ITmedia NEWS >

トップ交代劇に思う“ソニーの目指す方向性”(2/3 ページ)

» 2005年03月09日 18時40分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 曲の管理手法はMDのそれを引き継いだもので、プレイリスト機能すらなく、大量の曲を扱うには向いていなかった。加えて、入力デバイスも数100の曲が並ぶリストから楽に目的の曲を見つけ出す事を想定しているとは思えない。

 だめ押しは、やはり厳しすぎる曲データの管理ポリシーだ。なにしろ、自分が購入したCDをリッピングしたデータまで暗号化せねばならず、チェックイン/チェックアウト管理が必要になる。このあたりは、初代メモリスティックウォークマン以来、ユーザーからもっとも批判を受けていた部分のハズだ。

 重たいキモチでインタビューに臨んだが、インタビューの結果はさらに失望するものだった。

 製品に関するインタビューで個人的に期待するのは、ある製品に対して疑問符が付くような仕様があったときに「それは全体のバランスを考えた上で、こうした理由からそうなっている」といった、開発を行っている側ならではの視点だ。ところが、その時のインタビューでは、どの質問に対しても何ら明確な視点は出てこない。将来、変えていく必要があるとのコメントもうかがえなかった。

 インタビュー後も、かなり細かな点をメールでやりとりしたが、結局、記事にすることは無かった。あまりに一方的にけなすだけの記事は、対象となるメーカーがどこであっても書きたくないものだ。その頃には、僕の中での疑問はハードウェアだけでなく、オンライン音楽配信(EMD)サービスを含むウォークマン周辺すべてに拡がっていた。明らかに失敗に見える米国のConnectサービスに固執する声や、日本でのEMDサービス立ち上げが成功しているかのような発言。

 だが、コラムの中でソニーのウォークマンに対する戦略を批判することはあっても、インタビュー内容を公表する気にはならなかった。

理想工場、どこへ

 おそらくだが、ソニー内部にはiPodの持っていた本質的な魅力に気付いている人物は多かったはずだ。なにしろ、朝一番に品川の本社に取材に行くと、ソニー社員の間では当たり前のようにiPodを使う姿が見られたのだから。ましてや、米国に大規模な拠点を構えるソニーの事だ。

 問題は自分たちがユーザーのニーズを満たせていないと気付いていながら、製品や製品を中心としたエコシステム(市場の共存共栄関係)全体を変えていこう、新しい時代の変化に応じていこう、という方向に向かえなかったことだ。

 ウォークマンの失敗に関しては、自社に利権があるMDにこだわりすぎだったという意見もあるようだ。確かにソニーは、交換式記録メディアにこだわりすぎた感はある。いち早くウォークマンの頭に“ネットワーク”を冠しながら、今回の状況に陥ってしまったのだから、現場の若い開発の意見が上の方まで十分に伝わっていなかったのではないか。しかし、それだけが原因でもないだろう。

 たとえばEMDの料金設定やチェックアウト数などのポリシーに関しては、何ら製品開発側からの意見を言える状態ではなかったようだ。本来なら、グループ企業として抱えるソニーミュージックと協議しながら、市場を拡大させるために必要な方針、枠組みを模索するのが本当のハズだ。それができなかった背景には、かつてソニーの繁栄を支えた功労者の意向があったと聞く。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.