いま、運用自動化を検討すべき理由特集:運用自動化を生かすポイントを探る(1)(1/2 ページ)

従来からの運用管理作業に、仮想環境ならではの管理も加わり、いま情報システム部門の負荷は大幅に高まっている。こうした中、多くの企業の注目を集めているのが運用自動化だ。だが、これを効率的に活用するためには、それなりのノウハウが必要となることは言うまでもない。そこで本特集では、いま多くの企業にとって不可欠となりつつある運用自動化を効果的に活用するためのポイントを探る。

» 2011年01月20日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

仮想化で、ますます追い詰められる情シス部員

 近年、仮想化技術の浸透により、企業のシステム環境は大幅に複雑化した。また、パッチ当てやサーバのヘルスチェックといった従来からの運用管理作業に加え、仮想サーバのプロビジョニングなど、仮想化ならではの新たな作業も求められるようになり、情報システム部門の負荷は大幅に高まっている。だが、仮想化技術のメリットとは、ビジネスの状況に応じて必要なITリソースを柔軟・スピーディに用意できること。これにより、いま情報システム部門は「スピード」というユーザー部門の期待と、“増え行く業務、減り行く人材”という現実との間に挟まれて、ある意味、窮地に立たされていると言えるだろう。

 こうした中、にわかに企業の注目を集めつつあるのが「運用自動化」だ。これまでも、コマンドスクリプトを書いたり、ジョブスケジューラを使ったりして、パッチ当てなどの「日常的に行う単純作業」を自動化してきた企業は多いが、現在はそうした単純作業だけではなく、仮想サーバのプロビジョニングのような「複数の作業プロセスを、複数のツールを使って行う作業」も日常的に求められている。そこで自動化の取り組みを高度化し、手間の掛かる、より複雑な作業にも適用可能とすることで、運用管理の効率化を狙おうというわけだ。

 また、自動化は人の手を廃し、いったん決めた作業プロセス、運用ポリシーを確実に踏襲できることから、「ヒューマンエラーの抑制」のほか、仮想環境で問題になりがちな「ITガバナンスの担保」というメリットも期待できる。こうしたことから、最近はユーザー企業の関心の高まりに呼応するように、ツールベンダ各社も自動化機能を持つ製品を積極的に打ち出している。

 だが、ユーザー企業の立場に立ってみれば、新しいものに接するときには「どうすれば効果的に使えるのか」「導入後、悪影響が生じたりしないのか」といった疑問が噴出するのが常だ。特に「自動化」は人が目で見、手で行ってきた作業を機械に預けることになる点で、「万一の際、収拾がつかなくなることもあるのでは……」といった不安も拭い切れない。

 そこで本特集では、運用自動化の現状と、効果的かつ安全な活用の在り方について掘り下げて行く。第一回目の今回は、いま自動化が注目されている背景について、仮想化技術や運用管理に詳しいIDCジャパン ソフトウェアリサーチアナリストの入谷光浩氏に話を聞いた。

自動化は、いまや多くの企業にとって“差し迫った”課題

 「運用自動化が、本当の意味で注目され始めたのは2009年からだと思う。運用管理分野において、自動化というテーマは以前から議題に上っていたし、そのためのツールも存在したが、景気が良く企業のIT投資も右肩上がりだったころには、誰も自動化について真剣に考えようとしていなかった」??自動化の取り組みについて、入谷氏は開口一番、このように指摘する。

ALT IDCジャパン ソフトウェアリサーチアナリストの入谷光浩氏

 「運用管理とは、ある意味、システムの安定稼働を“見守る”ことが仕事。ゆえに景気が良かったころには、『自動化』というと『自分の仕事がなくなってしまう』と、ネガティブにとらえられる傾向が強く、そもそも自動化を積極的に考えるようなトレンドではなかったと言える」

 だが、2008年に2つの大きな転機が訪れる。1つはリーマンショック、もう1つはオープンアーキテクチャにおける仮想化技術の台頭だ。景気が一気に冷え込み、IT投資も絞り込まれた中、コスト削減の格好の手段として、仮想化技術は多くの企業に急速に浸透していった。だが、景気もIT投資も回復が見込めない中、物理サーバを中心とする「ハードウェアコストの削減だけでは、まだ足りない」という風潮が強まり、これが多くの企業が運用の在り方を見直し、自動化に着目する一つのきっかけになったのだという。

 また一方で入谷氏は、「情報システム部門の負荷増大も大きな要因」と付け加える。コスト削減のトレンドに合わせて、運用管理の現場からも容赦なく人が減らされていった。従来からのルーチン作業をこなすだけでも人が足りない中、煩雑かつ慎重な管理が求められる仮想化技術も加わった。そんな中、ユーザー部門からは日々あらゆる要求が寄せられるうえ、仮想化により、スピードに対する期待も高まった。

 「そうした中、運用現場ではスタッフが健康を害してしまうケースも見られ始めた。 つまり、現場にとって自動化ツールとは“労働環境や健康を守るもの”という意味合いも帯び始め、いまや自動化の活用は、不況の打撃を強く受けた製造業を中心に、多くの企業にとって“差し迫った課題”になっているとも言えるのではないか」

 入谷氏はその裏付けとして、以下の図1「システム運用管理に関する課題」を指し示す。

ALT 図1 「システム運用管理に関する課題」。2010年、IDCジャパンが企業にアンケート調査を行ったところ、「運用管理上の課題」として、実質的には「運用自動化」が第1位となった(「2010年次世代データセンター向け運用管理ソフトウェアにおけるソリューションビジネスの実態と展望」/有効回答211社/2010年10月)(クリックで拡大)

 これは2010年にIDCジャパンが211社を対象に行ったアンケート調査結果だが、「運用管理にかかるコストが大きい」「運用管理を担当する人員が不足している」が1位と2位を占め、3位に「運用管理の自動化ができていない」が入っている。しかし入谷氏は、「実質的には自動化が1位と見ていいだろう」と解説する。

 「コストや人手不足の問題は『運用管理の課題』というよりは、開発なども含めたITシステム全般の課題。つまり『運用管理』にフォーカスすると、自動化は、いま企業がコスト削減の手段として最も注目している施策であるとともに、情報システム部員の労働環境担保という面でも“取り組まざるを得ない事情”を抱えているというわけだ」

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