グリーンSCMは主体性とパートナーシップで実現するグリーンSCM入門(2)(1/2 ページ)

グリーンSCMでは、従来のSCM以上にサプライチェーンの各プロセスを効率化するきめ細かな工夫、配慮が求められる。その実践のためには主体企業の強いモチベーションが不可欠となる。

» 2010年02月24日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]

3Rに基づくきめ細かな施策がグリーンSCMの成果を決める

 地球温暖化問題の深刻化や、それに対する生活者の意識の高まり、政府が打ち出している3R(Reduce-Reuse-Recycle)政策の推進により、企業の環境負荷低減に向けた取り組みは、まさしく待ったなしの状態になっています。これを受けて、いま多くの企業が環境汚染物質の拡散防止を図るRoHS指令への対応や、環境会計の導入、ISO14000シリーズの認定取得などに乗り出しています。

 しかし、第1回『グリーンSCMは主体性とパートナーシップで実現する』で説明したように、グリーンSCMを実現するためには、各種制度への対応だけではなく、調達から回収・廃棄まで、サプライチェーンを“1つの輪”とみなし、Reduce(減らす)、Reuse(再利用する)、Recycle(再生する)の3Rをキーワードにした具体策を着実に実行する必要があります。

 例えば調達なら、サプライヤと協力して梱包材を再利用する、あるいはシンプルなものにしてもらう、輸送なら製品の梱包形態を改善してトラックなどへの積載効率を高め、輸送回数を減らすといった取り組みです。

 こうした具体策の1つ1つは、「施策」というよりも“工夫”と表現した方が近いような、どちらかというと規模が小さな改善が中心となります。しかし、そうした日常的かつきめ細かな活動の積み重ねが、グリーンSCMを実現する唯一にして最大の方法なのです。

 ただ、そうした具体策に「これをやればいい」といったマニュアルは存在しません。サプライチェーンのプロセスは同じでも、各プロセスの業務の中身、業務を取り巻く状況は各社各様だからです。各社が3Rをキーワードに、自社製品や業務環境に最適なオリジナルの施策を考える必要があります。

 では、どのようにして具体策を立案すればよいのでしょうか? 今回は、それを考えるための各プロセスにおける基本指針と簡単な取り組み例を紹介します。これを通じて、グリーンSCMをより具体的なレベルにまで掘り下げていきましょう。

設計プロセスでのグリーン化が最も重要

 まず、グリーンSCMを実践するうえで、最も重要な工程となるのが製造の前段階である設計プロセスです。「製造コストの8割が設計段階で決まる」といわれていますが、環境負荷についても同じことがいえます。設計によって、どんな組成の原材料を使うかということや、それによる部品構成、製造時の環境負荷、リサイクルの可否、廃棄時の環境負荷など、グリーンSCM実践のための前提条件がほぼ決まってしまうからです。

 この設計プロセスでは、3つの基本指針が挙げられます。1つは環境負荷の少ない原材料を選ぶことです。EUの環境基準であるRoHS指令では、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB(ポリ臭素化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)を使わないことが定められており、2006年7月以降、これらの物質を一定量以上含んだ製品の販売はEU全域で禁止されています。これら以外の有害物質を含んだ原材料についても設計段階で排除し、必要性が高いものであっても代替品の利用を考慮します。

 2つ目はリサイクル可能な部品を積極的に選ぶことです。再利用できない場合も、廃棄時に生物分解が可能な原材料などの使用を検討します。この指針への対応が、サプライチェーンを1つの“輪”にできるか否かに大きな影響を与えます。

 3つ目は部品点数の削減です。これは製品設計だけではなく、製造設計にも絡んできます。部品点数が少ないほど、機械や人による作業量が少なくなり、CO2排出量や部品の製造・回収コストを抑えられます。少ない部品で簡単に加工できる、短時間で組み立てられる、特殊な機械による補助なしで製造できる設計とすれば、不良品の発生率も低減できます。

 このように、部品の構成品目を決定する製品設計/製造設計段階は、グリーンSCMの最上流プロセスになります。企業はグリーンSCMを全社目的として定めたうえで、その実践に向けた設計方針を確立し、デザインレビュー段階から積極的かつ入念に業務効率向上と環境負荷低減の両立を狙うべきなのです。 

グリーン調達にはパートナーシップが不可欠

 続く調達プロセスでは、サプライヤの選定、納入形態の簡素化、調達タイミングの最適化という3つの基本指針があります。最も重要なのはサプライヤの選定です。納入形態の簡素化、調達タイミングの最適化という残り2つのポイントは、サプライヤの協力を得られることが前提条件となるからです。

 環境対応に積極的なサプライヤを選ぶためには、自社が仕入れようとしている品目以外のラインナップや各品目の製造方法、RoHS指令など各種制度への対応状況をチェックし、環境に対する企業姿勢を総合的に判断する必要があります。

 2つ目の指針、納入形態の簡素化については、環境意識が高いサプライヤであれば、製品を運ぶ箱を繰り返し使う「通い箱」や、各種梱包資材のリサイクル・簡素化など、すでに数々の具体策を行っているはずです。ただ、ここでポイントとなるのが、調達する側とサプライヤは相互にパートナーであるという意識です。

 例えば、簡易包装という施策を用意していながら、輸送時/納品時における納入品の破損・汚損が心配で、なかなか実施できないサプライヤも多くあります。最終的に品質責任を負わされるため、サプライヤ側の判断だけで環境対策を実施することはできないのです。調達する側は、一方的に品質責任を押し付けるのではなく、パートナーシップを重視し、どうすれば輸送時の品質担保と納入形態の簡素化を実現できるか、ともに考える必要があります。

 逆に企業としての付き合いが長く、調達業務そのものは円滑に進められる半面、いまだに昔ながらの意識のままで、グリーン調達に寄与する取り組みができていないサプライヤに対しては、調達側企業から積極的に指導する必要があります。品質向上やコスト削減を狙った品質指導はこれまでも行われてきましたが、今後は環境視点での指導も取り入れ、コスト削減とグリーン化の果実をシェアできるよう、ともに努めるのです。

 3つ目の指針、調達タイミングの最適化もサプライヤとの協力関係に大きく依存します。サプライヤに無駄な在庫を作らせ、運ばせることはCO2排出量の増加だけではなく、保管コストの上昇、在庫品の陳腐化・劣化など、コストの無駄にも直結します。よって、必要なときに、必要なだけ仕入れられる体制が不可欠となります。

 とはいえ、 あまりに小ロット化した納入指示も輸送の多頻度化を生み、CO2を増大させてしまいます。納入ロットサイズと納入頻度をバランスさせ、最適なポイントを選択することが大切なのです。

 こうした条件への1つの解としてVMI(Vendor Management Inventory)があります。これは小売業界で使われてきた手法で、製品の納入者側が購入者に代わって在庫を管理し、在庫切れを起さないよう納入する方法です。つまり、小売業者が主体となってVMI 行う場合、製造業者が店舗の製品在庫状況を管理し、あらかじめ両者で取り決めた在庫ポリシーに基づいて自主的に納品するわけです。大手小売チェーンなどで多数の実施例があります。

 製造業者が主体となる場合は、部材サプライヤが製造業者の工場敷地内に部品を在庫することで、大ロットで効率的に納入しておき、製造業者側は必要なときに必要なだけ、そこから購入するというスタイルになります。一方的な関係にならないよう、ここでも両者のパートナーシップが求められますが、これにより、部品払い出しの頻度は上げても輸送の移動距離を抑えることで、トータルでのCO2排出量を抑えることができます。

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