ITIL V2をめぐる課題とV3の誕生ITIL V3から知るITサービス管理(1)(1/3 ページ)

ITをサービスとしてとらえ、IT運用の複雑化と運用プロセスの可視化という課題への解決策を提示するITIL。最新版のITILバージョン3はどのような経緯で生まれてきたのか。

» 2008年03月06日 12時00分 公開
[中 寛之(なか ひろゆき),@IT]

 企業を取り巻く環境は、日々厳しさを増しています。

 CEOにとって頭を悩ませる最大の問題は「株主価値と企業方針」です。どうすればITによって株主価値を高めることができるのか、事業戦略はどうすべきか、インソースとアウトソースのいずれを選択すべきか、どの領域までITに依存すべきか、果たしてITコストは妥当な金額であろうか。このような問いかけを日々繰り返しています。COOは「効率的かつ効果的な事業運用」に苦悩し、IT運用コストをどうやって削減できるか、より効果的に技術を活用する方法はないか、ビジネスの随所にさらなる価値を提供することができないか、どの領域の新事業に注力すべきかを考え続けていますし、CFOは「ROI、ガバナンスコントロール」という観点で、ITのコスト効果の測定手法やIT資産のリース範囲などをどうするか思案していることでしょう。

 このような状況を背景に、世の中のCIOたちは皆、ビジネスとITのバランスをいかにして保つかについて苦慮しています。どのようなサービスをどうやって提供するか、ハイパフォーマンスなサービス戦略とはどのようなものか、自分たちのビジネスに最も適した戦略とは何かなどなど。

 しかし、いくらCIOがビジネスとITのバランスに腐心しようとも、多くの場合、他のCXOとのギャップが大きいのが現状です。

 例えば、「ITは重要であるか?」との質問に対しては、IT系幹部はその他一般幹部よりもITとビジネスが一体化していると認識する傾向が強いですし、「ITはビジネスに貢献しているか?」との質問には、IT系幹部の半数がビジネスに貢献していると答える一方で、他の一般幹部の多くはそれほど好意的にとらえていないことが分かります。「IT部門はビジネスを理解しているか?」との質問に関しては、IT系幹部と一般幹部との認識のギャップは明白です。

ALT 図1 CIOが抱える苦悩(150社を対象とするアクセンチュアの調査結果より)

 CIOにとって、ビジネスとITを結び付ける方法を見つけることは急務でした。しかしこれに対して、ビジネスイコールITという考え方による、ピッタリのアプローチが実はあったのです。ここからは、そのアプローチが広まった社会的な背景も踏まえて見ていきましょう。

ITILが注目されるようになった背景

 ITIL(IT Infrastructure Library)という言葉がITサービスマネジメントの領域でデファクトスタンダードとなり、日本でもそれなりの知名度を得るようになったのは2002〜2003年くらいだと記憶しています。

 元をたどれば、1980年代後半、英国政府が策定したコンピュータシステムの運用・管理業務(ITサービスマネジメント)に関する体系的なガイドラインとして誕生したのがITILでした。そのころ、情報システムが肥大化し、それに比例して運用コストも増大する状況に苦しんでいた同国の商務省は、過去の事例から成功事例を抽出し、それらを取りまとめて汎用的なベストプラクティスを完成させたのです。

 ITILが公開されてから数年、情報システムを取り巻く環境は変化し続け、メインフレーム時代からダウンサイジング時代へと移り変わります。サーバが安価に調達できるようになると「1台ですべてを賄う」という考え方から「役割を分担する」という発想になり、分散アーキテクチャを意識した運用が求められてきました。そのような環境の変化に対応しつつ完成度を高め、2001年に改訂されたのがITILバージョン2(以下「ITIL V2」と表記)です。

 先にITILが普及し始めた時期について触れましたが、これにはITILの仕組みが成熟化したことだけではなく、実は社会的な状況の変化も影響しています。

 まず、ITが広範な分野で使われるようになったことでシステムの肥大化が進み、分散環境と相まって非常に複雑な運用が求められるようになりました。

 それに加えて、近年、エンロン事件とワールドコム事件という巨額の粉飾決算事件が発生し、これを受けて、米国では2002年7月にサーベンス・オクスリー(SOX)法が成立、米国で活動する企業は内部統制を強化し、業務プロセスを可視化する必要に迫られることになりました。

 「運用の複雑化」と「プロセスの可視化」という2つの課題、それらを解決するためには何をすればよいか? この問いに対してITILは最適な答えを提供しました。そのため、以後、ITILは、世界30カ国に適用範囲を拡大し、今やITサービスマネジメントのデファクトスタンダードと呼ばれるに至っています。

 現在、ITILは英国政府機関のOGC(Office of Government Commerce)が管理しています。また、ITILの上位概念には、必要最小限のルールが定められた国際標準のISO20000(英国標準のBS15000)が存在しますが、それらについての説明はここでは割愛します。

 ITILは、英国政府のOGCが公的に管理する書籍であり、ITサービスマネジメントのベストプラクティスを解説したものです。ITILを推進するNPO団体、itSMF(IT Service Management Forum)によれば、ITILは、

 「完成した形でも規則的に定めたものでもなく、どのようなIT組織においても広く受け入れられるよう取りまとめてある。かといってお役所的であるとか使い勝手の悪いようにはなっておらず、うまく活用することでビジネスニーズにも適切に対応できる」(itSMF刊行 「An Introductory Overview of ITIL V3」より)

ものとされています。

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