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インタビュー

スマホ特需が終わった2015年――2016年は「Apple Pay」が風穴を開ける?神尾寿が語るモバイル業界(1)(2/3 ページ)

スマートフォン黎明(れいめい)期のように、誰もが新機種の情報を求めていた時代は終わり、通信キャリアもスマートフォンの周辺領域の発表に力を入れつつある。モバイル業界に何が起ころうとしているのか?

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リーダー・ライターの更新期――日本でもNFC・Apple Pay導入へ?

―― おサイフケータイが尻すぼみになってきましたよね。

神尾氏 おサイフケータイの基本コンセプトや目指したビジョン自体は、間違っていませんでした。ただし、サービス開発やユーザー体験の構築の部分で、当時では技術的に実現困難であったり、迷走してしまったところが多々あったことは事実です。

 これまでを振り返りますと、ドコモがiモードで目指した世界観を、AppleのiPhoneがより洗練された形でグローバルで成功させた。iPhoneが切り開き、Androidが追随した「コンシューマー向けスマートフォン」の世界観は、驚くほど初期のiモードの企画と共通項があるのです。そう考えると、次に進む方向は、おサイフケータイ的な世界観でしょう。これは2016年以降に重要度を増していくと考えています。

 無論、現状でも日本のAndroidスマートフォンはおサイフケータイ機能を搭載しています。しかし、日本のおサイフケータイ自体は仕組みが時代遅れ。もともと2004年に、フィーチャーフォン向けに設計されたものですからね。日本独自仕様が多いですし、スマートフォン時代にゼロから開発されたものではない。だからこそ、おサイフケータイのコンセプトやヴィジョンを引き継ぎつつ、スマートフォン時代に最適化した「ウォレット」の登場に期待しているのです。Apple Payも、その有望な1つですね。

―― 先ほどからおっしゃっている“ウォレット”というのは、ポイントとか会員証的な使い方ですか?

神尾氏 決済と認証を軸に、ポイントや会員証、クーポンをはじめ、あらゆるソリューションを内包する「器」となるのがウォレットだと考えています。本来のおサイフケータイのコンセプトも、まさにそれでしたから。

 ウォレットサービスが登場し、そのプラットフォームが作られれば、スマートフォンのイノベーションは今まで違った形になっていく。例えば、最近なにかと話題の「Fin Tech」(FinanceとTechnologyの造語)分野も、スマートフォンのウォレット化によって飛躍的にその市場規模と分析精度が上がるのです。スマートフォンの登場によって、ゲームをはじめとするアプリ分野で「ゴールドラッシュ」がありましたが、ウォレット分野の潜在的な可能性はそれと同等か、それ以上だと予測します。人々の生活の根幹、社会インフラにまで根ざすものですから。

 日本はおサイフケータイのマーケティングと利用促進では成功しきれませんでしたが、他方で、同時進行で進めた電子マネーのリーダー・ライター(R/W)が普及していることからも、インフラを作ることはうまい。ウォレット分野に注力し、得意のインフラ構築力を発揮すれば、グローバルで見ても「先行市場」を作れるのではないかと期待しているのです。

―― ですが日本国内ではいまだApple Payは始まっていない。

神尾氏 日本は既に電子マネーのリーダーライターが普及していますし、Apple自身もリアルの決済サービス事業の展開は負担が大きいので、二の足を踏んでいる感じですね。しかし日本はiPhoneのシェアが大きいので、Apple Payが始まればそのインパクトは大きいですよ。

 スマートフォンのイノベーションは、今後は単体のハードウェアやアプリといった「スマホの中」ではなく、ウォレット分野をはじめとする社会インフラ的なプラットフォームやサービスといった「スマホの外」の部分で起きてくる。既にわれわれが突入しているスマホ普及後の世界では、軸足が変わるのです。

―― 確かにキャリアの発表会を見ていても、そう感じるときはありますね。スマホ自体の発表時間がだいぶ短くなりました。逆にポイントサービスの話が大きくなっています。

神尾氏 日本のクレジットカードの利用率はこの10年で大きく伸びましたが、民間の最終消費支出の約290兆円からすると、利用率換算だと18%程度しかありません。20%にすら届いていないので、クレジットカードだけではお金の流れを捕捉しきれない。ポイントやプリペイドの電子マネー、ポストペイのクレジットカードをうまく組み合わせていくことで、お金の流れをデジタル化して捕捉していく必要があります。さらに、これらだけでも捕捉しきれない部分は、会員証やクーポンなどで捕捉していく。2015年、ポイント分野での動きが活発化した背景には、汎用ポイントサービスは、クレジットカードとうまく相補完関係を築けるから、という理由があります。

―― お金の流れを捕捉するために使う?

神尾氏 消費者がどの場所で、どうお金を使っているか、それを捕捉するのは今後のビジネスでとても重要になるんです。スマホはその端末になる。しかし現状は、スマホ向けウォレットサービスの決定打がないので、磁気カードが現実的なソリューションとして使われているのです。

―― 日本ではポイントにしてもSuicaのような電子マネーにしてもカードを使う人が多いですよね。

神尾氏 カードは発行コストが安いですから。ただ日本の電子マネーのリーダー・ライターは使いやすくなっていて、他の国より早く導入が進んでいるので、既に更新期に入っているんです。

―― 更新というのは?

神尾氏 リーダー・ライターはPOSレジの入れ替えと同時に設備更新するケースが多いのですが、そのサイクルが7年程度のなのです。これは法定耐用年数と機器の保守契約の関係によるものなのですが、7年目になっているリーダー・ライターが2015年あたりから増えてきている。しかも既にリーダー・ライターの後期型と呼ばれるタイプは、FeliCaだけでなくNFCに対応しています。そのため現在および今後の機器更新で、グローバルのNFC対応したリーダー・ライターを入れる店は増えるはずです。日本の場合はNFC対応の機器を初めて導入するのではなく、これまで設置してあったリーダー・ライターを置き換えていく形なので導入しやすいのです。

―― 今のタイミングというのは、おサイフケータイ導入が進んだ2006〜2007年から数えると7〜9年ですね。

神尾氏 爆発的に電子マネー加盟店が増えていったのが、2006年から2010年くらいまででしたからね。また、初期の導入店舗も2回目の設備更新を行うタイミングになります。

 この7〜9年というタイミングで新しい技術を普及させるというのがとても重要で、リーダー・ライターはこれから続々と更新期に入っていくわけです。ここでNFCにも対応したリーダー・ライターに置き換わると、ソフトウェア更新だけでグローバルなサービスにも対応できます。

―― そのリーダー・ライターはグローバルと共通のものなんですか?

神尾氏 そうなんですよ。これも重要な点で、おサイフケータイが始まったときは、リーダー・ライターはFeliCa専用が中心で、これを必要とする国も日本やシンガポール、香港など一部の国だけでした。だから、とてもコストが高かった。しかしNFC対応のものは、Apple Payはじめアメリカや海外の市場でも使えますから、量産効果で安くなりやすい。

―― 投資・導入コストが抑えられますね。

神尾氏 さらにFeliCa対応のリーダー・ライターも安くなりますね。グローバルでFeliCa非対応のリーダー・ライターが安く売られていたら、競争のためどうしても安くせざるを得ないから。リーダー・ライターが導入しやすい環境になりますね。

 他国ではウォレットの導入をゼロからやるところがほとんどで、予測のつかない部分がありますが、日本は既に経験済みなのでなので予測しやすい。店頭でのオペレーションも確立されている。事業としての規模感もつかみやすい、というメリットもあります。だから早くApple Pay来いや!という(笑)。

―― だけどApple Payがなかなか始まりませんよね……。

神尾氏 AppleはApple PayのNFC部分をサードパーティーにSDKとして公開すればいいのですよ。日本にはサービスの開発実績もノウハウもあるわけですから。また、AndroidのFeliCa対応スマホはほとんどNFC対応しているので、Apple Payが始まれば、共通サービスも作りやすい。

―― 日本におサイフケータイが普及しているから、AppleとしてはApple Payを導入しにくい、と見ているのでは?

神尾氏 それもあって慎重になっているのは確かでしょう。Appleが全て自前でやろうとしても、後発ですから。他方で、日本の企業やインフラと「うまく組みたい」とも思っているはずです。

 Appleは、本質的にローカルのインフラ作りが苦手ですから。泥臭いビジネスは他社に丸投げする傾向が強い。だからiPhoneを売るときもMNOと組んで売る。キャリアは大量に買ってくれるうえ、構築が面倒な全国の販売網と対面サポート拠点を持っている。だからそこに任せたい。

―― 言われてみるとそうですね(笑)。

神尾氏 だからAppleはApple Payを日本でやるときは、おサイフケータイをやっている陣営と組むのではないかと予想しています。それがキャリアなのかイシュア(クレジットカード発行会社)なのかは分かりませんが、Apple単独ではやらないはず。FeliCaだって流通や大手の企業と組んでやっているわけですから。結局どこかでカード会社と組むのですよ。そして、既に整備済みのNFC対応のリーダー・ライターを、Apple Pay対応する。最新型であれば、これはソフトウェア更新でいける。だからApple Payが一度始まってしまえば、水平展開は早いと思いますよ。

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