プリンティングガバナンスのためのソリューションネットワーク時代のプリンティングガバナンス(3)(2/2 ページ)

» 2008年03月18日 12時00分 公開
[向井 俊一,@IT]
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全社プリンティングの論理結合の「ハブとスポーク」化

 前述の機能の一部はプリンタによってはハードウェア自体が備えていることがあり、その場合は専用のソフトウェアやドライバをインストールすることでどのパソコンからも利用できるでしょう。しかし、プリンタとホストシステムを相対で接続することを前提にすると、例えば50台のパソコンが使用するプリンタが機種変更された場合、50台すべてのパソコンのセットアップをしなおさなければなりません。また、プリンタ側が2、3……と増えた場合、プリンタ対ホストシステムの組み合わせは爆発的に増えます。もし全社に10個のシステムと100台のプリンタがあると仮定してみましょう。100×10で1000通りの組み合わせがあることになります。理屈の上では最大「m×n」の論理的接続ができるわけですが、すべてを接続するのは設定が複雑になりすぎるなどの理由で、現実には1000通りの接続設定を行っているわけではないでしょう。ただし、それは自由にプリンタが使えないことを意味します。

 対して中央に「ハブ」を置く、「ハブとスポーク」の形ならば、プリンティングの論理的接続はシンプルかつ自由度が大きくなります。m個のシステムとn台のプリンタをつないでも組み合わせは「m+n」──、先の例では100+10=110で、接続の複雑さには約10倍の開きがあることになります。数千台、数万台のプリンタとパソコンがある環境ならば、さらにその差は広がります。

「一対一接続」と「ハブとスポーク接続」

 複数のホストに複数のアプリケーションが稼働している企業環境において、ホストシステムがネットワーク上のすべてのプリンタにAny-to-Anyの接続ができるようになれば、ユーザーの利便性は大きく増すでしょう。プリンタをホストやアプリケーションごとに分けて設置しなくてもよくなるため、プリンタの稼働率が上がり、トータルではコスト削減につながるはずです。

 この「ハブ」の部分はプリンティングガバナンスを行ううえで、最適な集中管理点になるでしょう。一対一接続のままで印刷管理を行う場合、プリンタとシステムの間──“線”の部分を監視することは難しく、通常はプリンタ・ハードウェアのログ機能を使ったり、ホストシステム側に専用ソフトをインストールして監視・通知を行ったりということが必要になります。ノード(プリンタやホストシステム)が少ない場合は簡易でよい方法ですが、ノードが増えれば逆に極めて複雑になり、すべてのノードを漏れなく管理することが難しくなるでしょう。

 なお、これらは「論理的」接続の話です。すでにプリンタとホストシステムがネットワークにつながっているのであれば、その物理配線を変更する必要はありません。ハブとなるサーバを設置し、プリンタとホストシステムの設定を変更するだけです。

 ただし、ハブとスポークの形にするだけでAny-to-Anyのプリンティングが可能になるわけではありません。「バベルの塔」による断絶を克服する必要があるのです。

「バベルの塔」の断絶を乗り越えて

 「バベルの塔」の断絶には先に説明したとおり、「ホストシステムの違いによる断絶」と「PDLの違いによる断絶」の2つの層があります。これを解決する方法は、端的にいえばデータ変換です。

 前者は、Windows PC上でホストシステムの端末エミュレーションソフトを起動し、ここからASCII系プリンタに印刷するという方法もありますが、欧米では古くから克服されており、例えばIBMメインフレームからネットワーク経由でASCII系プリンタへ出力するソフトウェア技術が20年以上も前から実用化されています。従来、日本では後者の問題───PDLによる断絶があったこともあり、テキスト印刷(文字主体の印刷)に限って一部で実現されていましたが、高機能印刷(IBMのAFPDS印刷など)のレベルではこれまでほとんど行われていませんでした。これは後者の解決策(後述)と組み合わせることとで、メインフレーム系−オープン系間の断絶は克服できます。

 その後者についても、各社のPDLを変換する技術は確立されています。こうした変換機能を「ハブとスポーク」のハブの部分に置くことで、効果的なプリンティングインフラが構築できるでしょう。各ホストシステムに変換機能をアドオンする方法もあるでしょうが、導入費用や管理の手間を考えると、変換プログラムを1つに集約してしまうのが理想的だと考えられます。

プリンティングガバナンスの効用

 「コーポレートガバナンスへの投資は、コスト削減につながらない」といわれます。これは本当でしょうか? 少なくとも、ここでご紹介した方法は、TCO削減につながると考えています。

 プリンティングガバナンスは単なる機能追加ではなく、現状では野放しになっているプリンティング・オペレーションに「見える化」による規律と管理をもたらし、それによってユーザーの利便性とプリンティング資源(インフラ)の利用効率の向上を図るものです。TCO削減につながる具体的な施策は、次のようなものが挙げられます。

  • プリントサーバの削減
  • プリンタ稼働率の向上による、無駄なプリンタの撤廃
  • 印刷費の直接費化によるコスト意識の向上
  • 確実プリンティング、印刷完了通知などによる、オペレーション・コストの削減
  • ヘルプデスク要員の削減
  • プリンティングの一部を電子メール化することによる、コスト削減

 セキュア・プリンティングの面では、全社プリンティングが「見える化」されることにより、事前・事後の機密漏えい対策が強固になります。これは“犯罪の摘発”が目的ではありません。「見える化」によって社員は印刷操作に関しても「見られている」との意識を持つようになり、これが情報の漏えいを“抑止”するのです。

 以上がネットワーク時代における企業プリンティングに対する取り組み方──プリンティングガバナンスです。今回の提案は、まず皆様にプリンティングガバナンスの観点から新たな問題意識を持っていただくことを念頭にしており、やや抽象的なレベルでの説明でした。具体的解決策については、また別の機会にご紹介できればと考えています。ご通読、ありがとうございました。

Profile

向井 俊一(むかい しゅんいち)

LRSジャパン 支社長

1976年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。以来、約20年にわたって同社開発研究所でソフトウェア技術者として、後年は開発本部長として同社の日本市場向けプリンタ製品の開発に従事。IBMプリンタ製品 25機種以上の開発に貢献した。1997年からは先進ソフトウェア・ビジネス開発など、ソフトウェアのマーケティング・マネジメント専門職(ICP-MM)を経験。2005年10月、LRSジャパンの発足と同時にLRS(Levi, Ray & Shoup, Inc.)に入社し、2007年6月より現職。現在はLRSジャパンの責任者として、同社のソリューションの国際的マーケティング活動にも意欲的に取り組む。日本におけるプリンタの市場や技術に精通するほか、CIM-UK認定マーケティング・マネジメント、英検1級、通訳案内士などの資格を所有する。


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