ITリーダーは、PaaS市場の動向を見極めよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(2)(1/3 ページ)

クラウドサービスがますます浸透しつつある昨今、ミドルウェアの機能をユーザーに提供するPaaSのニーズが高まりつつある。これに伴い、PaaS市場にも多数のベンダが参入し始めている。ユーザー企業にとっては歓迎すべきことだが、選択肢が増える分、各サービスを見極める選択眼も必要になる。そこで今回は、対談を通じてPaaS市場の現状と今後の展開を分析した。

» 2011年08月02日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ますますニーズが高まるPaaS市場

 企業ITの今後の在り方を考える上で、クラウド・コンピューティングは今や絶対に外すことができない選択肢になりつつある。すでに多くのベンダがクラウドのサービスを提供しており、そうしたサービスの多くは、コンピューティングリソースとOSプラットフォームをクラウドサービスとして提供するIaaS(Infrastructure as a Service)か、あるいはアプリケーションの機能を丸ごと提供するSaaS(Software as a Service)のどちらかの形態を採っていることが多い。

 しかし近年、この両者の中間に位置するものとして、ミドルウェアの機能をユーザーに提供するPaaS(Platform as a Service)が注目を集めつつあり、ガートナーでも「今後はPaaSの重要性が増してくる」と予測している。そこで今回は、@IT担当編集長 三木泉が、PaaSの最新事情に詳しいガートナー リサーチ バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト イェフィム・ナティス氏と対談し、PaaSの現状と未来像を占った。

2011年、PaaS市場が本格的に立ち上がる

三木 ナティスさんは講演やレポートの中で「2011年はPaaSの年」と述べていますが、具体的にはどのような状況を指して、そのようにお考えなのでしょうか?

ナティス氏 正確に言うと「多くのユーザーがPaaSを使い始める」という意味で「2011年はPaaSの年」と言っているわけではありません。それはまだ先の話で、恐らく2014年か2015年ごろになると思っています。ここで言っているのは、「インフラソフトウェアやミドルウェアのベンダが、PaaSの領域に参入し始める年が2011年だ」という意味です。

イェフィム・ナティス氏
米ガートナー リサーチ バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト

 2011年初頭の時点では、IBMやオラクル、SAP、Red Hatといった大手ベンダは、どこもPaaSソリューションを持っていませんでした。しかし同年末には、これらすべてのベンダがPaaSソリューションを持つことになります。

 それ以外にもさまざまなベンダが2011年、PaaSへのコミットを発表しています。このように、「PaaS市場が本格的に立ち上がり、ベンダ同士の競争が始まる」という意味において、「2011年はPaaSの年」だと表現しています。

三木 なるほど。では、これらベンダがこぞってPaaS領域に参入する動機とは、いったい何でしょうか? パブリッククラウドサービスのメリットとしては、一般的に、アプリケーションの規模を容易にスケールアウトできることや、プロビジョニングが容易になるといった点が挙げられます。しかしこうしたメリットは業務アプリケーション、特にミッションクリティカルなアプリケーションにとっては必ずしも重要だとは限りませんよね。

三木泉
アイティメディア @IT担当編集長

ナティス氏 確かにおっしゃる通りだと思います。しかし現時点では、先ほど挙げた各ベンダは、ミッションクリティカルなアプリケーションを抱える大企業ではなく、中堅・中小企業とISV(インターネット・サービスプロバイダ)をPaaSビジネスのターゲットに据えています。その上で、「PaaSは確かにビジネスとして成立する」という確信を抱いて市場に参入してきているのです。

 例えばオラクルのラリー・エリソン氏は、かつては「クラウドは儲からない」と公言していましたが、同社は今やクラウド市場に積極的に参入しようとしています。オラクル以外の多くのベンダも、かつてのクラウドに対する否定的な考えを変えて、クラウドビジネスに対して積極的にコミットし始めています。こうした動きの背景には、マイクロソフトがWindows Azureで大々的にクラウド市場へ参入したことが大きく影響しています。マイクロソフトがこれだけの動きを見せれば、競合他社もさすがに傍観してはいられなくなります。

三木 クラウドやPaaSに積極的に投資するベンダが増えるにつれて、そのほかのベンダも遅れをとるまいと追従しつつあるわけですね。

ナティス氏 その通りです。そうなってくると、小規模なPaaSベンダにとっては問題が生じます。大手ベンダが競合として市場に参入してくるからです。PaaSの主なユーザーはPaaSプラットフォームを使ってクラウドソリューションを構築するISVですが、彼らは多くの場合、小規模ベンダが提供するプラットフォームより、安心感の高い大手ベンダのプラットフォームを選ぶことになるでしょう。例えば、.NETを使った独自のPaaSを提供するApprendaという中小規模のベンダがありますが、マイクロソフトが直接PaaSを提供するようになった今、そのビジネスモデルは危機に瀕していると言っていいでしょう。

 このように、小規模なPaaSベンダは、これまでのようにはユーザーに自社のビジネスモデルの魅力をアピールできなくなってきています。その結果、彼らの多くは大手ベンダに買収されるか、もしくはクラウド関連のコンサルティング業務への転向を余儀なくされるのではないでしょうか。

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