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» 2006年12月26日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(30):有能なプロジェクトマネージャを育てるには(3) (1/4)

前回、前々回に引き続き、2007年問題ともいわれているノウハウ継承の問題について、特にプロジェクトマネジメント能力の育成に焦点を当てて考えていく。今回は特にプロジェクトの運営について考える。

[公江義隆,@IT]

 団塊世代が組織から去りつつあるいま、プロジェクトマネージャの量的不足・能力不足を懸念する企業が多い。3回目となる今回は、前回前々回に引き続きシステム開発のプロジェクトマネジメント能力育成について考える。

少ない経験を生かす仕組み作り

 プロジェクトマネージャの量的・質的な問題が懸念される中で、育成に必要な「経験の場――適当な内容や規模のプロジェクトがなかなかない」という問題を抱えている会社が少なくない。数少ない経験の機会を有効に生かせる手立てが求められている。

経験を生かす人とそうでない人

 同じような仕事を担当して、同じような課題や問題に遭遇し、同じような経験をしてきたはずの人たちの間において、年月とともに、なぜか仕事の結果に歴然とした差が生じてくるようになる。これは、経験を次の仕事にうまく生かす人と、そうでない人がいるからだ。これは何の違いによるのだろうか?

 かつて筆者が会社勤めをしていたころ、上司や部下といった周囲の人たちを見ていると、経験をうまく生かす人にも、生かせない人にも実にさまざまなタイプの人がいた。

 以下は筆者の仮説にすぎないが、さまざまなタイプの共通点として、経験を生かす人は「A:行動にしたいという気持ちの強さ」と「B:物事を理論的にとらえたいという気持ちの強さ」という2点のバランスが取れているように感じていた。

 「Aが強過ぎ、Bの弱い人」は、結論を急いだ短絡的で対症療法的な行動をしがちだ。「なぜそのように行動するか?」という考えが希薄であるから、その記憶は強くは残らないのだろう。行動と結果の記憶だけでは、なかなか適切な行動の判断や決定ができるようにはならない。

 逆に「Aが弱く、Bが強過ぎる人」は、分析や理屈を追究することに走ってしまい、教科書の理論や権威者の意見に結論を頼ろうとしたり、すべてが明確にならないと物事が決められなかったりする。結果的に自分自身による判断を避けているため、胆力・判断力が育たず、マネージャの最大の役割である「判断・決定」が適時・適切にできるようにならない。行動への強い意欲が働かず、理論と実際が遊離したまま、結果的に意思を伴わない意思決定になり、自己の行動とその結果についての記憶が強くは残らないようだ。

 これらの“経験を生かすことが上手でない人”には、「遭遇する事象が、毎回毎回新たなものに見えている」という共通点がある。本来なら経験とは、1. どのような状況で、2. どのような考え方で、3. どのような決定をし、4. その結果がどうなったか、の4点セットであるべきなのだが、決定の過程でその一部の意識が希薄であるために、経験の記憶として役立つものにならないのだろう。いままで経験したものと「どの点が同じで、どの点が違う」といった発想が希薄であるように感じられることがよくあった。

 マネジメントに携わる人には能力の種類のバランスが大切だ(リーダーシップを発揮するにはどうすれば? 参照)。得意分野を伸ばすのと同様に、弱点カバーへの努力が重要である。なお、Bの「理論的な思考」は、Aに比べると訓練によって比較的容易に身に付けることができる。

当事者意識の低さが招く問題

 中堅クラスの担当者に、初めて1つのプロジェクトを任せたときのことである。そのシステムの開発作業の見積もり依頼を、ベンダ3社にお願いした。3社はほぼ同じ程度の規模、実績のある会社である。しかし、出てきた見積もり金額にはかなりの差があった。そして、この担当者は「X社が一番安いのでここに発注したい」という。このとき、筆者はこのような質問をしたように記憶している。

「なぜ、3社でそんなに大きな金額の差があるのか?」

「自分がベンダだったら、いくらで受注するか?」

 その後、この担当者は仕様と条件の説明をやり直して、再見積もりをお願いすることにしたようだ。

 最初の段階では、この担当者は当事者意識が希薄、つまりAの要素の弱い状態であったと思う。自ら考えて判断することを避けて、価格というものに判断の責任を転嫁しようとしていたことになる。もちろんBを考える能力も十分あったわけではないが、Aの欠如がBの論理的思考への取り組みをも阻害していた。

 再度見積もりをお願いする過程で、当事者意識が少し生まれ、仕様・条件やその説明方法を見直した。そして、再提出された見積もりも、内容をそれなりに一生懸命に理解しようとしていた(彼にBが芽生えた?)と、その後彼の直属の上司から報告があった。

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