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» 2011年04月27日 12時00分 UPDATE

何かがおかしいIT化の進め方(51):他山の石――政治を顧みて学ぶマネジメントの在り方 (1/3)

これまでも時折“他山の石”として、マネジメントに関わる“他分野の参考になりそうな事例”を取り上げてきた。国家と行政組織のマネジメントは政府の役割である。今回はこんな視点から政治の分野に他山の石を求めてみることにする。

[公江義隆,@IT]

混迷する政治分野に“他山の石”を求める

 遺憾なことながら、昨今の諸情勢の中で反面教師の例が多くなる。しかし、批判に終始していても事態は良くならない。本稿は、「他人の振り見て、わが振り直せ」が趣旨であり、政治批判が目的ではないことをご理解いただきたい。

 現在の政治の混迷は、「政局より政策」などとは言いながら、権力争いをあおり、選挙を人気投票にしてしまったマスコミ、政治を他人任せにし、また選挙で政治家を選んできた国民一人一人の責任でもある。

 本稿は新聞やテレビなどに広く報道された範囲の情報を材料としているが、具体的に、どの問題の、どういう事がここに該当するのかは各自でご想像いただきたい。 今回はこんな視点から、マネジメントの在り方について、政治の分野に“他山の石”を求めてみることにする。

 なお、本稿は東日本大震災、福島原発事故の発生以前に書いていたものであるが、これらの件から感じたことは補遺として本稿末尾に付記させていただいた

志と言葉の重さ――リーダーの資質

 人を使う――つまり他の人の働きによって成果を上げる立場の人の言葉は「重い」。マネージャにおいても然りである。長い間、皆が問題と思っているのに解決できていない問題は、大変難しい問題であることを多くの関係者は知っている。「理想の思い」「あるべき論」を語るだけでは、本気にされなくても、結果として「お前、あのときそう言ったじゃないか」と、対外的にある種の債務を負うことになる。あるいは、一途の希望を持った人を大いに傷つけてしまう。

 リーダーたる人は、時代が求める「やるべきこと」をやらなければならない。そして「ひとたび口にしたこと」は、石にかじりついてもそれを実現しなければならない。また、一度失敗すれば、その課題に再挑戦する人はなかなか出てはこない。問題は長期に放置されることになる。この機会損失もまた極めて大きい。それだけの志と責任感、覚悟が必要なのだ。それがリーダーに求められる大切な資質だ。

 今まで私は、大抵のことはやり直しができるものだと思っていた。しかし、リーダーの立場にある人の無責任な一言が「やり直しの効かない、解決策のない」状態を生むのを、この歳になって初めて、そしてこの短い期間の内に何度も目の前にした。大変残念な得がたい知見であった。

リーダーの責任感・覚悟

 権限はそれに相応する責任と一体のものである。周囲の人や部下はリーダーを見ている。見ているのはリーダーの志や責任感と「やる気と能力」だ。リーダーにとっても、志や強い責任感が能力発揮や求められる能力の向上、本気で課題に取り組むモチベーションの源になる。

 これらに欠けるリーダーに対しても、周囲の人や部下は逆らっては損だから「やっているふり」はするが、苦労してまで力を搾り出すことはしない。面従腹背状態になるが、裸の王様はこれになかなか気が付かない。人の心を動かすのは、権力ではなく、リーダーの志や覚悟なのだ。事態が悪くなれば、逃げ出すかもしれない、責任を押し付けられるかも知れないリーダーには人はついて行けない。

 なお、以前にも触れたことがあるが、組織にとって一番必要な人は「やる気と能力」のある人であり、一番害があるのは「能力がないのに、やる気だけ旺盛」な人である。どちらもない人は「無駄飯食い」だが害は少ない。組織の中にはそんな人にやってもらえる仕事も多少はある。能力はあるがやる気のない人はうまく使えば従順な戦力になる。なお「老害」などと呼ばれている人の多くは、気ばかり若く、老齢による能力の衰えに気が付いていない人だろう。

交渉・折衝・調整力と信頼関係

 問題を解決していく上では、関係者の利害関係を踏まえ、バランスの取れた妥協点を見出す交渉、折衝や調整が必須の事項になる。WIN-WINの関係などそう簡単に構築できるものではない。「内部をまとめ切れない」「決めたことがあとから覆る、あるいは実行できない、しない」ような相手とは交渉にならないし、「主張すべきを主張しない」「小細工をする」「譲歩すべきを譲歩しない」人に対しては信頼感は生まれない。そして、そのような交渉の経過や結果が、それを外部から見ている第三者からの失望を買っていたり、将来に付け込まれる火種を作っていたりもする。

 途上の過程では駆け引きや一種の脅しなどの交渉戦術も必要であろうが、最終的には相互の信頼が決め手になる。その信頼関係のベースもまた、「能力とやる気」や「毅然とした態度」である。

 人間性は切羽詰った状況で表に表れる。仕事上の信頼関係は、仕事上の具体的な事象を通じて醸成されて行く。「まず良き個人的な人間関係を築き、仕事上の問題はその後に……」といった悠長なことを言っていられる時代ではない。世の中には「大変良い人だが、仕事のパートナーとしては失格」という人もいれば、「仕事上は全幅の信頼が置けるが、プライベートの付き合いはごめん被りたい」といった人もいる。

ビジョン・戦略・方法

 「やるのか?」と問えば「やりたい」「やらないといけない」「やるべきだ!」という返事では、「ところでいったい、いつ、誰がやるの?」「やるのはあなたではないの?」と誰も本気にはなれない。最初の話だけ威勢が良くて、後の実行が伴わないようでは、誰も当てにしなくなる。当てにできないもの自体の必要性や価値はなくなっていくものだ。覚悟と見通しを持って「やります」と言い切れないなら、言わないのと同じだ。以前にも述べたことがあるが、IT投資で「○○の効果が期待“できる”」などと言っている間は本物ではない。「私が効果を出します」と言うのでなければ、その話には乗れない

 問題解決へ向かって物事を進めていくには関係者の力の結集が必要になる。そうするためには、背景や目的の明快な説明とビジョン、戦略、具体的な進め方の提示が必須である。人は現状を知り、その解決の必要性と意義を理解し、ビジョンによってどのような姿を目指すのか納得し、戦略からどんな価値観や考え方で望むのかを得、それを具体的にどんな手順や方法で進めて行くのかを知って初めて安心して行動に移れるようになる。優れたリーダーはビジョンや戦略、妥当な方法の概略を直感的に頭に描けていることが多い。それは真剣な研鑽と修羅場のような経験から得られるものだと思う。

 しかし、こういうことへの概念や、その必要性の認識が持てなければ、あるいは具体的に策定する能力がないまま進もうとすれば、間違いなく周囲を悲惨な状況に巻き込んで行く。立派な思いも、ビジョン、戦略、具体的な方法がなければ、それは単なるスローガンに過ぎない。スローガンでは現状破壊はできても、新しいものを作り上げることはできない。

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