、重量比で機体の5割に東レの炭素繊維複合材が使用され、GEやロールスロイス製のジェットエンジンにはIHIや三菱重工製の部材、タイヤにはブリジストン製が使われていると言われる。あるいは、「これがないと宇宙ロケットが飛ばない」という部品を作っているという中小企業がメディアなどで紹介されたりもする。これらの事実を基にした「日本の技術は優れている」「日本の中小企業は優秀」といった論調もある。

 誰かの意図的なお膳立てであろうが、こうしたことには、例外的に成功している企業を訪問した政治家やメディアによる“一部と全部を取り違えたような無責任なパフォーマンス”があり、日本の優秀さをうたい、読者に片時の優越感を感じさせるような表現が並ぶ。

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