運用ルールの徹底が、仮想化活用の必須条件──アステラス製薬特集:実用フェイズに入った仮想化(4)(1/2 ページ)

近年、仮想化技術は急速に浸透しつつあるが、そのメリットを享受するためには配慮すべきポイントがある。2006年から仮想化技術を導入しているアステラス製薬に、これまでの取り組みと活用の要点を聞いた。

» 2009年09月16日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

Hyper-Vで仮想環境を本格展開

 泌尿器、炎症・免疫分野など、治療満足度が低い分野にフォーカスした研究開発、新薬創出で定評のあるアステラス製薬。2005年4月、山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して発足して以来、特定のカテゴリに注力して競争優位を目指す“グローバル・カテゴリ・リーダー”を標ぼうし、堅調に実績を積み上げている。

 しかし、近年は医薬品業界の競争が激化。これに昨今の不況も加わり、日々の活動を支えるITシステムにも、機能と効率の両立が求められている。そこで2008年12月1日、同社は仮想環境を本格展開することを正式に決定。2009年4月から仮想環境に合わせて物理サーバの入れ替えを開始した。

 具体的には、最大16台のブレードサーバを搭載できる日本ヒューレット・パッカードの「HP BladeSystem c7000」エンクロージャを3基導入。これにブレードサーバ「HP ProLiant BL460c」をフル搭載して、合計48の物理サーバ+ホストOSを用意した。仮想化ソフトウェアにはマイクロソフトの「Windows Server 2008」が装備している仮想化機能「Hyper-V」を採用。1つのホストOSに5つのゲストOSを載せて、計240のゲストOSを稼働させられる環境を築いた。

ALT アステラス製薬 コーポレートIT部 インフラグループ グループリーダーの竹沢幹夫氏

 現在、東京・板橋の同社データセンターで保有する物理サーバ(台数は非公開)を、古いものから順次移行させつつある。コーポレートIT部 インフラグループ グループリーダーの竹沢幹夫氏は次のように解説する。

 「今回の目的は、リース期限が切れる古いサーバのリプレースと物理サーバの削減、それによる電力消費量の削減。2009年7月末時点で、240のうち、すでに80のゲストOSを稼働させ、同数の物理サーバを削除した。2010年中には今回用意した仮想環境がフル稼働状態になる見通しだ。今後も仮想環境を構築し、最終的には全国にある物理サーバを半減させたい」(竹沢氏)

実践の中で、仮想化を生かすノウハウを蓄積

 同社が今回の本格展開に踏み切るまでには、数年にわたって仮想化技術の活用を試行してきた経緯がある。最初の取り組みは2005年末、合併に伴うシステム統合がきっかけとなった。

 「合併前、サーバ台数は両社合計で1000台以上に上った。これを統合するために、機能が重複したサーバを削減するといっても限界がある。また、研究開発部門などで使用するアプリケーションには独自に作りこんだものも少なくない。それが老朽化したサーバや、サポート切れを迎える古いOS上で稼働していた。サーバ台数の削減に加え、そうしたOSとアプリケーションをどう延命させるか──必然的に仮想化の検討に行き着いた」(アステラス製薬 コーポレートIT部 インフラグループ 課長 塩谷昭宏氏)

ALT アステラス製薬 コーポレートIT部 インフラグループ 課長 塩谷昭宏氏

 そして2006年1月、製品の機能やコストを評価したほか、多くの社内システムをマイクロソフト製品で構成している同社にとってはサポートも期待できることから、仮想化ソフトウェア「Virtual Server 2005 R2」を導入。新しい物理サーバと「Windows Server 2003 R2」の上で稼働させ、研究開発部門で使っていたWindows NT 4.0と既存アプリケーションの一部を仮想サーバに移行した。

 併せて、物理サーバに求められる機能要件や、ホストOS、ゲストOSのインストール方法などを明確化した「標準構成定義書」を整備。2007年の夏には、ソフトウェア開発のテスト環境も仮想環境に移行するなど、経験・ノウハウを蓄積しながら、仮想化の取り組みを加速させていった。

 そして本格展開を検討し始めた2007年終盤、「Windows Server 2008」に「Hyper-V」が装備されると判明。一方で「VMware ESX Server」も注目されていたことから、2008年7月から両者の比較検証を開始した。社内で使っているOS、ハードウェアの要件、パフォーマンス、コスト、サポート体制などを比べて「総合的な見地から Hyper-Vに決めた」という。

 「対応OSを選ばないことがヴイエムウェア製品の利点だが、弊社ではOSをWindowsに統一している。また、同じベンダのため製品同士の相性にも心配が少なかったこと、Virtual Serverを使った際にパフォーマンスに問題が出なかったこと、コスト面で有利だったこと、マイクロソフトとの付き合いが長くサポートも安心できることなどが決め手になった」(塩谷氏)

 ちなみに、今回のサーバ統合による電力消費量は、2009年が91万8735ワットで従来比2.3%、2010年には52万8855ワットで同57.3%を削減できると試算している。コスト面では、サーバ統合による運用効率化、電力消費量の削減により、今後4年間で従来比5000万円を削減できると見込んでいる。

 竹沢氏は「当面は持ち出しとなるが、弊社は大阪府の加島、茨城県のつくば市にも自前のデータセンターがあり、それぞれサーバを保有している。今後、仮想化の適用範囲を拡大するとともに、運用管理を高度化していくことで、コスト削減効果が徐々に効いてくるはずだ」と語る。

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