小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
AI開発に黄色信号? 市場急成長で“学習用データ枯渇”の懸念 解決策といわれる「合成データ」とは何か(2/4 ページ)
22年に発表されたある論文では、現在のAI開発の傾向が続けば、26年までに高品質のテキストデータが枯渇すると予測している。また、低品質の言語データは30~50年の間に、低品質の画像データは30~60年の間に枯渇すると推定している。
そこで合成データの出番というわけだ。合成データは既存のデータセットを補強し、多様なサンプルを生成することで、この問題に対応する。特に画像認識のような大量のラベル付きデータを必要とするタスクで有効という。合成データによって、手動でのデータラベリングにかかるコストと労力を大幅に削減できるためだ。
“実在しない人物”のデータの価値
合成データは、データの枯渇という問題だけでなく、特定の分野や領域に特化した課題にも対応できる。例えば、大規模言語モデル(LLM)は多くの分野で優れた性能を発揮しているが、医療などの特殊な分野では、回答品質を維持するのに苦戦することがある。
医療データは、個人情報保護の観点から公開されにくく、AIの学習に利用できるデータが限られているためだ。このような制約によるデータ不足は他の分野でも見られている。GDPR(EU一般データ保護規則)など各国の規制により、今後も個人情報を含む実際のデータの共有は厳しく制限されると考えられている。
しかし合成データであれば、前述のAMLの事例のように、実データを参照しつつプライバシーに配慮した形でデータを生み出せる。生成したデータは、本当の人間が生み出す行動や症例などのデータにそっくりでありながら、その「人」は実在しない。このため合成データは、プライバシーに敏感な分野でも、現実的かつ人工的なデータを作成することで、専門的なAIモデルの学習を可能にするのだ。
さらに仮説的なシナリオや、発生頻度の低いシナリオの実現も、合成データの重要な利点だ。研究者は合成データを生成することで、実際のデータには十分に表れていない仮説的なシナリオやレアケースを作成し、AIモデルの性能を確認できる。これは、AIシステムの堅牢性をテストし、異なる条件下での結果を探るのに有益となる。
これらはデータ不足という観点から合成データが求められる理由だが、それ以外にも、合成データの必要性を高めている理由がいくつか存在している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia AI+に関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「ほんだし」のラベルがAIでぐちゃぐちゃに…… 味の素、公式Xの投稿画像について謝罪
-
2
人型ロボが“人間超え”――助走なしで高さ2mのジャンプ、時速45kmで走行も 中国Unitreeが開発中の新モデルを公開
-
3
現役組み込みエンジニアがAIを業務利用して分かったこと――期待と限界と現実解
-
4
なぜ「純国産AIは無理」なのか? さくらとSakana AIが示す「ソブリンAI」の現実解
-
5
「データがない」「スキルがない」「発想が広がらない」 味の素冷凍食品は“3つのない”をどう解消した?
-
6
「Claude」の“見えない透かし”、Anthropicが仕組みを説明 「完全な書き直しなら消える」
-
7
なぜ「相場の半額」にできた? 「ヒューマノイド界のトヨタ」目指すZEALSの“したたか”な戦略
-
8
Claude、Codex、Qwen……そのAI用語、どう読む? 読み方クイズ30問
-
9
「MicrosoftよりGoogle」で6億円削減も? 舞鶴市、千代田区が明かすIT刷新とAI活用の成功法則
-
10
NVIDIA、OpenAIのオハイオAIデータセンターに最大1050億ドルの債務保証──SB Energyと提携
SpecialPR
ITmedia AI+ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmedia AI+をフォロー
あなたにおすすめの記事PR