世界の変化はいつもここから――WWDC 2015で見えた「ユーザー体験の高み」と「新たなエコシステムの芽生え」:神尾寿のMobile+Views(2/4 ページ)
2015年の「WWDC」のテーマとして掲げられたのは「The epicenter of change(変化の震源地)」という言葉だ。世界中のイノベーションとテクノロジーの「震源地」となったこの場所で、何が指し示されたのだろうか。
iOS 9の魅力は「日本のiPhone」では限定的?
次にiOS 9だが、こちらはiPhoneとiPadで、それぞれ見え方が異なるものになりそうだ。
iPhoneから見たiOS 9は、UIが従来よりさらに賢くなり、さらに生活シーンでのさまざまなユーザー支援機能が強化されたことが注目ポイントになる。
まず音声エージェント「Siri」では、自然言語の認識エンジンが強化されただけでなく、その時々の状況に応じて話しかけられた言葉の真意を解釈することが可能になった。デモンストレーションでは、メールを着信した際に「あとで教えて」といえばその内容がリマインダーに登録されたり、「去年の8月にユタ州に行った時の写真を見たい」と言えば、その写真がピックアップされるといった動作が紹介された。
またSiriの進化と合わせて発表された新機能が「Proactive Assistant」である。これはSiriや検索機能の利用履歴を学習・分析して、ユーザーが次に何をしたいのかを“先読み”するというもの。よく話す連絡先や利用頻度の高いアプリ、よく見るWebサイトなどが「SIRI SUGGESTIONS」として表示される。
こうしたOSのインテリジェンス化には、ユーザーの利用履歴を分析することが不可欠。となると個人情報保護の懸念も生じるが、「Appleでは個人情報保護はとても大切だと考えている。(ユーザーが特定されないよう)利用履歴の匿名化を徹底し、第3者に情報を提供・共有するようなことはしない」(クレイグ・フェデリギ氏)とのことで、同氏はビッグデータをユーザーの手の届かないところで転用したり、それ自体を商業化したりはしないと明言した。このあたりの姿勢は、OSやサービスを無償提供する代わりに個人情報を収集し、広告などで商業利用する競合他社と姿勢が異なるところだろう。
一方、iOS 9のアプリケーションでは、今回発表された主要なものがほとんど日本市場で使えないという残念な結果になった。
今回も大々的にフィーチャーされた「Apple Pay」は、全米の加盟店ネットワークや対応する電子決済サービスが大きく拡大し、Passbookがリニューアルして「Wallet」となるほどの進化を遂げた。しかし米国に続く対象国は英国のみであり、日本市場への展開は今回も見送られてしまった。決済サービスは加盟店開拓やカード発行会社との調整など難しい要因がいくつもあることは分かるのだが、iPhoneのシェアが圧倒的に高い日本市場にApple Pay導入が進まないのは残念なところだ。
また、新アプリの「News」と「Maps」の進化でも、日本市場が対象国から外されてしまった。
Newsはニュースアグリケーションサービスで、複数の媒体社から集めたニュース記事を、個々のユーザーに合わせて再編集して表示する機能を持つ。サービスのイメージとしてはFlipboardやグノシーなどが近いが、AppleのNewsではよりインタラクティブで美しいデザイン表現を重視している。このようなニュースサービスの需要は日本でも高いのだが、当初の対象国は米国、英国、オーストラリアの英語圏3カ国のみ。非英語圏の日本市場が早い段階で対応するかは、今のところ不明である。
News以上に残念なのは、Mapsの進化である。iOS 9のMapsでは、地下鉄など公共交通の乗換案内に対応したほか、一部では駅構内図までサポートされることになった。しかし、現時点で発表された対象都市は欧米と中国のみ。東京をはじめ日本の主要都市が入っていない。日本市場では公共交通の経路案内サービスや駅構内のデジタル地図の需要がかなり高いことを考えれば、Apple側の早期対応に期待したいところだ。
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