システム移行はトラブルだらけ目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(24)(1/4 ページ)

» 2009年05月12日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

第23回までのあらすじ

 納期短縮を実現するための需要予測システムだが、営業部門が正確なデータを入力しないために、精度が不十分だった。そこで、坂口をサポートするために、営業へ正確なデータを入力するように普及活動をした谷田。その効果が早くも現れる。



恋人のサポートは効果バツグン!

坂口 「うん。よし! これなら何とかいけそうだ!」

 サンプルデータを元にした需要予測のシミュレーションがうまくいかずに悩んでいたIT企画推進室だったが、情報システム部から新たに提供された複数のサンプルデータは、かなり精度が向上していた。

 この新しいデータを用いて再度シミュレーションを行い、坂口は八島の代わりに社内窓口になっている谷橋と最終確認を行っていたのだ。

谷橋 「ここのところ、サンドラフトサポートから上がってくるデータの精度が、日に日に向上しているんですよ。正直、ほっとしましたね。せっかく予測システムを作っても、予測値が当てにならないんじゃ、使ってもらう意味がありませんからね」

坂口 「ええ、ありがたいですね。ただ心配なのは、精度向上が一過性のものではないかということです。現場の営業部員が手で入力しているデータですから……。いまはよくても、将来的にまた精度に波が出てくる可能性がないとはいえないし……。いずれ、入力期限遅れの場合はそれがはっきり分かるようにするとか、精度向上をシステム側でフォローするための機能も必要になってくるかもしれませんね」

谷橋 「確かに。まぁ、いずれにしても、しばらく使った後に見直しは必要になると思いますよ。運用後は需要予測値と実績値とのギャップを監視して、改善していくことにしましょう」

 谷橋には運用後のプランもあるようだ。坂口はうなずいて、話をデータの精度に戻した。

坂口 「ところで、サンドラフトサポートから上がってくるデータが改善されたのには、何か理由があるんでしょうか?」

谷橋 「私も気になって、サンドラフトサポートの情シス部門に聞いてみたんです。あちらの福山さんは、坂口さんもご存じですよね。彼がいうには、精度向上を促す啓発ポスターが効果的だったそうですよ。今日の午後、あちらで打ち合わせの予定なので、そのときに見せてもらおうと思ってるんですが……。そうだ、坂口さんもよかったら一緒にどうですか? ただのキャンペーンポスターのようなものだったら効果は長続きしないでしょうし、その場合は早めに手を打つ必要が出てくると思います。一緒に見ておいてください」

 快諾した坂口は午後の仕事の調整を付け、谷橋とともに久しぶりに古巣のサンドラフトサポートへ赴いた。

 福山に迎えられた坂口たちは、早速ポスターを見せてもらった。

谷橋 「ああ、なるほど。受注日が需要予測支援システムとどう絡むのかを見せているんですね。自分たちの入れたデータが予測に使われると分かったから、営業の皆さんの姿勢が変わってきた、といったところですか」

福山 「そうなんですよ。何よりありがたいのは、情シス部門が誘導したものではなく、現場が自発的にこういう動きを見せてくれたということですね」

 坂口と谷橋は大きくうなずいた。ポスターをもう1度ゆっくり眺めた坂口は、一番下に書かれた文字に目を止めた。

坂口 「あれ? 『お問い合わせは谷田まで』って……。福山さん! これはもしかして……」

福山 「ええ、そうですよ。谷田さんが、一生懸命アイデアを出して作ったものなんですよ。坂口さ〜ん、こういう味方がいるなんてほんとに心強いですね〜」

谷橋 「なるほど、そういう方がいるんですか。坂口さんが頑張ってこられたのはこういう支えがあるからなんですね〜。そうだ、打ち合わせの前にこの方にお会いしたいな。ひと言お礼をいわないと」

 福山の冷やかすような口調と谷橋の温かい視線に、少々居心地の悪い思いもあったが、それよりもうれしさと誇らしさが勝っていた。忙しくて連絡もままならない間、ここでも彼女は自分を支えていてくれたのか……。坂口は胸を張って、谷橋に答えた。

坂口 「はい、ご紹介します。僕もお礼をいいたいし、営業部へ行きましょう!」

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 谷橋と連れ立って営業部へ向かうと、かつての同僚である営業部員たちが坂口に気が付き、次々に声を掛けてきた。需要予測支援システムに対する期待を口々に伝えてくる。自分たちにできることがあったら何でも協力する、との声もあり、坂口と谷橋はいままでの疲れが一度に吹き飛ぶ思いだった。

 佐藤のスタンドプレーに始まり、「商品納期短縮の新たなアイデア」として新生産管理システムに需要予測支援システムを組み込むことが決まってから、怒とうのような勢いでここまでシステム化を進めてきた。「需要予測支援」という切り口は、当初の「新生産管理システム」よりも目新しさが勝ったために利用者の興味を呼び起こし、結果として新システム全体への期待を高めるという効果を生んだのだろう。リリースを3カ月延期してでも需要予測支援システムを組み込んだ甲斐があったというものだ。

 営業部に着くと、谷田が何やら松下と相談しながら作業をしていた。久しぶりに見る姿に坂口の心も弾む。と、顔を上げた谷田がこちらに気が付き、みるみる目を丸くした。

谷田 「啓二さん! どうしてここに?」

松下 「ん? 何だどこの“啓二さん”かと思ったら、坂口じゃないの〜。久しぶりだね〜、元気ぃ?」

 思わず名前で呼んでしまったことに気付いた谷田は、真っ赤な顔でうつむいてしまった。それも可愛らしく思いながら、坂口は「ポスターのおかげでデータの精度が向上した」ことの礼を述べにきたのだ、と伝えた。

松下 「そういうことなら、もっと早くいいに来なさいよ〜。まさか、ずっと谷田のことほったらかしで、ポスターの話も聞いてなかった、何てことじゃないでしょうね〜」

 痛いところをつかれて、否定できずに頭をかく坂口だった。一方、自分のしたことに効果があったことを知った谷田は、本当にうれしそうだ。谷橋にも恐縮するほど丁寧に礼を述べられ、谷田の胸は感激でいっぱいになった。

 それから打ち合わせまでの短い時間、自販機前のドリンクスペースで、コーヒー1杯分の逢瀬を楽しんだ坂口と谷田は、いままでよりもっと強いきずなをお互いに感じたのだった。

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