システム入力をサボるやつに使わせる方法目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(23)(1/4 ページ)

» 2009年02月27日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

第22回までのあらすじ

 納期短縮を実現するために需要予測システムの実装に奔走する坂口。しかし、それを実現するためには、データを入力する営業部員の正確なデータ入力が必須だった。それを知った谷田は坂口を間接的にサポートするべく動き出すのだった……。



受注データの精度が上がらない理由はどこだ

 松嶋や加藤と女子3人で新宿で食事をした次の日、早めに出社して日常業務をテキパキと終わらせた谷田は、早速、昨日加藤から聞いた問題について考え始めた。

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 サンドラフトサポートの営業部員たちは、PDAに受注データ、すなわち「受注個数」「受注日」「納品希望日」「受注先」などの項目を入力している。加藤がいっていた問題はどうやら、その中の「受注日」の精度によるものらしい。

 IT企画推進室が過去のサンプルデータを基にして、机上シミュレーションを行ったところ、角野工場長のノウハウとぴったりと合致する時期もあれば、大きくズレる時期もあることが判明した。その原因を分析したところ、受注日が特定の曜日や時期に集中するなど、明らかにデータに不自然なバラつきがあることが判明したのだ。

 もともとサンドラフトサポートでは、受注データの入力を当日中に行うことが推奨されており、「遅くとも3営業日中に入力すること」という期限のルールも決まっている。

 このようなルールが存在していることから、坂口たちは「受注日は特定できる」という前提に立って需要予測支援システムを検討していた。しかし、フタを開けてみると、その受注日の精度に大きな問題があったというわけだ。

 つまり、営業部員の中には、実際には月曜日に受注したにもかかわらず、面倒くさがって金曜日などに『1週間分の受注をすべて金曜日に受注した』ということにして入力している者がいるのだ。この場合、実際には月曜日から金曜日まで均等に受注していたとしても、「月曜日から木曜日までは受注がゼロで金曜日の受注がやたらと多い」という、現実とデータのギャップが出てきてしまうのだ。

谷田 「(啓二さんだって、ここにいたころはそんなにマメに入力している方じゃなかったわよね。いつもお客さまの所を走り回っていて、期限切れも多かったはず……)」

 ここで一緒に仕事をしていたときのことを思い出して、谷田はふっとほおをゆるめた。

 坂口は忙しくなると連絡の回数が減ってくる。最近はメールの返事も遅れがちで、谷田は少し寂しい思いをしていたのだった。

谷田 「(啓二さんのことだから、需要予測支援システムの実現に一生懸命になりすぎて、営業支援システム導入時のことを、ついつい忘れちゃってたのかもね……)」

 受注日の精度については、実は仕様上の問題も絡んでいる。PDAからの入力負荷を軽減するため、受注日は「本日の日付」がデフォルト設定で表示されているのだ。

 受注日は必須項目だが、画面設計書を営業メンバに検討してもらった際に、これを入力し忘れてエラー→再入力となるケースが懸念された。

 ただでさえ慣れない操作にいらだち、多くの不満が寄せられることが予想されたため、まずは確実に入力してもらうことが必要と考え、プロトタイプ版からは初期値として当日の日付を表示するよう変更されたのである。

 本来はこの初期値を実際の受注日に修正することになっているのだが、修正しないままデータを登録してしまうメンバーも多い。このため、「PDAから受注データを入力した日=受注日」になっているケースが多く、実態と合っていないのだ。

 こういった現実とデータのギャップを解消するには、(1)PDAからの入力は当日中に行う、または(2)まとめ入力をする際には受注日を正しい日付に修正する、の運用ルールを徹底してもらうしかない。

 現在開発中の新生産管理システムや、それに付随する需要予測支援システムは、坂口が出向しているサンドラフト本社が企画開発を行っているが、実際の運用フェイズに入れば、サンドラフトの営業子会社であるサンドラフトサポートの受発注システムの受注入力がその元データとなるため、非常に重要となる。

 しかし、運用ルールに関して、サンドラフト所属である坂口が、“現場”であるサンドラフトサポートの問題に過度に干渉することは立場的に難しい。そこで、いまサンドラフトサポートで働いている自分にできることを何か探さなくては、と谷田は考えを巡らせた。

谷田 「(ただただ、『入力期限を守ってくださいね!』ってお願いしても、みんな守ってくれないのよねぇ。忙しいのはそばで見ていてよく分かるから、こちらもあまり強くはいえないし……。でも、啓二さんの助けになるなら、私も頑張らなくちゃ!)」

 需要予測支援システムの件はサンドラフトサポートにも伝わってきている。在庫切れでお客さまのおしかりを受けたり、商機を逃したことのある営業メンバーは、状況が改善されると聞いて大きな期待を抱いているはずだ。

 需要予測の精度を上げるためなら、全員が協力的になってくれるだろう。ここ最近の受注データの入力状況を確認した谷田は、営業2課氷室主任の席に赴いた。

谷田 「氷室さん、お忙しいところすみません。ちょっといいですか? 受注データ入力のことなんですけど」

氷室 「谷田さんか。悪いけど、後10分でここを出る予定なんだ。お客さまとの約束があってね。後でじゃダメかな?」

谷田 「支度しながらで結構ですから、聞いてもらえますか? すぐに終わりますので」

 氷室はいつも数日分の受注データをまとめて入力しており、この部署では一番受注日の偏りが大きい。不思議と「入力漏れ」といったミスはないようなので、多分「Aエリアのお客さまを一通り訪問した後に入力」など、自分で入力のための習慣を作っているのだろう。谷田は、受注日を軸にデータの入力状況を担当者別にまとめたシートを見せて、ルールを守ってもらえないかと依頼した。

氷室 「ああ、本当だね。僕が部署の中で一番まとめ入力してるんだな。ほかのやつらも同じようなものだと思ってたのに、みんな結構マメなんだね」

 案の定、まとめ入力の自覚はあっても、それが問題だとは思っていないようだ。谷田はもう一押ししてみる。

谷田 「そうでしょう? 入力期限のルールもありますし、これからは、すぐに受注データを入力するようにしてみてもらませんか? たまっている分も、なるべく受注日を正確に入力してもらえるとうれしいんですけど」

 しかし、氷室はけげんそうな顔をしている。

氷室 「でも、それで何が困るんだ?」

谷田 「え?」

氷室 「受注日が違っていても、お客さんに迷惑かけたことはないんだ。発注に間に合いさえすればいいんだろう? このシートを見た限りでは、ほかのやつらだって別にルールを守ってるわけじゃないじゃないか。それでも特に問題になったことなんか、いままでなかっただろう?」

谷田 「確かにいままではそうだったんですけど、これからは違うんです」

氷室 「何が違うんだ? 受発注処理の流れは、いままでと変わらないじゃないか!」

 出発時間が近づいてきたこともあり、氷室はだんだんイライラし始めてきたようだ。

谷田 「だって……。だって、需要予測支援システムができることは、氷室さんだって聞いてらっしゃるでしょう?」

氷室 「需要予測支援システムって、製造部が喜ぶやつだろう? 在庫切れがなくなるのはありがたいけど、なんで受注データの入力ルールと関係があるんだ?」

谷田 「え? えっと、それは……」

氷室 「ただの締め付けだったら、もうやめてくれないか。もっと融通利かせてくれないとこっちも困る。悪いけど、僕はもう行くから」

 氷室は、かばんを持って足早に出て行ってしまった。

 営業メンバーも、需要予測支援システムの概要は先日発表されたプレスリリースなどで確認済みだ。しかし、プレスリリースには需要予測のインプットデータとして正確な受注日データが欠かせない、といった情報はどこにも説明されていない。

 谷田は、坂口や加藤から説明を受けているから正確な受注日データの必要性を理解しているが、そのような説明を受けていないそのほかの営業部員たちが、その必要性よりも面倒くさいという思いが強くなるのは当然だといえた。

 氷室も、PDAから入力する受注データがサンドラフトサポートの受発注システムと連携していることは分かっていても、受注データの精度が需要予測支援システムの成功の鍵を握っているという点までは分かっていないのだろう。

谷田 「受注日データが需要予測支援システムに使われてその精度がとても重要だってことを説明できなければ、きっとルールは守ってもらえない……。でもどうしよう、私もちゃんと説明できる自信がないなぁ……。そうだ! あの人なら……」

 このまま悩んでいても事態は改善されない。谷田は、営業支援システムプロジェクトで一緒だった情報システム部の福山を頼ることを思い付いた。

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