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» 2010年07月20日 12時00分 UPDATE

特集:仮想化構築・運用のポイントを探る(3):グランドデザインの設計なくして仮想化の成功はない (1/2)

データセンターのスペース容量や増え続けるサーバの使用エネルギーなどに頭を悩ませていたアステラス製薬は、240台の仮想サーバで構成される仮想化環境を構築することで、課題解決の糸口をつかんだ。サーバの仮想化に悪戦苦闘する企業が多い中、同社が成功したポイントは徹底した“準備”にあるという。

[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

企業合併でサーバ台数がふくれ上がる

 製薬業界の再編に伴い、2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業の合併で誕生したアステラス製薬は、約1万5000人の社員を抱え、売上高が9748億7700万円(2010年3月期)、1909億8600万円の経常利益を上げるグローバルカンパニーである。免疫抑制剤や前立腺肥大症の排尿障害改善剤、高血圧治療剤など多領域に強みを持ち、国内の医療用医薬品市場おいて第2位のシェアを有している。

 企業統合によりビジネス規模のさらなる拡大を推し進めた同社だが、その背後で企業経営を支える情報システムにおいて諸問題が顕在化していた。両社がそれぞれ所有していたシステムや合併作業に向けて準備したシステムなどが合わさったことで、物理サーバの台数が大きくふくれ上がった。合併後の統合作業完了でいったんは台数が減少したが、その後、アプリケーションの増加で再びサーバ台数は増え、最終的に同社のデータセンターでは数百台の物理サーバが稼動していた。

 こうした状況において大きな問題となっていたのが、データセンターのスペース容量、サーバメンテナンスなどの人件費をはじめとする運用コストの増加や、サーバの消費電力量の増大である。特に消費電力については、東京都の環境確保条例によって「事業者の使用エネルギー削減」が義務付けられており、その対応が急務だった。これらの問題を解決すべく同社が取り組んだのが、仮想化技術による物理サーバの集約である。

 コーポレートIT部 インフラグループの塩谷昭宏課長を中心にプロジェクトチームが組まれ、サーバの仮想化を推し進めた結果、「Windows Server 2008 Hyper-V」をベースにした240台の仮想サーバで構成される仮想化環境を構築し、そこへ既存物理サーバの移行と新規仮想サーバの導入を行った。これにより、大幅な使用エネルギーの削減を実現したほか、コスト削減にも貢献し、事業の収益性や投資価値の判断を事前に行うための指標であるNPV(Net Present Value)では、実際に継続、買い増しによって240台の物理サーバで構成するよりも、5年間でトータル数千万円のコストが浮く試算が出た。

仮想化は安易に取り組むと失敗する

 サーバの仮想化については、数年前からIT業界で注目を集めているが、まだまだ取り組むうえでの課題は多く、多くの企業では、例えばテスト環境での導入にとどまるなど、本格的な展開ができていないケースが散見される。導入を阻む“壁”としては、本特集の第1回で紹介したように、「社内エンジニアの知識・スキル不足」や「システムのパフォーマンス低下」、「仮想サーバ乱立による管理の複雑化」などが挙がっている。

ALT アステラス製薬 コーポレートIT部 次長 インフラグループ グループリーダーの竹沢幹夫氏

 では、こうした壁を乗り越えてサーバの仮想化を成功させるためには、どうすれば良いのだろうか。塩谷氏は「プロジェクトの初期段階で、仮想システム全体のグランドデザインを設計することが不可欠だ」と強調する。これまでは物理サーバ単体についてのネットワークやバックアップ機能などを気にしていれば良かったが、サーバの仮想化においては、求められるさまざまなネットワーク要件、システム全体としてのバックアップ要件、ハードウェア障害が複数の仮想サーバに影響が及ぶため、冗長化要件や監視など、広い視点でシステムを設計しなければならない。

 裏を返せば、明確な青写真を持たず、「仮想化すればコスト削減できるのでは」など安易に仮想化に取り組もうとしても、行き当たりばったりになってしまい、上述したような問題にすぐ直面してしまうのがおちだという。

 とりわけ多いのがコストに関する誤解である。上述のように、アステラス製薬は仮想化導入によって数千万円ものコスト削減が見込まれるが、重要なのは「2年間で240台のサーバを集約するという計画を正確に実現しなければNPVは達成できない」という点である。

 さらに言えば、すべて完璧に計画を実行したとしても、サーバ1台当たりに換算すると、わずかなコスト削減にしかならないということである。「仮想化は決して何割ものコスト削減が実現できるものではないし、計画通りに仮想化を完遂できないと過剰投資になりかねない。慎重に判断すべきだ」と、コーポレートIT部 次長 インフラグループ グループリーダーの竹沢幹夫氏は注意を促す。

 以下では、仮想化環境の構築におけるアステラス製薬の具体的な取り組みを見ていくとともに、サーバの仮想化に関する成功のポイントを模索する。

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