クラウド時代、導入効果はこうして見定める!クラウド時代の業務分析バイブル(1)(1/3 ページ)

» 2010年10月28日 12時00分 公開
[西村泰洋,富士通]

 ビジネスはシステム構築・導入に一層のスピードと柔軟性を求めている。そうした中でも、われわれSIerや情報システム部門は「確かな導入効果」を担保しなければ面目を失うことになる。ではどうすればスピーディかつ確実に導入効果を検証し、適切な判断を下せるのか?―― @IT RFID+ICフォーラム「RFIDシステムプログラミングバイブル」、@IT情報マネジメント「エクスプレス開発バイブル」でおなじみの西村泰洋氏が、“クラウド時代を生き残るSIerの知見”を伝授する。

ずっと“マニュアル”がなかった業務分析

 筆者はこの10年近く、ロジスティクスや製造分野における無線を活用した新システムの導入をはじめ、システム運用改善、ITによる業務改善などをテーマに、さまざまなミッションに取り組んできました。その経験から、近年の業務システム開発の現場では、要件定義や概要設計のフェーズに並行して「業務調査・分析」を行うことが増えていると感じています。

 その目的は、新システムが「求められている効率化やコスト削減を本当に実現できるのか」を事前に確認することと、新システムで想定される現在業務との差分――すなわち「導入効果」を客観的に検証することにあります。リーマンショックの影響によってシステム投資が絞られている昨今、確実に使えるシステム、成果を生み出すシステムへの要求がいちだんと高まっているのです。

 ただ、システム開発は「要件定義→設計→開発→テスト」というように進め方がほぼ決まっているのに対し、業務調査・分析には規定された特別な方法があるわけではありません。新規システムの投資対効果を予測・向上させるための重要な取り組みではあるのですが、そのやり方は各組織で、個々人が、そのときどきの状況に合わせて、自分で考えて進めるしかないのです。

 とはいえ、筆者は経験的に、「狙った効果を出せるようにきちんとやろうとすれば、誰がやってもおのずと同じようなやり方になるのではないか」と考えています。というのは、筆者が初めて業務調査・分析を経験したのは約20年前であり、当時に比べると企業のIT環境も、採用しているテクノロジも、すっかりさま変わりしてしまいましたが、当時身に付けた分析手法はいまも問題なく使えているからです。

 つまり、業務調査・分析の「結果を活用する」うえでは、職場のIT環境やテクノロジの進展を考え合わせなければなりませんが、“業務の実施内容を腑分けする”という調査・分析自体は、時代の影響を受ける類のものではないのです。むしろ目的が明確かつシンプルであるため、きちんと取り組めば取り組むほど、その方法論は1つの方向に向かって収れんし、洗練されていくはずです。その点で、業務調査・分析を突き詰めて行けば、「誰がやっても同じような“普遍的なやり方”になるのではないか」と考えるわけです。

 そこで本連載では、ユーザー部門、情報システム部門、SEなど、新システムの導入や業務改善に取り組んでいる方々を対象に、私自身が20年間にわたって使い、洗練させ続けてきた業務調査・分析の進め方をご提案していきたいと思います。2010年度に入ってから、多くの企業でIT投資は回復基調にあると言われているものの、実際にはまだまだ厳しいのが現状です。そうした中でも着実にビジネスを効率化していけるよう、効率的な業務調査・分析方法を、より多くの皆さんと共有していけたらと願うのです。

業務調査・分析の最重要ポイント

 では早速、業務調査・分析の方法をご紹介しましょう。と言いたいところですが、その前に、まずは一番大事なことを押さえておきましょう。それは、「あくまで結果は数字で示す」――これが最も重要だということを覚えておいてください。

 確かに、業務調査や分析を進めていくと、どうしても“論理的な原因追究”や、“経験”や“感性”による思考、“関係者の思い”などが重要な要素となる局面もあります。しかし、最終的には数字で結果を示して、それを基に関係者で判断をする必要があります。また、それがシステムの導入効果を確実に担保するための鍵にもなるのです。

 例えば、分析結果を数字で見せれば誰もが瞬時に内容を把握できますし、調査の客観性を示すこともできます。論理的思考や経験、感性ももちろん大事ですが、それらを強く出し過ぎると「検証」ではなく「説得」になり、客観性を失うことがあるのです。もちろん、数字で分析結果を導き出したにもかかわらず、「実際に導入したら想定していたものと異なる結果になってしまう」というケースもあり得ます。しかし「数字で結果を示す」ことは業務調査・分析の基本なのです。まずはこの点をしっかりと肝に銘じておいてください。

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