20年先の視点でシステムを作れ――JTBBPMトピックス(3)

昨年11月に開催されたプロセス志向イノベーション推進会議/評議会にユーザー企業の代表の1社として参加し、情報化の先進ユーザー企業としても、つとに有名なJTB。「業務の可視化」「プロセス志向」の大切さ、そしてそれらが「意識のChange」につながると語る、JTBのIT企画担当部長 田村氏にお話を聞いた。

» 2009年02月16日 12時00分 公開
[宇野澤庸弘,@IT]

グループ全体を考える「IT戦略委員会」

株式会社ジェイティービー IT企画担当部長/IT戦略委員会事務局長 田村 直樹氏

──田村さんはIT企画担当部長でいらっしゃいますが、「IT戦略委員会」の事務局長のお役目もおありですね。なかなかユニークな名称ですが、この委員会はどのような役割を持っているのですか?

田村 関連会社9社のCIOやグループ本社の役員などが集まり、JTBグループ全体のIT戦略を立案・実施し、また個別のIT投資案件の是非を検討する委員会です。グループ企業数は194社ですが、CIOを置いている会社は9社ほどです。そのCIOが全員集まる委員会です。

 従来、各社でばらばらに行われてきたIT投資をここで総合的にチェックし、二重投資などの無駄な投資を防ぎます。さらに将来のIT戦略をグループ全体の視点から議論しています。

20年先の視点でIT戦略を

──確かに、各社の要求をそれぞれ実現していくと無駄も多くなるし、バラバラのITシステムが原因で企業の経営戦略の実施の障害になりますね。ITシステムが足かせになるといわれるゆえんですね。ところでIT戦略の構築の際は、どのような視点で行っていますか?

田村 IT戦略を議論するときには、20年先を見据えた長期的な視点を入れて考えます。つまり「20年先」に世の中がどう変わっているか、お客さまがどう変わっているかをイメージしてシステムを考えるわけです。

 “現時点”を議論の出発点にしたのでは、個人的にも組織的にも、また技術的にも現在の延長となり、自由な考えができません。“5年先”でも同じでしょう。

 しかし“20年先”とすれば、「現状では……」という拘束を受けることなく、自由に考えること・議論することができるのです。現在、私どものビジネスで主流となっている対面営業もこれから相当変わってくるでしょう。インターネットももっと高機能になるはずです。自由な発想、議論なしに未来を描くことはできないのです。

プロジェクトリーダーは、事業責任者

──システム開発プロジェクトが同時にいくつも走っていると思いますが、何か特に留意しているところがありますか?

田村 プロジェクトリーダーの選定は、大切なキーポイントの1つです。プロジェクトには現場の事業責任者とITサイドの技術責任者が参加するわけですが、私どもではそのリーダーは、技術の責任者ではなく業務の責任者、つまりシステムオーナーが務めることになっています。

 プロジェクトはその途中で、要求の前提が変わったり、追加機能が必要になったりと、予想外のことがたくさん起こります。その際の最終判断は技術的視点ではなく、事業経営的視点で行わなければなりません。そこでリーダーは、事業責任者なのです。このときの問題点は、1人の事業責任者が数多くのプロジェクトのリーダーを兼任しなければならなくなることです。そうした場合は権限を委譲して、一段下の事業責任者が実質的なリーダーとなることもあります。

完全なシステムなんか、いらない

田村 また、業務をITシステム化しようとすると、何でもシステム化すべきとなりがちですが、これも注意しています。例えば、1年に1度しか起こらないような特別な業務ケースは、システム化せずに人間でやればいいということです。その意味で完全なシステムなんかは必要ないということです。

──おっしゃるとおりですね。従来の基幹系システムと違い、人間が携わる業務システムでは人間の賢明さに大いに委ねることが大切ですね。これは、従来のシステム作りと根本的に違う点の1つのように思います。このあたりも「業務改善をITシステムで」行うBPMの肝かもしれません。ちなみに、IT技術面で盛んに議論されているSOAは、どのようにお考えですか?

田村 昔からあるシステム設計の考え方を新たな技術を前提として、表現し直したものと思っています。SOAは考え方としてもいいですが、手放しで導入を歓迎できるのはまだ時間がかかるのではないかと感じています。BPMをITシステムベースで進めていくと、SOAの大切さとその実現性が明確になるのではないでしょうか。

──そうですね。本日お聞かせいただいた内容は、現場の実経験をベースにした非常にクリアなメッセージと感じています。技術論が先行しすぎたとの反省があるIT業界にあって、今回いただいたクリアなメッセージには、非常に勇気付けられる思いがしました。本日は本当にありがとうございました。(了)

著者紹介

宇野澤 庸弘(うのざわ つねひろ)

日本BPM協会 副事務局長

東芝、ノベルで通信ソフト・ネットワークソフトの開発・販売に携わり、SSC栃木でテスティング事業を創設する。2000年、BPMと邂逅(かいこう)。現在、日商エレクトロニクス株式会社で、BPMコンサルタントとしてBPM事業を展開中。BPMがIT産業の変革を促し、ユーザー視点からのITシステム実現を促進するため、業界横断的に活動を行っている。

オルタナティブ・ブログ「Hello! BPM」


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