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» 2011年08月28日 00時00分 UPDATE

情報マネジメント用語辞典:マスマーケティング(ますまーけてぃんぐ)

mass marketing

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 市場内ニーズの差異ではなく共通点に着目して、単一のマーケティングミックス(製品やプロモーションなど)を市場投入するマーケティングモデルのこと。特に、マスメディアを使った大規模な宣伝広告で需要創造や欲望喚起を行い、それに合わせた製品を大量生産して大量販売する方法としてイメージされる。

 市場に“空腹な人”ばかりがあふれているとき、“食べられるもの”を販売できれば、商売繁盛となるだろう。逆に食べものが満ち足りている市場では、メニューや価格、告知方法などをよく工夫しなければ、勝ち残りは難しい。マスマーケティングは、前者のような均質なニーズに満たされた市場に対して有効なマーケティング方法である。

 マスマーケティングは、第一義的には「かつて行われていたマーケティング手法」である。“マーケティング”という手法は、20世紀初頭の米国に生まれた。米国では、19世紀後半から鉄道網と電信網の整備が進み、地域ごとに分かれていた市場が次第に結合して、全国単一市場が出現しつつあった。これを見た一部の企業は大量生産・大量広告・大量販売を計画的に行い、新たに出現した大市場を独占・寡占した。

 市場の覇者となったのはP&G、コカ・コーラ、フォードなどの消費財メーカーで、大衆向け新製品の開発、メーカー主導による流通機構の整備、小売業者と価格の統制、宣伝広告の大量投入によるナショナルブランドの確立といった活動を行い、市場を制した。これらの企業活動が研究者によって理論化され、マーケティングの概念が形成されることになる。

 このマーケティング黎明期、ビッグカンパニーがブランドを確立するのは19世紀末から1920年代末までだが、この時期は大工場成立による生産性の向上、大量輸送手段の発展、通信やマスメディアの登場、大衆消費社会の成立などが続いた時代で、マーケティングの成功はこれらの社会的条件に支えられていたといえる。

 しかし、市場の変化や新技術の登場などによって前提条件が変われば、過去のマーケティング手法は時代遅れになる。例えば、「単一モデル大量生産戦略」で市場を制していたフォードに挑戦するGM(ゼネラルモーターズ)は1920年代半ばごろ、価格帯別(市場別)にブランドを分ける「フルライン戦略」、モデルチェンジを頻繁に行う「計画的陳腐化」を始め、やがてフォードを追い抜くことに成功した。

 このように市場をいくつかに分けて考え、個々に対応を変えるという方法は、時代を経るに従って広く浸透し、今日ではごく一般的なマーケティング手法となっている。市場細分化の体系的な理論を集大成したマーケティング論の大家 フィリップ・コトラー(Philip Kotler)は、著書『Marketing Management』(1967年)で細分化された市場に対する対応パターンとして「無差別型」「差別型」「集中型」の3つがあるとしている。

 細分化された市場ごとに適したマーケティングミックスを投入する「差別型」をターゲットマーケティングと呼ぶとするならば、細分化された市場の中から特定の市場だけに限定してマーケティングミックスを投入する「集中型」がニッチマーケティング、市場の差異を考慮せずに単一のマーケティングミックスを市場投入する「無差別型」がマスマーケティングということになる。コトラーは差別型を推奨している。

 他方、一般的なマスマーケティングの理解としては「マスメディアを使って大規模な広告宣伝を行い、ナショナルブランド製品を全国で売る」というイメージがあると思われる。このような大規模販売においても厳密には、市場細分化やターゲット市場の選定は行われており、きめ細やかなマーケティング計画の下に複雑なマーケティングミックスが投入されている。例えば、全国で売られているカップうどんは東日本と西日本で味付けが違い、同じブランドの自動車でも北国では寒冷地仕様が売られ、そもそも個人の好みで各種のオプション変更が可能になっている。

 マスマーケティングを「単一のマーケティングミックスを市場投入する」と定義するならば、かつて行われていたマーケティング手法だといえるが、「マスメディアで大量の広告を流し、ナショナルブランドを売る」と理解するならば、綿密な戦略に基づいて行われる大規模マーケティングとして現在でも行われいる。

 また、マスマーケティングをダイレクトマーケティングOne to Oneマーケティングと対にして語ることもある。これは、マスマーケティングは「個人化する顧客ニーズに対応できない」という評価に対して、ダイレクトマーケティングはそれが可能だとする軸による区分である。この対比は「需要創造的なマスマーケティング」対「需要探索的なダイレクトマーケティング」と見ることもできよう。

参考文献

▼『マス・マーケティング史』 リチャード・S・テドロー=著/近藤文男=監訳/ミネルヴァ書房/1993年4月(『New and Improved: The Story of Mass Marketing in America』の邦訳)

▼『マーケティング学説の発展』 ロバート・バーテルズ=著/山中豊国=訳/ミネルヴァ書房/1993年8月(『The History of Marketing Thought』の邦訳)


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