サーベイ
Home News Enterprise +D Mobile PCUPdate LifeStyle Games Shopping Jobs
OPINION | TOPICS | マーケットニュース | Security | IT Premium | 用語辞典 | ケータイ・サービス
ブログ | Site Map | Ranking Top30
記事検索 ?
最新記事

コラム
2004/05/31 00:00 更新

e-biz経営学
ウェブ・ブラウジングにおける選択

インターネット・ユーザーがあるページを訪れて閲覧したあと、別のページに移動する…マーケティング・サイエンスの標準的なアプローチでは、これをユーザーの選択行動の積み重ねと考え、そこに個人差を反映させようとする。

 前回紹介した研究[1]では、ウェブ・サイトへの滞在時間が「べき乗則」にしたがうことが示されました。べき乗則は、数学的にきわめてシンプルで、自然現象から社会現象まで幅広く観察されるため、複雑系の研究においてさかんに取り上げられてきました[2]。ウェブ・ブラウジングの行動も集計するとそうした普遍的法則に従うのだとしたら、科学として大変美しい話のように思えます。

 しかし、マーケティングの研究者たちは必ずしもそう感じてはいません。もし消費者の行動が一種「必然的な」法則に支配されているなら、それをマーケティング活動によって変えることはできなくなります。しかし、マーケティングの研究者は、ウェブ・サイトや消費者の特性によって、消費者行動がどう変わるかに関心があります。消費者のウェブ・ブラウジングにおける意思決定をモデル化し、そうした変化をシミュレートしたいというのが彼らの願いなのです。

 さらにマーケティングの研究者は、集計された行動よりも、個々の消費者がどう行動するかに関心があります。マーケティングではセグメンテーション(顧客細分化)という考え方が非常に重要です。意識や行動パターンの違う顧客に対して、それぞれ効果的にアプローチしようというわけです。したがってモデルは、個人差を反映したものであることが望まれます。

 ウェブ・ブラウジング行動の分析についても同じことです。インターネット・ユーザーがあるページを訪れて閲覧したあと、別のページに移動する…マーケティング・サイエンスの標準的なアプローチでは、これをユーザーの選択行動の積み重ねと考えます。さらに、そこに個人差を反映させようとします。今回は、そうした方向性での典型例(あるいは模範例)といえる研究[3]を紹介しましょう。

 この研究では、あるページを訪れているユーザーは、たった2つの意思決定…「そのサイトに留まるか(=サイト内の別のページに行くか)退出するか」と「あるページにどれだけいるか(時間)」の決定…を行うものとみなします(なお、「どのページに行くか」は考えません)。そしてこの考え方にそって、ある商用サイトの1カ月のログデータを、個人差を考慮して分析します。その結果から全ビジター共通の傾向としてわかったのは…

1)過去にそのサイトを訪れた回数が多いほど、閲覧の経路は短くなる

 過去に何度もそのサイトを訪れている人…つまりリピーターほど、現在のページからサイト内の別のページに進む確率が相対的に低い。すなわち、そのサイトに来て閲覧する平均ページ数が少ない、ということです。これは[1]で示された「習熟」の効果に他なりません。何度もそのサイトに来るうちにサイトの構造を把握し、目的とするページに速やかに向かうことができるようになったのでしょう。

2)過去そのサイトを訪れた回数は、各ページを閲覧する時間に影響しない

 [1]では何度も訪れた人(リピーター)ほど閲覧時間が短いと報告されていますが、そこでは閲覧経路の長さ(ページ数)とページごとの閲覧時間が分離されていませんでした。今回示されたのは、閲覧経路は短くなるが、ページあたりの閲覧時間は短くならないということ。つまり、習熟が起きるのは閲覧経路の選択スキルであって、各ページからの情報取得スキルではないということです。

3)そのサイトで閲覧するページが多いほど、閲覧の経路は短くなる

 ユーザーはいろいろなページを見るうちに、そのサイトから離れる確率が高まっていきます。当たり前といえば当たり前ですが、消費者がインターネットを使う上で時間の制約があるということです。

4)そのサイトで閲覧するページが多いほど、ページごとの閲覧時間が長くなる

 長く閲覧してきたユーザーは基本的には退出しがちなのですが、それでも退出しない人たちは、その後各ページを長く見るようになります。退出しないで残っている人々は、そのサイトにロックインされていると考えられます(あるいは探索の結果、目的とするより深い情報に到達している可能性もあります)。

 少し整理すると、この研究が[1]より進んでいるのは、サイトへの滞在時間を閲覧経路の長さと各ページの閲覧時間に分解し、それぞれ異なる効果をもたらすことを見出したことにあります。また、具体的な内容は省略しますが、マーケターに操作可能なページの特性も説明変数に含めることで、どのようなサイトのデザインがブラウジング行動に影響するかの分析を可能にしていることも特徴です。

 このようにマーケティング・サイエンスの標準的アプローチはなかなか強力ですが、限界もあります。たとえば、行動をすべて、その時点で入手可能な情報に基づく主体的な意思決定として扱うことに無理がある場合もあるのです。これを解決することはそう簡単ではなく、現実には様々なアプローチを併用して多面的に問題に接近するしかありません。

参考文献:

[1] Eric. J. Johnson、 Steven Bellman & Gerald Lohse、 Cognitive Lock-In and the Power Law of Practice、 Journal of Marketing、 Vol. 67 (April 2003)、 62-75.

[2] ポール・クルーグマン(北岡行伸、 妹尾美起訳)『自己組織化の経済学』東洋経済新報社、 1997年.

[3] Randolph E. Bucklin and Catarina Sismeiro、 A Model of Web Site Browsing Behavior Estimated on Clickstream Data、 Journal of Marketing Research、 Vol. XL (August 2003)、 249-267.

Copyright c 2003 Makoto Mizuno. All Rights Reserved.

[水野誠,筑波大学]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

この記事についてのご感想 【必須】
役に立った 一部だが役に立った 役に立たなかった
コメント
お名前
メールアドレス

サーベイチャンネルは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、ソフトバンク・アイティメディアの他、サーベイチャンネルコーディネータ、及び本記事執筆会社に提供されます。


記事検索 ?
@IT sbp 会社概要 | 利用規約 | プライバシーポリシー | 採用情報 | サイトマップ | お問い合わせ