“ゆとり&アラフォー世代”をきちんと鍛えるには間違いだらけのIT人材育成(6)(1/3 ページ)

企業内研修にしても大学などの教育にしても、寺子屋時代から続く集合教育が中心である(正確には黒板が輸入されてから。黒板のない時代の寺子屋は集合教育ではなく個別教育だった)。ゆとり世代が社会人になり、育成の中心がアラフォー世代に移る中で、集合教育は今後のIT人材育成において有効な手段なのだろうか。集合教育が抱える問題点を明らかにしたうえで、その解決策を検討してみる。

» 2010年11月11日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]

いま崩れる集合教育の前提

 受講者を1つの教室に集めて講師が講義を行う集合教育は、均一なレベルの受講者に対して、均一な教育を効率的に行う方法である(図表1参照)。従って、受講者のレベルにバラつきが無いことが、集合教育が効果を発揮するための前提条件となる。この前提条件がいま崩れつつある。

ALT (図表1)集合教育とは?

 その1つがゆとり世代の入社だ。

 ゆとり教育を受けた、いわゆる「ゆとり世代」の第1期生が大学を卒業し、企業に今年入社してきた。ゆとり教育は、詰め込み教育への批判から学習内容や授業時間を削減し、教育にゆとりを持たせることを目的に2002年から実施された。この年に中学3年生であった1987年生まれの人をゆとり第1世代と呼んでおり、2010年3月に大学を卒業した今年の新卒社員である。

 ゆとり教育は、結果として学力の低下を招いたとの批判から見直され、2009年度から脱ゆとり教育が始まっている。従って、1987年?2001年生まれの人がゆとり教育を受けた世代だ。つまり、今後14年間に渡って、ゆとり世代が大卒の新卒社員として企業に入社してくることになる。

 ゆとり世代の特徴は、学力の個人格差が大きいことにある。

 学習内容や授業時間が削減されたため、難関大学を目指す生徒は学習塾に通うなどして、学校で習う以上のことを自分で勉強しなければならなくなった。一方、難関大学以外を目指す生徒は特別な勉強をしなくても、AO入試や推薦入試が広まったことにより、大学に容易に入学することができるようになった。

 大学入試は入学してくる学生の学力レベルの均一化を図るために行われるものだが、AO入試や推薦入試の広まりにより、その機能を失い、難関大学以外では学生の学力格差が広がっている。そのため、大学の授業を理解できない学生が多くなり、高校レベルの再教育を行うリメディアル教育を実施する大学が増加している。

 このように、ゆとり世代の学生は個人格差が大きいため、大卒というラベルがあるレベル以上の学力のあることを保障する時代はすでに終わっている。

 そのため、均一なレベルの受講者を前提とする集合教育は、ゆとり世代には有効ではない。筆者自身、短大の非常勤講師としてゆとり世代に対して集合教育を行ったが、学生の学力だけではなく、学習意欲、学習マナーにおいても個人格差が大きく、ゆとり世代に対する集合教育の難しさを痛感した。

 もう1つがアラフォー世代への教育である。

 アラフォー世代を育成の中心とすべきであることは、この連載の第3回で述べた。この世代の人たちは企業内において20年間近い経験があり、経験内容に大きな差がある。そのため、特定の知識・スキルは高いが、ほかの知識・スキルとなるとまったく持っていないということがあり得る。均一な知識・スキルレベルをアラフォー世代に期待することには無理があり、均一な受講者レベルを前提とする集合教育は成り立たなくなる。

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