では、そのように卸売業者にとってますます不利な状況になりつつあるにもかかわらず、繁盛している業者も存在するのはなぜなのでしょうか? その理由も、この「商品説明」にあります。
というのも、小売業者は短期的には仕入れる商品を限定していますが、長期的な視点で見れば、仕入れる商品が変わっていく可能性があります。たとえ定番の商品であっても、需要の波に合わせて、いずれは新商品へと品揃えを変えていく必要があるのです。
その点、卸売業者が大局的な視点から需要のトレンドを見極め、商品説明を通じて自社の品揃えを紹介することは、小売業者にとって「売れ筋商品の仕入増加/死に筋商品の仕入縮小」を実現するための有効なヒントになるのです。言ってみれば、卸売業者が商品説明を行うことは、小売業者の仕入計画を支援することになるわけです。こうした仕入計画の支援を、専門用語でリテールサポートと言います(注1)。
一方で、メーカーや大規模卸売業者にとって、卸売業者による「商品説明」は、自社の新商品を小売業者に向けてアピール=仕入れ提案をしてくれることになります。すなわち、「小売業の仕入れニーズ」と「メーカーの販売ニーズ」、この両方を把握可能な中間的なポジションに立つ卸売業者だからこそできる「情報のマッチング」に、卸売業者の存在価値がある、と言えるのです。
では、以上のような卸売業における「商品説明の重要性」も加味して、ここであらためて「卸売業の顧客」の定義をまとめておきましよう。
ただ、以上の「顧客の定義」に1つ補足しておくと、「商品の販売先が顧客である」と考えてしまうと、仕入れ先であるメーカーは「顧客」に当たりません。しかし、メーカーの商品を小売業者に知らしめるという機能を「サービス」としてとらえれば、メーカーも顧客となり得ます。実際、新商品を効率良く小売業者に販売してもらうために、メーカーが卸売業者に“サービスに対する対価”として、リベートを支払うことも珍しくありません(注2)。
商品流通のための「単なる中継機関」としてビジネスをするのか、「上流と下流の双方に対するコーディネータ」としてビジネスをするのかは各卸売業者自身が決めることです。しかし昨今の状況を見れば、商品流通のための単なる中継機関に過ぎない卸売業者に未来はないことは明らかと言えます。
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